夜陰に乗じて出現した敵のアームネイン部隊は、先頭にいた一機が片手を挙げて合図するのに合わせて散開し、周囲にいたリュクサリア王国軍のアームネインに次々と襲いかかった。

森は大混乱に陥った。

巨大なアームネインが高速で動き回り、そこかしこで斬り結ぶ。機体同士が激突して生じる甲高い音や、木々に衝突して発せられる鈍い音、そしてそれらに混じって発せられる人の悲鳴や叫び声が、一斉に湧き起こってイアンの耳を圧した。アームネインが戦っている間を、大勢の戦闘奴隷たちが必死に逃げ惑う姿が視界に飛び込んでくる。

戦いを本分とする機士を補佐し、身の危険を顧みずどこまでも付き従う。時には自らも武器を取り、機士と共に敵に立ち向かう。それが戦闘奴隷の役目だと、イアンは聞かされていた。

しかし、アームネインの圧倒的な力の前に、生身の人間はあまりにも無力だった。攻撃を当てたところで、傷ひとつつけれるとも思えない。それどころか、そばに近寄るだけでも命がけだった。現にイアンの目の前で、戦闘奴隷たちが次々と、走り回るアームネインに蹴散らされ、踏みつけられ、冷たい地面に身を横たえ動かなくなっていく。

先頭の一機は周囲を睥睨するように見渡していたが、不意にイアンのいるほうに顔を向けた。

アームネインの頭部、顔に当たる部分に穿たれたふたつの穴から覗く目が、きらめきを帯びる。

それを見た瞬間、イアンはアームネインの中にいる、姿の見えない機士の放つ殺気を感じ取った気がした。