決して油断していたわけではない。

今いるのが戦場だということを、忘れたわけでもない。

しかし彼女は、自分の考えに、少しばかり夢中になりすぎていた。

だから周囲の異変を察知するのが少しだけ遅れ、気づいたときにはもう後の祭りだった。

いつの間に接近したのか、エシュリオンの周囲を、オルガンド軍のアームネインドラードが数機、気配潜めるようにして、併走していた。

「この機体……まさか、突撃機(ランサー)?」

ざわ、とフランシスカの全身に悪寒が走る。左右を見回し、視界に入る範囲に四機の姿を確認した。エシュリオンの性能はドラードを上回っているはずだが、一対四というのはあまりに不利だった。フランシスカは自分の実力を過信しなかった。この場は逃げるしかない。だが、ランサーが相手となると厄介だった。アームネインは用途に応じて突撃機(ランサー)、重装機(ヴァンカー)の区別があり、同じライオットやドラードであっても、ランサー仕様とヴァンカー仕様とでは、見た目も性能もだいぶ異なる。敵軍への切り込みや追撃を行うことを主目的として調整されたランサーは、とにかく機動性に優れているのが特徴だった。乗っている機士の能力によっては、どれほどの性能を叩き出すかわからない。さしものエシュリオンといえど、簡単に振り切れるとは――
大丈夫、やれる。フランシスカはかぶりを振り、自身の内に芽生えかけた弱気を打ち消した。

こんなところで足止めされてたまるものか。

少しでも早く、兄様の下へ行かなければ。

彼女は両足に力をこめた。エシュリオンの走る速度がさらに上がり、横にいた敵機の位置がたちまち後ろに下がっていく。

どうやら加速面に関しては、エシュリオンに分があるようだった。

これなら何とかなるか、とフランシスカが思った、まさにそのときだった。

突然耳元で轟音が炸裂し、視界が閃光に塗り潰された。