パソコンに接続してあるスピーカーから、プロメテウスの冷静な声で緊急事態が告げられる。

「要様、緊急事態でございます。たった今屋敷の庭へ20人ほどが侵入した模様、なお、外の監視カメラは全て破壊されました」

 内容はまさに緊急事態そのものであったが、プロメテウスの可愛らしい声で淡々と告げられると逆に桐生要は落ち着くことができた。

「20人か...これはただ事じゃないな...」

 桐生要は立ち止まり腕を組んだまま一考する。

 前にも説明したが、この屋敷は自然あふれる山の麓のひっそりとした場所に建てられており、近隣には人の住む家や別荘は一軒も見当たらない。しかし、歴史ある桐生家の屋敷を知らない地元民はいないほど有名であり、いくら桐生要が努力して情報発信をせず引き篭もろうとも、桐生家自体は世間の富裕層にもはある程度知られてしまっていた。
 だから年に1、2回は金目の物を盗もうと侵入者が現れたものだったが、同時に現れた侵入者の数は最高でも四人組の窃盗団であった。
 そう考えると20人という数はあまりにも大人数であり、ずば抜けて頭の回転が速い桐生要でも数秒固まってしまったものである。

「ただの窃盗団にしては数が多すぎる。しかも冬春が不在のこのタイミング...監視カメラの場所も把握されていたようだな...プロメ、下にいる二人には知らせてあるのか?」

「はい、要様へのお知らせと同時に下のお二人にもお知らせしてございます」

「よし、じゃあたぶん大丈夫だな。僕は僕で自分の身を守ることに集中しよう。プロメ、もしもの場合に備えて例の計画もよろしく!」

「かしこまりました」

 20人もの侵入者があるというのに下の二人は「たぶん大丈夫」と言った彼の言葉はとても信じられなかったが、このあとの黒川宗一郎と諸星環奈のとった行動はその言葉を裏付けることとなる。

 桐生要はプロメテウスとの会話を終えると即座にデスクの引き出しを開け、日頃あまり手入れをしていない銃を取り出し慌てず弾丸を込め出した。

 一方、一階では。既に数人は玄関正面のドアを破壊し屋敷内へと忍足ではなく派手に駆け込んでいた。これではまるで戦争状態である。

「宗ちゃん!ニ階に行かせちゃ駄目!一階で絶対食い止めるよ!」

 どこから取り出したのかメイドの環奈の手にはモデルガンなどではなく、本物のサブマシガンが握られていた。これだけで彼女がただのメイドでないことが存分に窺える。

「無論です」

 執事で料理人でもある黒川が冷静沈着に応えた。環奈と歳の掛け離れている彼もまた背中にライフル、両手にピストルといった重装備を既に整えていた。