プロメテウスは地下シェルターの研究室で一人佇んでいた。
保存機体の表面は透明な強化ガラス張りになっており、中の様子は外からもしっかりと確認できるようになっている。
保存機体の中には生物の肉体組織を長期間保存可能な液体が満タンで入っており、その中央には、機械仕掛けの触手が何本も突き刺さった桐生要の「生首」が浮かんでいた。
今の桐生要には一切の音が届かないことを知っていながら、プロメテウスは「生首」へ向けて喋りかける。
「要様の大事にされていたパソコンは、残念ながら修復不能になってしまいました。しかしご安心ください。バックアップはメインサーバーにしっかりと保存してあります...それから要様の首から下の身体についてですが、生前の計画通り、今は冷凍保存状態にて管理しております」
彼女は死んだ桐生要から受ける命令などは忠実に守るようにしている。
これは桐生要のプログラミングによる縛りではなく、彼女が自分の意思でそうしているのだから驚くべき状況であった。
「...今は話しても聞こえるわけもございませんが、人間になったわたしは、早く要様と肉声で会話をしたく...」
プロメテウスが急に口を閉ざして首を小さく横に振る。
「人間とは、無意味な行動で費やすものなのですね...この人間的思考は不思議に満ちてございますね...」
「バンッ!」
「プロメ~ッ♪シャワーを浴びて来なさいよぉ!」
しんみりとした静かな研究室のドアが大きな音を立てたかと思うと、黒川から与えられたノルマを早々と片付けた環奈がやって来た。
「シャワー?でございますか?」
「そうそう、宗ちゃんの料理ができあがっちゃう前にチャチャッと身体の汚れをを落としてきちゃいなよ~」
「わたしは大丈夫でございます。統計によればシャワーを浴びなくても死ぬことは九分九厘無いようですので...」
「ったく~、せっかく見栄えの良いかわい子ちゃんになったていうのに勿体無い!年頃の若い娘は身体を綺麗に保つことこそ最優先事項って相場が決まってるの!」
「そ、そうなのですか...しかしデータによれば...」
「ああもうじれったい子だわねぇ!」
環奈が素早くプロメテウスに近づき華奢な身体をお姫様抱っこしてしまった。
「よし!お姉さんがシャワーの浴び方を手取り足取り教えてあげるかんねぇ♪」
「えっ!?本当に大丈夫でございますよ環奈様!頭にシャワーの浴び方のマニュアルも入っておりますので!」
「うっさい!そんなマニュアル聞いたこともないわ!シャワーの浴び方ってのは人それぞれ好きにするものなの!」
こうして環奈に無理矢理浴室へと連れ去られたプロメテウスであった...