想像しろ。
イアンは己に言い聞かせた。
想像しろ。
この機巧鎧が動いているところを。
あの子を守って敵と戦うところを。
想像しろ。想像しろ。想像しろ!
イアンの気持ちに応えるように、機巧鎧が立ち上がった。

『あいつ、動いた!?』

イアンの頭の近くにあった管から、敵機士の声が響いてきた。
どうやら外の音を拾って、その管から中に流す仕組みになっているらしい。

「よし、次は!?」

操縦席の中で、イアンは叫んだ。
立ち上がっただけで喜んでいるわけにはいかない。
こうしている間も敵は間近にせまっている。

左だ。左を向くにはどうしたらいい?

イアンは左右の棒を振るように、軽く動かしてみた。機体の反応はない。
ならば、と強く動かしてみる。それでも動く気配はない。
どうしたんだ、とあせりが募る。

この棒を使って動かすのではないのか?

『どうしたんでしょう?あいつ、立ち上がったきり、動きませんが』

『何かやってくる気かもしれない。油断はするな』

敵機士同士の会話が聞こえてきた。イアンのあせりがさらに増す。

ええい、動けというのに!
左を向けばいいんだ!こう!

イアンは実演してみせるかのように、操縦席の中で自分の体をひねった。
すると機巧鎧がイアンの動きに合わせるかのように反応し、機体を彼の望んでいる方向へと向けた。

どうやらそうするのが正解だったらしい。
機巧鎧というのは、中に乗っている人間の体の動きを感知して動くものなのだろうか?

ようやく機体ごと左のほうを振り向いたイアンは、敵の機巧鎧が四機、
横一列に並んで身構えているのを確認した。

いずれも鉾槍(ハルバート)や剣などの武器を構えており、
今にもこちらに向かってきそうな勢いだった。

距離はかなり近い。危ないところだった。
もう少しもたついていたら、あっさり捕まっていたかもしれない。


それに――――――――――


あの子が見つからないようにしないと。