彼にできるのは、目の前の状況に対し、瞬間的に対応すること、
ただそれだけだった。

一機が鉾槍を振り下ろすのを、踏ん張りの利くほうの足を使って後方へと飛びのき、
すんでのところでかわす。

息をつく間もなく、二機目が剣の一突きを繰り出してくるのを、今度は横転で何とか避ける。

次は?さすがに逃げ切れないかもしれない。どうする?

そう思った途端、再びイアンの頭の中に、姉から聞かされた言葉が蘇った。

『だめだと思ったらそこで終わりよ。できると信じるの』

三機目も剣で、今度は足を横なぎで狙ってきた。
手近にあった木を両手でつかんで体を支え、動くほうの足で飛び跳ねてしのぐ。

四機目は最初に横をすり抜けた相手で、またしても鉾槍で一撃を
食らわせようとしてきた。

イアンは次の瞬間の自分の機巧鎧の動きを想像する。

思い切り横っ飛びをし、射程内から離脱することがで回避した。

『どういうことだ?さっきと動きが違う』

『ふざけた真似をして、我々を愚弄する気か』

わざと聞かせようとしているのか、それとも気づいていないのか、
敵機士が発する声は機巧鎧の外まで響き渡り、逐一イアンの耳にも入ってきた。

イアンはふざけてなどいなかった。
目の前の敵の攻撃に反応することに、ただ夢中なだけだった。
ほんのわずかな間に、操縦席の中の彼は息を荒げ、全身汗まみれにしていた。

瞬時に移り変わる状況に対し、最善と思われる自分の動きをただ思い浮かべるだけだった。

イアンの機巧鎧は手近ない地にあった木につかまり、体を支えた。

『ブルーノ、レクター、後ろに回り込め。四方から包み込んで動きを止めろ』

『了解』

ひとりの機士の言葉に合わせ、四機の機巧鎧のうちの二機が散開した。
残りの二機はそのままイアンに向かってきた。

斜面の方を右手に見る形で立っていたイアンの機巧鎧は、
木から木へと渡るようにして、後ろに下がっていった。