一年のはじめの静かなひととき。
突然やってきたシェフが……。
料理人:セシル船長ーーーーっ!
セシル:なんですか、騒々しい。
料理人:あのヒトが…あのヒトがっ!
セシル:???
料理人:うわぁぁぁぁんっ!!!
セシル:???
執事:いかがなさいましたか? ただ泣いていても、私もセシル様も、分かりませんよ?
$海賊船レーゾンデートル号航海日誌
執事:あのヒトというのは、大変美しいという例のあのヒトですか?
セシル:ああ……後姿から察するに、おそらくはカズサだろうと私が言った、あの…。
料理人:そうですぅ……来てくれたんですぅ…
セシル:それは喜ばしいことですね。
料理人:うわぁぁぁん、違うんです…見てください、この写真っ!
$海賊船レーゾンデートル号航海日誌
執事:よけいなものがたくさん映り込んでいますね…それだけ気が動転していたという証拠でしょうが…
セシル:…また、後姿しか撮れなかったんですか……。
料理人:違いますよぉ、よく見てくださいっ
セシル:?
執事:?
料理人:あの美しいヒト、カフェで唯一のカップル席に座ったんですよぉぉぉ。うわぁぁぁぁん…。
セシル:………店員で隠れてよく見えませんが、向かいの客は男性?
料理人:そうなんです…しかも、二人で揃って、同じピザを注文して食べて行ったんです………。
セシル:………。
執事:二人で向かい合って座って、同じものを食べて行ったとなると、やはり…そういうことなのでしょうね…。
セシル:いや…しかし……この男の顔、私が知っているカズサの恋人とは違うような…。
料理人:帰って行くときは、二人とも楽しそうに歌まで口ずさみながら帰って行ったんですよぉ…うぅぅぅ。ん? 恋人? セシル船長、今、恋人と言いましたか?
セシル:えぇ…、もしも、この後姿が私が会ったことのあるカズサならば、ですけれどもね。日々、枕を並べている恋人がいるはずですよ。しかし、相手の男はもっと…少なくとも、この写真の男とは別人のはずですが…。
執事:ということは、この後姿の美人は、カズサさんではない、またはカズサさんは浮気をしていらっしゃる、ということでしょうか?
セシル:口を慎みなさい。浮気と決まったわけではないでしょう? 恋人のいる女性でも、知人や友人と食事をする機会は、ありますよ。
執事:申し訳ございません。そうですね…。
料理人:そうか、あれだけの美人ですから、いい寄る男はたくさんいますよね? 友達も、多いかもしれない…。
セシル:……そういうこともあるかもしれませんね。
料理人:そうかっ! なあんだ、そうですよね。カップル席に座って、笑い合って同じものを食べたからといって、恋人同士とは限りませんよねっ!!!
セシル:………。
執事:………。
料理人:いやぁ、ありがとうございます、セシル船長。お騒がせしました。
セシル:………。
執事:………。
こうして、シェフはどこか晴れ晴れとした顔で、カフェへ戻って行った。



セシル:………。
執事:セシル様? いかがしました?
セシル:いや……カズサには恋人が居ると言ったはずでしたが…。
執事:くす。うまく友人にすりかわったようですね。盲目になっている時は、そんなものです。
セシル:しかし……私の知るカズサの恋人は、自分の女が他の男と食事をすることを許容しないタイプなんですけどね…。
執事:では、彼女は恋人には内緒で?
セシル:そういうことのできる女性ではなさそうですが……同じ髪型の女性は、他にもいるかもしれませんね…。
執事:クリス殿に確認しますか?一番顔の広いのは、彼ですが…。
セシル:そこまでする必要はないでしょう。ところで、島の報告はこのところありませんが、どうなっています?
執事:おっと…矛先が私に…。
セシル:宝石集めは終わりましたか?
執事:はい。今は、穴掘りの日々です。
セシル:穴掘り?
$海賊船レーゾンデートル号航海日誌
執事:はい。このような作業をしております。セシル様の別荘を建てるには、いましばらくかかりますので、ご容赦を。
セシル:いいでしょう。
執事:では、島へ戻らせていただきます。