その後は行く手を遮る兵に出会うこともなく、ふたりは通路を奥へと進んでいった。何度も角を折れたり、階段を降りたりしているうちに彼らがたどり着いたのは、巨大な地下水路だった。床から天井までの高さはアームネインが立って歩けそうなくらいで、横幅も、数名の兵が並んで歩けるほどである。石と煉瓦で全面が固められており、今はふたりのすねの半分あたりまでの深さの水が流れていた。先々に一定間隔で松明が灯されていたため、薄暗くはあったものの最低限の視界は確保されている。

「この先にバーナビーが待っていて、そこまではわしの部下が姫様をお送りすることになっていたのだが」
水を蹴立てて走りながら、ファウラーはヴィクトに説明した。ここまで既にかなりの距離を疾走してきている。しかも、立ち塞がるバーナビーの兵を斬り伏せたり、そもそもその前からアームネインに乗ってオルガンド軍と戦い続けていたということもあって、老将の肉体はもはや限界に達していた。体が悲鳴をあげているのがわかったが、それでも走るのを止めはしない。フランシスカを助けねばという一念で、彼は己の体を叱咤し、足を動かし続けた。

「ファウラー閣下、あれをご覧ください」

ヴィクトが前方を指差した。ファウラーの目に、誰かが松明の下で、壁に背を預ける形で座り込んでいるのが映った。

「あれは……!」

ファウラーとヴィクトは足を速め、座り込んでいる人物の下へと近づいていった。

「やはり……ダノン卿、しっかりなされよ!」

そこにいたのは、王国の財政管理を司る財政総監の地位にあった貴族、ダノンだった。事務処理能力の高さと清廉な人柄で知られており、キンゲイド四世亡き後は人材難のあおりを受けてさまざまな業務を兼任していた。事実上宰相に近い立場にあったともいえる。ファウラーがフランシスカと共に、王城から逃がそうとしていた人物でもあった。