ヤマケット20で即売予定の同人誌「宇宙戦艦ヤマト2204-2206 -The Another Story of Final YAMATO」の冒頭部を公開します!

まずは、プロローグです、、、


西暦二二〇四年九月。

地球連邦防衛軍所属ヤマト級二番艦ムサシは、単艦で極秘任務に就いていた。

ムサシは、ヤマトの準同型艦であり、船体構造はほぼヤマトと同一である一方で、艦橋構造物等は大きく異なる。三段構造で、最上階が研究室、中段が操艦室、下段が観測室となっており、最下段は視界が広くとれるよう、ステンドグラス風になっている。またその艦橋の最上部には、後方へ向けて伸びる艦載機の着艦スペースがあるのも特徴的である。第三艦橋部分も、下方へ視界が広く開けるようなガラス張りになっている。こうした特徴は、むしろヤマト級三番艦銀河との共通点が多い。それもそのはずで、ムサシと銀河は同型艦としてほぼ同時期に建造されたのである。

ムサシも銀河も、共に波動実験艦として建造され、その名が示す通り波動エネルギーの応用実験による兵器等の開発を目的とした艦であったが、後にムサシは深宇宙探査艦に改装され、観測・調査用装備と探査活動時の自衛用武装が実装されたのに対し、銀河にはヤマトからコスモリバース・システムが移設され、それに伴って全ての武装がオミットされたのだった(コスモリバース・システムと武器制御システムが競合する為)。ムサシの武装は、ヤマトと同じ艦首波動砲一門をはじめ、主砲となる四六センチ三連装砲塔が三基九門、魚雷発射管一二門と十分実戦に耐える火力が装備されている。

今ムサシは、天の川銀河の中心部にある核恒星系を目指して航行していた。目的は、古代アケーリアス文明の調査である。ムサシの帯びている極秘任務とは、古代アケーリアス文明の有していたオーバー・テクノロジーの入手であった。

それは、地球人類存続のための他惑星開拓を目的とするF(フロンティア)計画の一環でもあった。イスカンダルからもたらされた波動エンジンは、それをコピーする事で超光速宇宙船の量産を可能にしたが、開拓先の環境を地球に近づけるためには、それに加えて新たなテラフォーミングの技術が必要だった。地球もすでに火星を開拓し、また同盟国であるガミラスからそれに類するテクノロジーの技術供与を受けることは可能だったが、残念ながら地球やガミラスのそれは膨大な時間と資源の必要な「効率の悪い」方法であった。それではまた地球が危機に瀕したときに、いざ人類を避難させようにも間に合わない恐れがあり、もっと瞬時に地球人類の生存に適した惑星環境を作り出せる技術を地球連邦政府は欲していた。

そう、コスモリバース・システムのような…。

しかし地球連邦政府は、波動エネルギーのテクノロジーを波動砲という兵器に転用したことで、イスカンダルの女王スターシャの信用を損ねてしまい、コスモリバース・システムの技術供与を受けることは不可能と思われた(ヤマトに搭載されたコスモリバース・システムは、地球再生を行った後は単なる波動エネルギー増幅放射装置となってしまい、研究のために銀河へ移設されたのだった)。つまり地球連邦政府は、独自にその技術を入手しなければならなくなったのである。

光明をもたらしたのは、惑星シュトラバーゼにあった古代アケーリアス文明の遺跡から以前に発掘されたメモリープレートだった。シュトラバーゼは、二二〇二年にガミラスの反デスラー主義者によるテロで、惑星破壊ミサイルを打ち込まれたことをきっかけに崩壊したが、それ以前に一度だけ行われた発掘調査によって、そのメモリープレートが発見されたのだった。そこに記録されていたデータは、記憶媒体が経年劣化で傷付きほとんどが解読不能だったが、かろうじて波動エネルギー・テクノロジーが古代アケーリアス文明の基礎であること、そして文明そのものの発祥地と思しき位置座標データを解析することができた。ガトランティス戦役の終結により、人類存亡の危機はひとまず去ったが、地球連邦政府は改めて人類存続を目的としたF計画を発足させ、それを推進するためにコスモリバース・テクノロジーの入手を企図して古代アケーリアス文明発祥の地の調査を行うことにしたのだ。

そのプロジェクト・リーダーに任じられたのがムサシ艦長の近藤健(たける)であった。近藤は山南宙将の後輩で、出自は科学士官である。藤堂早紀二等宙佐の婚約者でもあった。この任務が終了し、地球に帰還したら結婚する予定であった。二人は、計画のメンバー同士として出会った。科学を信奉しながらも、人好きのする柔和な笑みを浮かべる近藤に、早紀は最初から惹かれるものを感じた。近藤も早紀を藤堂長官の娘と知りながらも、そんなことは意に介さず接する内に、早紀の生硬な態度の裏にある情熱に気付き、やはり惹かれていった。しかし不器用な二人は、お互いの思いを感じつつも打ち明けられないままに時を過ごしていた。

今回の任務に就くことになったその日、近藤は早紀にプロポーズした。交際の申し込みではなくいきなりの求婚に早紀は戸惑ったが、近藤の言葉の真剣さに思わず承諾の言葉を返していた。そして、自分も近藤と一緒に行きたいと願い出た。そんな早紀に近藤は首を振りながら優しく諭した。

「この調査任務は、絶対に成功させなければならない。かつてのヤマトが成し遂げたイスカンダルへの大航海と同様にね。そのためには、僕個人にも絶対に地球に戻らなくてはならない理由が必要なんだ。だから、待っていて欲しい」

不承不承ながら早紀はうなずいた。男の勝手な言い分と思わなくも無かった。これまでの早紀であったなら、平手打ちの一つもくれてプロポーズをも断わっていたことだろう。しかし近藤の瞳には、早紀を抗わせない何かがあった。これまで人と敢えて深く関わって来なかった早紀にとって、それは初めて知る恋慕の情なのかも知れなかった。

「約束して、必ず帰るって」

「もちろんだとも。僕の全てを懸けて約束する。必ず君の許へ帰るよ」

初めての口づけ。甘く切ない感触と共に迸る熱情が早紀の胸を満たした。

 

そして今、ムサシは最後の長距離ワープを終えて位置座標データの示す宙域に出た。

「艦長、スキャン結果が出ました」

村井情報長がコンソールに表示されたデータを見て言った。

「どうだ?」

「それが、どうもおかしいのです。恒星が見当たりません」

「恒星が?ワープ・アウトする座標を間違えたのか?」

「いえ、座標は合っていますし、いくつか座標データと照合して合致する惑星も存在します」

「恒星系なのに恒星が無くて惑星だけが存在するなんて、そんな馬鹿なことがあるものか。スキャン結果に間違いはないのか?」

「はい、間違いありません。本来恒星があるはずの位置に、巨大な物体が検知されています。直径は…約十五億キロ!我々の太陽の一千倍の大きさです!」

「巨大な物体…」

近藤はしばし考え込むと、何かを思いついて情報長に問うた。

「その巨大物体から、不自然な赤外線放射はないか?」

「待って下さい。…ああ、ありますね。大量の赤外線が常にあるエリアから放出されています。こんな放射パターンは見たことありません」

「やはり」

「どういうことですか、艦長?」

「おそらく巨大物体は、ダイソン・スフィアだ」

「ダイソン・スフィア?」

「そうだ。二十世紀からその存在の可能性は予測されていたが、建造にはあまりにも高度なテクノロジーが必要なので、実在を信じる者は僅かだったがな」

ダイソン・スフィアとは、恒星を人工構造物ですっぽりと覆い、その恒星の発生するすべてのエネルギーの利用を可能とするスペース・コロニーの究極の姿である。その名は、アメリカの宇宙物理学者フリーマン・ダイソンが、高度に発展した星間文明により実現していた可能性のあるものとして提唱したことに由来する。しかし蓄積されたエネルギーは、エントロピー増大則により熱となりさまざまな問題を引き起こすことになるので、これを防ぐには、外部へエネルギーを赤外線の形で放出して温度を下げる方法が有効と考えられた。

「それがまさか、こんなところにあったなんて…」

「だが、このダイソン・スフィアが古代アケーリアス文明の産物だとすると合点がいく」

「確かにそうですね」

「今回の我々の目的も達せられるかもしれん」

近藤は、ムサシをスフィアに接近させて調査を開始した。

「スフィアの地表には、どこにも知的生命体の存在は検知されません。もしかしたら生物圏は外殻の内側にあるのかもしれません」

「なるほど内側か…」

村井の報告に近藤は少し考えて命じた。

「先程の報告にあった赤外線放射をしているエリアに向かってくれ」

艦長命令を受けてムサシの艦体は、滑るようにスフィアの上空を旋回して行った。

「この辺りです」

村井の言葉を合図に、近藤はムサシを減速させた。

「艦外モニターを熱感知表示にしてメインパネルに出してくれ」

艦外の様子は、恒星という光源がないので通常のモニターだと真っ暗闇で何も見えない。だが熱感知表示だと、スフィアの外殻表面の温度差が形になって目視できた。それによるとスフィアの外殻には、人工構造物らしく外装パネルのモールドと思われる規則的な幾何学パターンが浮かび上がっていた。

「本当に人工天体なんですね」

村井が感嘆して言った。

外装パネルの中で一際熱量の高いことを示す赤色の強いエリアが見えた。そこをズームすると、他の外装パネルと違う形状であることが見て取れる。

「どうやらメンテナンス・ハッチのようなものらしいが、何とか内部に入れないものか」

近藤が呟いたとき、不意にそのパネルが開き、中からテトラポッド状の物体が出現してムサシに接近してきた。そのテトラポッド艦は、センサーによる実測表示によると一辺二キロメートルもの巨大さで、全体が黄金色に輝いていた。

「な、何だこれは

近藤艦長は、戦闘配備を命じた後、黄金色のテトラポッド艦とコンタクトを試みたが、通信に応答はなかった。

しかし―

(我/我々は、メッツラー/SUSだ。お前たちを〝同化〟する)

その〝声〟は、直接頭の中に響いてきた。テレパシーのようなものと思われた。

「何だと?同化?待て、我が方に敵対意志はない。話し合いを…」

近藤の言葉が終わらぬ内に、黄金色のテトラポッド艦から放たれた光がムサシを包むと、ムサシの一切の動力が停止した。そしてムサシは艦体ごと黄金のテトラポッド艦の中に取り込まれ、そのままスフィア内へと連れ去られてしまった。