操縦席からは、扉の一部を透かして外の様子を普通に見ることができた。
機巧鎧の中にいる機士が視界をどうやって確保するのか、不思議に思ったこともあるイアンだったが、これなら心配はいらないようだ。

敵の機巧鎧が足早に接近してくる音が耳に入った。
急がないと、少女まで見つかってしまう。

イアンは両方の足を踏み板に乗せ、同時に左右の開いた穴に手を差し込んだ。
穴の中にある棒をつかむと、ぴたりと両手になじみ、まるで自分のためにあつらえられたかのような心地よさを感じる。
自分は以前にもこの感覚を味わったのでは?という既視感に、束の間とらわれた。
そんなことがあるはずはないのだが。

このとき、彼の脳裏を、六年前に離れ離れになってしまったエミリアの言葉がよぎった。
『いいこと、イアン。困難に打ち勝つのに必要なのは、自分がどうしたいのか想像することよ』
どのような状況でいわれたのか、今となっては詳しいことは思い出せない。だが姉のその言葉は、
今の自分がすべきことを何よりも的確に言い表しているようにイアンは思えた。