中古カメラを扱うショップに、「ジャンク箱」と呼ばれるものが置かれていることがある。
そこには、「商品価値がなさそうな、ワケあり品」が、無造作に放り込まれている。
レンズもそうだ。しかしワケありの理由はいろいろあるものの、現代のカメラでも使えるレンズとして、復活させることも可能なのだ。
とくに、フルサイズのミラーレスカメラの登場は、復活の可能性を大幅に拡大したと言える。
ここでは、そんなレンズたちを3本ご紹介したい。添付した写真は、どれも同じ日に、バイクでのお散歩かたがた、ただ気の向くままに撮ったものである。
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・マミヤの中判レンズ:プレス用?
For POLAROID 1:5.6 f=75mm (MAMIYA)
・トプコン35mm一眼レフ用
HI TOPCOR 1:2 f=50mm (TOKYO KOGAKU)
・引伸ばしレンズ
E-LUCKY 4 ELEMENT 1:4.5/50 (Fujimoto Photo Ind.)
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なお、本記事で扱っているレンズで撮影した写真は、次のリンク先に一覧化されている。
フルサイズEマウントで使うオールドレンズ&写真 (3) 一眼レフメーカーのズームレンズ、中判、他
フルサイズEマウントで使うオールドレンズ&写真 (5) 海外、引伸し用、Lマウント、テレコン 他
For POLAROID 1:5.6 f=75mm (MAMIYA)
1969年ごろ発売された、マミヤの中判フィルムカメラ用ポラロイドバック対応の巨大?レンズである。
プロがスタジオで使ったのだろうか、美品状態だったが中判フィルムやポラロイド対応という点で、出番を無くしてジャンク扱いになったのだろう。
マミヤプレス用のレンズはテッサーが多いが、このレンズはスーパーアンギュロンタイプとされている。
対称型の構成で、理論的に収差の発生は極小であり、正確無比な描写をするとされている光学系だ。
しかし後玉の突き出しが大きく、一眼レフにはまず付けられない。
バックフォーカスが短か過ぎるので、ミラーが付いているだけでアウトなのだ。
この中判用レンズは、後玉側にまだスペースがある。ミラーレス一眼なら中望遠レンズとして使えるのだ。
カメラボディへのレンズの保持には、「なんと」、ニコンのレンズフードHN-24を使った。
それに中間リング+Eマウントリングを取り付け、ややオーバー・インフィニティながら撮影可能になったのだ。(^^)
なお、ここでの写真はすべて絞り開放で撮っている。
部分切り出し。 これで絞り開放だ。(α7R:絞り開放:画像サイズMで撮影)
これは周辺部の切り出し。
こちらは、ほぼ中心部。
画面上部、最遠部の描写。画像サイズLで撮影したら、水泡まで解像しそうだ。
ここではリサイズしてアップロードしているので分りにくいが、すべて絞り開放で撮影したにもかかわらず、凄まじいまでの解像力を見せつける。
そうして、解像力の高さが、瑞々しさすら引き寄せているのだ。
これが対称型レンズの描写なのかと思う。これほどまでのレンズが、居場所をなくしてジャンク箱行きになっていたとは・・・。
このレンズの欠点は周辺部の光量落ちとされている。
しかし中判用のレンズはイメージサークルが圧倒的に広く、特にポラロイド対応のこのレンズはピント面85mm×108mmをカバーする。対して、35mm判はフルフレーム24mm×36mmだ。
面積比で10倍を超える。つまり、イメージサークルのごく中心部しか使っていないのだ。
後玉の直径にしてもEマウント内径より大きく、欠点とされる「周辺部」の光量落ちなど、そもそも35mmフルフレーム中では発生しようもないのだ。
HI TOPCOR 1:2 f=50mm (TOKYO KOGAKU)
いまではトプコンの名前は、一般になじみは少ないと思うが、第二次世界大戦中において、日本光学(ニコン)が海軍に、東京光学(トプコン)が陸軍に光学機器を納入していた。
このレンズを作ったメーカーは、国内でも屈指の存在だったのだ。
HI TOPCOR は、1976年発売の「IC-1」というカメラに標準装備された。
絞り制御はボディマウント側で行うので、レンズ単体には絞り調整リングが付いていない。
つまりこのレンズは、ボディがないとレンズとして完結しないのだが、なぜか、ジャンク箱にレンズだけが放り込まれていた。
中国製の、ニコン用マウントの中間リングを使えばフランジバックがそのまま出ることが分り、絞りは固定のまま、「ニコンマウントのトプコンレンズ」?として息を吹き返した。
一般的に、単焦点標準レンズの最高性能は、絞り値がF5.6~8あたりで出るはずなのだが、没個性になってしまうように思う。
レンズの長所も短所も出るのは絞り開放付近なのであり、ここでは目測で(^^;、開放F2に対して、やや絞り込んで「F2.5付近」で固定した。
このレンズは近距離での質感描写に優れていると思う。
シャープネスを落とすような絞り値で固定したから、遠景は苦手になってしまったかもしれないと思う。
しかし、そのレンズが得意とするレンジを見つければ、より良い絵を見せてくれるだろう。「凡庸な描写」と「息を呑むような描写」の可能性を併せ持つのだ。
こちらは別の日に撮影したものだが、質感描写という点で、ご参考までに。
E-LUCKY 4 ELEMENT 1:4.5/50 (Fujimoto Photo Ind.)
藤本写真工業から発売された、フィルム時代の引伸ばし機用レンズである。
引伸ばし機用だから、描写は破綻もほとんどないほどに正確であり、カメラに付けて撮影する人も多い。
引伸ばし機もすでに出番がなくなったのだろう、このタイプのレンズも、ジャンク箱でときどき見かける。
このレンズは、カビだらけ状態でジャンク箱に放り込まれていた。
しかし硝材はカビに食われておらず、分解し、拭き取って復活した。
さらに、LマウントねじをM42に変換するリングを使い、M42ヘリコイドによってピント合わせができるようにした。
引伸ばし機用のレンズは、単独ではピント合わせができないので、ヘリコイドの併用が必要なのだ。
ヘリコイド付きマウントアダプター使用。ガッツリ寄れる。
引伸ばし機用レンズは、見た目にはオモチャのように小さなレンズだ。しかし、その描写の評価は、肯定的、好意的なものが多い。
このレンズは、引伸ばし機用レンズの中では、凡庸なグループに入るのかもしれない。
しかしそれでもなお、「普通に」、このぐらいの絵を見せてくれるのだ。
こういうレンズが、ジャンク箱に二束三文の値付けで放り込まれている。
用途がなくなればガラクタ扱いなのは、仕方がないことなのかもしれない。
だが、多くのレンズが出番を待っているのである。
Oscar Peterson - Autumn Leaves