土の道に深々と轍 ── 帆はいつでもいっぱいに張られている。
肉体のすべてが略奪者であった男が船頭なのだ。
彼は知っている。最高の財宝は海の底、彼らがいつでも往き来する下にあることを。
しかし海の底だ、── 結局彼らは一文無しだ。
── 海原の輝き、彼らはそれでも海原を渡る。(1/1)


古い時代の音楽。── 季節の中、ようやく雪どけも始まったころの、淡い陽炎のような音の連なり。
田中冬二のよく知っていた陰影の深い、古びた家々の中の生活。
すんなりと延びた木々。── 山々に囲まれた家々と、ひやりとする何か不思議な大気。
── 選択のその一瞬は、前にずっと連なっている。(1/6)

いつのことだったか。まだ雪一色の山道をいくども迷いかけながら、友人と歩いたのは。
足元はるか下、碧い湖を見下ろし、山の斜面に沿った道は、やがて山と山との間に入ってゆき、雪原──雪に覆われた湖の沈黙。
葉のすっかり落ちた白樺林の中を通り過ぎ、登り坂や下り坂を過ぎ、歩きつづけた。
── いま、この場所。立ち止まれば、やってくるものはもうあまりに淡くなってしまった、冷たい大気の香。(1/6)

スタインベック。「逃走」。
大人が必要になるとき、子どもは大人になる。
ペペを中心とするあの作品の世界に、「大人」は一人も出てこない。敵もペペ自身も、少年期末期の恐怖の中にいる。(12/26)

道路に沿う、上水道跡の細長い公園。
どこまで歩いてもそれは続いている。アパートの窓には洗濯物の白い輝き。
生活の静けさに囲まれたその公園に、数人の子供。
──
そこを母親と女の子が通りかかった。女の子は遊んでいる子どもたちの中に混じった。
だが母親は待つことを好まなかったらしい。女の子は遊んでいる子どもたちを振り返りながら、母親に手を引かれていった。
──
午後の日差しの下、家々。上水道を埋め立てたその公園の所々には、名残の橋が残っている。(1/3)

小話。
悪魔のいる森に迷い込んだ兵士は、悪魔に誘惑され、傷つけられ、剣を探し求めた。
だが、ようやく見つけ出した剣は、握りがなく、すべてが刃だった。
手に持つと悪魔は消えたが、手からは血が流れた。仕方なしにそれをさやに収めると、悪魔は再びあらわれた。
── 森のざわめきの中、彼は剣を手に持ったり、さやに収めたりしながら歩いてゆく。(1/12)




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