「敵襲!」
「オルガンドが襲ってきたぞ!」

悲鳴にも似た叫び声が次々に聞こえてきて、イアンのいた周辺一帯もたちまちのうちに騒乱のただ中に叩き込まれることになったからだった。
「敵襲だと……」

男は信じられないといった口調で呟くと、自分の主人のいるほうに向かって走っていった。
「馬鹿な、もう数日かかるのではなかったのか?」

アルバートが天幕からあわてた様子で飛び出してきた。
「イアン!すぐに出るぞ。手伝え!」

イアンに向かってそう命じるなり、アルバートは天幕の傍らに置かれていた巨大な物体に走り寄り、前面の扉を開けて中へと飛び込んだ。
「早く閉めろ!」

アルバートに怒鳴られ、イアンは自分も急いでその巨大な物体のそばへ走っていくと、アルバートの開けた扉を外側から閉め、彼の姿を隠した。

途端、巨大な物体が小刻みな振動を開始する。

イアンが急いで飛びのくのと、それが動き出したのはほぼ同時だった。

イアンの目の前で、その巨大な物体は大地を踏みしめるように立ち上がった。

それは異形だった。二本の足と二本の腕、頭部を持つさまは人間とよく似ているが、身の丈は優に倍を超える。全身を金属の装甲で覆われており、見た目は大きな甲冑そのものといえた。内側には筋肉と血管の代わりに無数の部品の組み合わせからなる精巧な機械式の機構が詰まっており、胴体にあたる部品に乗り込んだ操縦者の意思に応じて稼働する仕組みとなっている。
機械じかけの巨大兵士。

それが機巧鎧(アームネイン)と呼ばれる、異形の正体だった。