ソフトフォーカスという描画手法がある。
被写体のエッジを意図的にゆるくし、さらにフレアを付加するなどして、描写にやわらかく幻想的な雰囲気を与える手法だ。
意図的に収差が大きく発生するように設計されたソフトフォーカス用のレンズも存在するが、フィルターによってソフトフォーカス化する手法も知られている。
フィルターによって描写をソフトフォーカス化するには、透過する光を拡散させるために、フィルター表面に加工をほどこす必要がある。
そこにメーカーの設計思想が出てくるのだが、その加工方法はさまざまだ。
フィルターごとに描写傾向が異なってくるため、同じ条件でフィルターを付け代えて比較撮影をすることにした。
かなり以前に製造中止になっているフィルターも多いが、リサイクルショップなどでの購入の際のガイダンスにはなるかと思う。
次の写真がフィルターなしの標準状態のものだ。被写体のエッジがわかりにくいが、本を読んでいる子どもの位置がピント位置だ。
フィルターごとの相違は子どもの頭部のフレアや暗部の白浮きなどで確認できる。
使用レンズ:タムロン 52B 絞り開放
次の1.- 3.は、フィルター表面に水滴状の凹凸を持たせ、光を屈折させることにより、ソフトフォーカス効果を得ている。
レンズを絞り込むと、水滴形状がそのまま画面に写り込んでしまうため、絞りは開放近くで使用する必要がある。
1. SOFTON II [A] - KENKO ケンコーのソフトフィルターは、タイプ[A]が弱効果だ。
2. SOFTON II [B] - KENKO タイプ[B]は効果が強く出る。
3. DIFF-II - MARUMI ケンコーソフトンより効果は弱め。
4.- 12.は、光を拡散させる超微粒子を、フィルター表面に蒸着(コーティング)して、ソフトフォーカス効果を得ている。
ピントの芯を残したまま、高輝度部に滲みが大きく出るのが特徴だ。あるいは、雨の日の撮影などにも向くかもしれない。
蒸着量によって、被写体が深い霧の中にいるような効果を持つモデルもある。
4. MC PRO SOFTON [B] - KENKO
5. SOFT 1 - NIKON
6. LOW CONTRAST NO.1 - KENKO にじみ効果よりも低コントラストを狙っている。
7. White Image (A) - Kenko 古いフィルターだ。効果は6.に似ていると思う。
8. White Image (B) - Kenko ホワイトイメージはフォギーの前身なのだろう
9. FOGGY [A] - KENKO
10. FOGGY [B] - KENKO 強効果だが、子どもの頭などにピントの芯が残っている。
11. FOGGILIZER - MARUMI 上記フォギーAとBの中間の効果。
12. FinePix FOG ファインピクスのオプションアクセサリーだったのだろうか?
13.- 16.は、フィルター表面に微細なシワ状の凹凸加工をして光を拡散させ、ソフトフォーカス効果を得ている。
15.のように、シワ状の加工に方向性がある場合、取り付け時の回転方向によってフレアの方向が変わり、印象も大きく異なってくるだろう。
13. SOFTONE - TOSHIBA 凹凸が深いため、かなり強めの効果が出る。
14. SOFTON - KENKO ケンコー「ソフトン」の初代モデル。まだ[A][B]はない。
15. SOFT - (? 無銘) メーカー名が書かれていない。銀枠に大文字でSOFTとだけある。
16. Soft - (? 無銘) これもメーカー名が無記載。大文字小文字でSoftとだけある。
17.- 18.は、フィルター表面に水滴状(ドーナツ状)の凹凸を付けながら、さらにその凹凸に、光が乱反射しやすいエッジを持たせている。
1.- 3.よりも逆光時のフレアが出やすいだろう。撮影条件によって、描写に意外性が出るかもしれない。
17. SOFTON SPEC [A] - KENKO
18. SOFTON SPEC [B] - KENKO [A][B]の効果の差は少ないようだ。
19.- 20.は、フィルター面に溝加工をしたものだ。
19.はソフトフォーカスフィルターとされているわけではなく、夜の照明や水面の反射などの点光源を、クロス状に放散させる特殊効果フィルターだ。
放散させるために、フィルター表面に格子状の溝加工がなされており、これによる乱反射がソフトフォーカス効果をもたらす。画像を拡大すると、特徴的な細い線が所々に見える。
対して20.は、溝加工が格子状ではなく同心円状になっている。
19. R-CROSS SCREEN - KENKO
20. DUTO - KENKO
21.は、黒い紗をフィルター面にサンドイッチ状に挟み込み、紗の格子の回折を利用して、ソフトフォーカス効果を得ている。
紗の線によりフレアが独特の形状で発生する。フィルター取り付け時に角度を工夫すると、フレアの傾きをコントロールできる。
22.はソフトフォーカスフィルターではなく、特殊効果フィルターに分類されている。
クローズアップレンズの中心部に穴をあけたフィルターだ。
その結果、穴が開いている部分のピントが合っていても、周辺部は極端なアウトフォーカスとなる。
さらに、穴部のエッジの乱反射の影響もあり、独特のソフトフォーカス効果を得ることができる。描写は極端だが、応用の可能性が広そうなフィルターと言える。
22. CENTER FOCUS - KENKO
上の写真の利用例として、次のYouTube動画の最後の個所でこの画像を使っている。
Chopin "Fantaisie Impromptu"
次の記事の後半では、「センターフォーカス」+「ミラージュ」フィルターを重ねて、可能性?を探している。
ZUIKO MC AUTO-MACRO 1:3.5 f=50mm
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ひと括りにソフトフォーカスフィルターといっても、その描写は多様だ。
効果が強すぎるものは、かなり被写体を選ぶことになり、使用はきわめて限定的なものになるだろう。
しかし、色彩効果など、ほかの効果まで付加することで、リアルの被写体とはまったく異なる幻想世界を描くことも可能なのであり、表現の可能性は高いと言える。
効果がわずかなものは、現実というものに微妙に付加される幻想性が美しいと思うが、微妙であるがゆえに、ただのピンボケ写真と受け止められかねず、難しいところはあると思う。
どのフィルターも、難点を長所に置き換える使い方を探し出せば、リアルの中に潜む幻想を多様に描いてくれるものになるだろう。
Pink Floyd - Summer '68 (lyrics)