少女の今いる位置はちょうどイアンの背後にあたり、敵の視界を遮る形になっているはずだった。
イアンは少女が自分の真後ろにいることを意識した。
自分が機巧鎧に乗ってではなく、自らの二本の足で地面に立ち、
少女を背中でかばっているような感覚を覚える。

『数はこちらが多い。油断さえしなければ大丈夫だ。早く捕らえて、中を確認するぞ』

『はっ』

敵機が武器を構えたまま、一斉にイアンに向かって足を踏み出してきた。
それを見たイアンは、反射的に操縦席の背に体を押しつけた。
すかさず機巧鎧もそれに反応し、後ろに下がる素振りを見せる。

だめだ。

後ろにはあの子がいる!

イアンはあわてて体を前に出すようにして、背を浮かせた。
機巧鎧は後ろに下がることなく、その場に踏みとどまる。

ここからは一歩も下がれない。

イアンは自分に念押しするように言い聞かせた。

このまま下がれば、少女を機巧鎧の足で踏み潰してしまうかもしれない。
そんなことが許されるはずがない。

敵機は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
間もなく、武器の射程内に入るだろう。

どうすればいい?

どうすれば―――――

頭の中が真っ白になる。
続いて取った行動は、彼自身も予測しないものだった。

イアンは真正面にいた敵機に向かい、自分から突っ込んでいた。

だがすぐに、自身の機体の違和感に気づく。

姿勢が安定せず、上体がぐらついたことで、
機体の右足の自由が利かないことがわかった。

咄嗟にイアンは機体を前転させ、敵機の横をすり抜けた。

『こいつ、何て真似を!』

『逃がすな!』

敵機士のあわてた声が夜の森に響き渡った。
イアンは立ち上がりながら背後を確認し、四機の敵機が武器を振り上げて彼のほうに殺到してくるのを見た。

もはや何も考えられなかった。