このまま機巧鎧のそばにいたら、すぐに見つかってしまう。

かといって、少女を抱えたまま、走って逃げ切れるとも思えなかった。

少女を置いてひとりで逃げるという選択肢は、イアンの中にはない。

どうすればこの子を助けられるだろうか?

彼の頭の中は、そのことで占められていた。

もう一度、少女の乗っていた機巧鎧を見る。

自分がこれに乗れれば……

そんな考えがイアンの頭をよぎった。

自分がこの機巧鎧に乗って、別の方向へ逃げれば、敵の注意を少女からそらすことができるのではないか?

無理だ。そんなことできるはずがない。

イアンは脳裏に浮かんだ考えを、急いで振り払おうとした。

その瞬間、機巧鎧の顔の部分にあたる目が光り、それに合わせて機体がかすかなうなりをあげた。

イアンは驚き、わずかに体をのけぞらせた。

今の反応は何だ?

まるで機巧鎧が自分の考えを読んで、それに同意したかのような―――

イアンは動揺し、それを抑えようと奥歯を強く噛み締めた。心の中でふたつの感情がせめぎ合い、たちまち激しい葛藤を引き起こす。乗るしかない、という気持ちと、乗れるわけがない、という気持ちと。

根本的な問題として、どうやって動かせばいいのかわからなかった。戦闘奴隷として、しばらく主人のアルバートの供を務めたイアンだったが、その間主人がどのようにして機巧鎧を動かしていたのかを実際に目にすることはなく、話を聞くこともなかったため、具体的な手順がまるで思い浮かばなかった。

これではどうにもならない、とかぶりを振ったイアンは、ふと右の掌に、ほのかな熱を感じた。視線を落とすと、例のペンダントが熱を帯び、おぼろげな光を放っているのがわかった。

イアンはペンダントと、機巧鎧の顔を交互に見た。ふたつの光は同期しており、同じ感覚で明滅を繰り返している。

どういうことだ?

もっとよく見てみようと、イアンがペンダントを目の高さまで持ち上げた、そのときだった。

突然、目の前にある機巧鎧の右腕が動いた。

「えっ?」