静かな夜中にみぞれ。不思議に暖かな雪だ。路面は重たく濡れてゆく。
街灯の下を歩く人の影は、暖かな雪の中に、はっきり見えない。── 包まれている暖かさなのだろうか。(2/14)

サルトル。「僕は自分の名前でしか、話したことはない」。(12/25)

恋愛の二つのパターン。たくさんもらい、たくさん与えて成り立つ恋愛と、同じ風景を見て、同じことを感じて成り立つ恋愛。
── 後者には響き合うものがある。前者はおそらく恋愛ではない。だが両方が入り混じっているものだろう。(2/2)

眠っていて、ふと目が覚める時がある。── 覚めようと思って覚めるわけではない。(2/1)

夢。僕ははるかな夕暮れ空に舞うカラスの鳴き声を聞いていた。すっかりシルエットになってしまった山々に、その声は響いていた。
僕は、死んでしまった僕の友人たちは皆、それらのカラスになっているんだと考え、涙を流していた。
── 老年の僕が夢に出たのは、後にも先にもそれきりだ。(2/6)

雨に濡れた朝。秋の色もすっかり消えて、静かな冬だ。
── 季節は流れ、それでも僕はここにいる。(12/8)

夕暮れ空のかなたに、東洋の影はなだらかな裾野を広げている。(2/3)

ランボーは現実世界に戻る。嵐はそこにしかないからだ、遠い昔から砂漠だった場所にしか。
── 僕もまた、この日常生活において、決めなければならないことなのだ。
(1/31)

ランボー。「人は混沌をさげすむように、僕の知をさげすむ。君らを待っているのは昏睡だけだ」。(1/24)

車窓から。茶色い畑には雪がまだらに残っている。あぜ道には枯れた植物がずっと連なっている。家々が遠くに、所々に固まっている。
風が強いらしい晴れた日の午後、電車の規則的な響きの中、冬枯れの風景。
(2/16)

強さも弱さも作り出したものだ。前者は意識的に、後者は知らないうちに作り上げられていく。
── 正反対のものであっても、作り物であることに変わりはない。(1/31)

彼女。彼女はキリストが好きだと言っていた。(2/4)

本に書かれている色々なものを読むと、共感したり否定したりする。
しかし否定する場合、それは僕の友人たちも持っている考え方なのだと思うことがある。
僕はその友人を否定したりはしない。だから友人なのだ。
── 距離が、共感も否定も100%のものにしてしまうのだろうか。(2/11)

ある教師がこう言っていた。
「いいですか、利口な生徒はここまで来ると、もう後までやらなくても、分かったという気になってしまうものです。しかしそれは、その生徒が完全に頭が良いからというわけではないのです」。(10/26)




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Orbina (Orphant) - ORBINA (ft. Roger Ludvigsen)


ある老教師の自殺。いつも冗談を言っていた彼のことを僕は覚えている。
もう一人の教師。軍人的な厳格さと、頑固に陥らないだけの柔軟さを持った人だった。
彼は、その自殺の報を聞いて何を思ったろう。彼はかつて三度死に掛けたと言っていた、── しかし彼の息子は若くして死んでしまったと言っていた。(1/4)

ランボーの「イリュミナシオン」。精緻に彫り込まれた、クリスタルグラスのような「禅の公案集」だ。(1/5)

夢。僕は白い霧の中を、電車に乗っていた。外の木々の間には、小さな白い球が無数に転がっていた。
どこから飛んできたのだろうか?僕は考えたが、どこにも玉は飛んでいなかった。
電車の反対側には柵が続いていた。僕はその柵がなんであるか、すぐに分かった。ある、有名な霊園の柵だった。
やがて僕は、晴れた外に出た。(1/4)

友人とドライブ。初雪だった、御岩神社の杉林も雪の中だった。無彩色の中のコントラスト、杉の木立の直線的な風景。
「この池の鯉、盗るべからず。神罰必当」。
山間の道は雪におおわれていた。久しぶりの雪の感触。山々も木々の黒と雪の白しか見えない。── やがて僕らは赤い橋を渡った。(1/4)

彼。「やはり帰省するといいな。おれがよく知ってる土地を、ほかの皆も知ってるから」。(12/9)

新聞の海外欄から。サンフランシスコでは、クリスマスに消防士たちが恵まれない子らにおもちゃを贈るのが慣例という。
ところがオモチャがごっそり盗まれてしまった。寄付が続々と集まった。
その中には、「名前が書けなくなるほど酔っぱらう前に・・・」と言いながら、小切手にサインをしていったアル中の患者もいたそうだ。(12/14)

もう10年ばかり前のこと。雨の日だった、ぬかるみの道を僕らは下校するところだった。
通学路の途中に、精神科の病院があった。
そこからパジャマ姿の男が走り出てきた。患者らしかった。その後ろから三人の看護婦が走り出てきた。
彼はたちまち追いつかれ、連れ戻された。抵抗らしい抵抗もせず、── あるいは抵抗していたのかもしれない。── 男の足は泥に汚れていた。
ほんの一瞬の出来事だった。立ち止まっていた僕らは、ぬかるみの道を歩き始めた。── 建物の窓の鉄格子が見えた。(12/15)

夢。教室の中。いつものクラスの風景。
僕と彼女は、互いに何か、そわそわしている。やがて彼女が話しかけてきた。僕らは教室の外に出た。
大勢の人々。彼女は僕に忠告をくりかえした。僕はそれをうるさがる。── お互いにその繰り返しだ。
やがて外に出た。何人かがキャッチボールをしていた。僕はそのすぐ横を通り、あぶないなと感じた。
そこを通り過ぎた僕は振り返った。── そこに彼女はいなかった。
いつの間にか人がほとんどいなくなっていた。実験室で、昔の友人を見かけたぐらいだった。(12/29)




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郷愁。それは旅人だけが持つ、漂泊の中での思いだ。(12/2)

母がときどき祖父のことを話してくれる。
僕が覚えている祖父は無口だったが、お酒を飲むといろいろな話をしてくれた。
その話はかならず僕の知らない珍しい話だった。僕は祖父の話を聞くのが好きだった。
僕にわかるのはそれだけなのだが、母の話を聞いて思うのだ。── 僕は祖父から溺愛されていた。僕はそのことを知らなかった。(11/23)

選択に対する気恥ずかしさ。彼は人の前で、いずれかを選ぶことに気恥ずかしさを覚える。
── 見透かされたくはないのだ。(11/21)

僕が中学生の時に知っていた女。彼女は僕より一つ上だったが、年齢は三つぐらい上だった。誰をも憎まない彼女は、いつも体温を感じさせた。
── 僕は体温を持たないのかもしれない・・・。(11/12)

松本零士。男おいどんの主人公、大山昇太。
彼と他者の関係。彼は与えることしかしない。彼のような男を優しい男というのだろう。(11/6)

「今日、おかまのひでちゃんが来たのよ、知らない?デニムのスカートから、すね毛を出している人。
あの人にね、もっと流行の服を着ろって言われちゃった。ショックだったわ。ショックよねえ、やっぱり」。(11/28)

無敵艦隊。四~五人の、小学生の女の子たち。
「あ、柔道部のゴリラだ」。
「やーい、ゴリラー」。
「うるせえ、このチビ」。
「あ、怒った」。
「威張ってるんだよ」。
「威張ってるの?」。
「うん、威張ってる」。
彼女たちは、どこかに走り去ってゆく。(11/11)

もし僕がいつしか豊かで暖かな南の国に出たなら、それまでに歩んだことが、その南の国に出るためであったことを納得するだろう。
だが、出たところが何もない荒野だったら、僕はどうするのだろうか。
納得するのだろうか。── 納得するしかないのだとしても。(11/28)

松村一人。「自由への人民の要求と、支配者の専制とは、まさに両立しがたい矛盾です。この矛盾はどのように解決できるでしょうか。それは専制的支配機構をそのままにしておいて解決できるでしょうか。
そのような解決は不可能です。解決の道はただ人民自身が立ち上がってこの専制的支配を破壊し、人民自身の国家を建設する以外に、まったく存在しません」。
── 自由などという漠然としたものを要求している人民が、全体の中にどれほどいるのか。
重要なのは生活だ、自由を要求してもいない人民が作り上げる自由な国家とはどんなものなのか。

プロレタリアートとしての発言のつもりなのだろうが、生活が満たされている余剰の思考に過ぎない。何が人民だ、教条に付き合わされる側の身にもなれ。
(11/13)




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今朝の夢。最近はわけのわからない夢ばかり見る。
僕は恋人と夜道を歩いていた。僕が提案した。「街へ行こう」。
彼女がそれに反対した。
「駄目よ、この時間に街を歩けるのは死人だけなのよ」。
──
僕らは繁華街に出ず、住宅街を歩くことにした。
ある曲がり角を曲がると、突き当りに公園があった。夜だというのにその公園は異様に明るかった。その公園だけが昼間のようだった。
そうして中央に置かれた焼却炉からは煙が噴き上げていた。彼女はその公園に怯えた。
── 誰もいない公園だった。(12/7)

点灯した瞬間、いつもよりはるかに明るく輝いた電球は直後に切れてしまった。
(11/19)

森鴎外。青年。「なぜ人間は年を取るに従って偽善に陥ってしまうのでしょう」。
「そうさね、偽善というのは酷かもしれないが、甲羅が硬くなるには違いないね。永遠なる生命がないとともに、永遠なる若さもないのだね」。
── これでは質問に対する回答でも何でもない。質問の内容と同じことを、言葉を変えて言っているにすぎない。
ところで、この会話のような表現でもって、すべてを説明しているつもりでいる人々は、それこそ腐るほどいるのだ。(12/2)

ヴェルディの歌劇の共通点。それは正義と不正との戦いが、常に悲劇をともなうということだ。
── だがその戦いの持つ情熱!(12/7)

霧におおわれた長くて大きな橋。そうして大河。真っ白い霧のために向こう岸は見えない。
河も真っ白だ。岸には波が打ち寄せている。凍ってはいないのだ。
── ふと思い浮かぶ情景。あの時・・・。(12/1)

夢。入れ代わり立ち代わり登場する、幾人もの教師たち。
ひとりは僕のポケットから鍵を取り出した。(12/2)

アンダスン。「雨はそれらの木の葉を情け容赦もなく打ち落とす。枯れ葉たちは最後の黄金色の閃きとなって空を漂うことも拒否されているわけだ。十月には枯れ葉は風に乗って平原に運ばれてゆくはずなのだが。ひらひらと舞い飛んでゆくはずなのだが」。
── 小説を、詩人が描いていると感じる。
彼の「兄弟たち」。タブーを破った果てに待つもの。タブーという檻の中から見える、輝く世界。そうして独房の中の絶望的な孤独。嘲笑だけを受けるコミュニケーション。── タブーの消滅=発狂。(12/3)

疑問符に対しては、かならず回答が用意されるだろう。
だが、「自分はなぜ存在するのか」には「存在しているから」しか、回答のつけようがない。つまり、疑問符に対する回答になりようがないのだ。
それなら疑問符には限界がある。
知とはそれなら、「分かっていること」をあらためて、なぞっていくことに他ならないのか。そうして、「分かっていること」であるはずの、「存在に対する疑問符」は無効なのだ。(11/30)




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雨。さび付いた風景は研がれてゆく。
通りの横のショーウィンドウの中にテレビ。ボクシングをやっている。リズムと舞踏、そうして恐怖。── 前を見やれば、雨の中、家々の軒の連なり、そうして空。
「笑い」への愛も、「リズム」への愛も、皆、そぎ落とされ、
── 街、雨の中のその沈黙。
新しい暴力は、天空の閃光のそれに重なっている。(5/17)

いまここに生きている世界との離別の場に、悲惨の最大の形はある。
── 晴天の午後、線路を走ってくる電車の轟音。
その金属音は、人が共有するものを振り払い、人はその金属音を共有する。
(5/19)

彼は優雅の破壊を熱っぽく語った。「魂」は、笑いながらどこに戻ってゆくのか。
ここでまた少年期の渇望は姿を現し、この世界を彩る。
休息の時間。── この身と語り合うこの世界。いまはリズムは緩やかに静まってゆき、淡くなった世界のざわめきに重なってゆく。(5/17)

蜃気楼を見つめ、歩く事を忘れてしまえば、物乞いにでもなるしかないだろう。
(5/8)


古い時代の東洋が知っていた「気」とは、可能性を完全に解放した生命そのものだ。
それは当初の、誰にも共通していた言葉だ。
── 肉体も生命も、そうして宇宙をふたたび知る。肉体も生命も、そこで生まれたからだ。(5/10)

最近、不思議なことに、短期間のうちに同じことがくり返し起こる。
何回かまとまって起こると、やがて別の同じようなことがまとまって起こる。
── いままでもそうだったのだろうか、気がつかなかっただけなのか。(5/9)

重たく茂る木々の間の、薄暗い道を通り過ぎれば、いきなり彼方まで広がる、太陽の下の浅い沼沢。
── どこの世界のものなのか。ここなのか。
だが確かにここには、背中に背負う鍵だけはない。── ビル群は彼方に、蜃気楼と見まがうかのように。(5/17)

朝、舟は空と水との間、水平線の所在すら定かではない空間へと向かう。
法則は見いだされ、だからその先はさらに広がる。
── この肉体と言語の、淀んだ個所をいつでも洗いきっておくこと。(5/15)

白く重たい夜。── 久しぶりに会って、やつれていたあの顔。
彼女は、一つの場所しか信じることができず、やはり今もひとつの場所にいるにしても、── 楼閣の中の黒い熱情は次々に通り過ぎてゆき、── 居場所の崩壊した男たちは埋もれ、さらに埋もれてゆき、ただ砂時計だけが落ちてゆく。
── だが僕はそこにはいられないのだ、あらゆる事情が、状況が、かならず許しはしないのだ。(5/14)




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風の中の広い中洲から、街への舟はいつでも出ている。
── 街には苦行者たちが家々を巡っている。── 野草の生い茂る、風の中の広い中洲。海の轟きの聞こえる場所。(6/15)

即興的な散文。遠い昔の欧州において、クラシックの演奏で、途中に即興演奏を入れるのは当然だった。
音律が「作り上げられる」時代になってから、即興演奏は失われた。
文章においても、即興性が失われれば、作り物にしかならないのかもしれない。
(6/29)

少年時代、バケツに入れていたフナは、夜の内にバケツから飛び出してしまった。元気だったからなのだ、そうして朝には外で死んでいた。(6/1)

夏草の上に、黒い雲は勢いよく流れてゆく。
彼は、喉が渇いていることに気が付いた。黒い雲が過ぎれば、ふたたびのには陽炎が揺らぐ。
遠回りだったのか、近回りだったのか、だが距離ではないのだろう。
彼は恋人のことを思い浮かべ、そうして彼が住む街を思う。── 道路標識の失われた街。(7/12)

滅亡した帝国の夢。日々、女たちは自分が守る場所で生き、── 離散した兵士たちは手に剣を持ち、今日も砂漠の中を歩いてゆく。(7/13)

嵐の翌朝、波はどこまでも遠ざかり、朝の浜辺には様々なものが打ち上げられていた。
── 漁師たちは太いナイフで崖に何かを刻み付け、流木の散乱する浜に出た。
子どもたちは手をつないだまま、浜辺に腰を下ろしていた。砂の上に茂る、波に洗われた花々はいまは造花のように身じろぎもしなかった。
── 船の修復のための道具は運び込まれ、修復できない船には印が付けられた。
── かすかなざわめき、朝の浜辺、流木の間に水死体が発見された。(7/12)

盾にうつる様々な化け物たち。── 過去の幸福と、未来の幸福に挟まれた、現在の不幸。
人は火を手に入れ、盾を手にし、そうして闇に対峙した。
── 「眠っている間でも、盾が身を守ってくれるなら」。
── 豊かさ。与えられるものが多いなら、濁った鏡に囲まれた部屋の中で眠りはじめ、時おり気付いて悲鳴を上げる。(7/13)

地に杭を打ち込んだ人々は立ち去り、静止した杭は風に吹かれ、── 風は金属色の軌跡を描き、土地は「豊かな夢の中に」荒れてゆく。
立ち止まれば依存の幻影はいつでも優しげに微笑みかけ、── だがその幻影は、そこからふたたび歩き出す人々についていくことはなく。(6/14)



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夜はまだ冷え込む。久しぶりの夜の外出。
この季節、冷えてはいても、この後に来る季節の予感はあちこちに満ちている。夜の街、行きかう人々。
おかげで気分は良くなりはしたが、部屋に入るときには再び、わけのわからない幽閉の記憶が戻り、── ここは元の場所なのだ。(4/2)

雨、夜のかなたから、冷えた季節の終わりを告げるかのような雨。
影の静かな侵略は、なにを眠らせるのか。── この静かな幽閉。(3/5)

なにもかも一切が僕の行為の結果を保証しないのなら、完全な怠惰か、完全に解放された行為か、いずれかの分岐が目の前に立ちはだかる。
── だが、完全な怠惰は、肥大しきった言語に支えられている。それなら選択肢はないのだ。(2/16)

夜の香が風に吹かれてやってくる。
闇が、暖かな陶酔がどれほど僕を支配しても、── それでも世界は、その姿を僕に見せ続けている。(1/29)

夕暮れ時。都市の火災。落陽に赤く染められつつある都市に、煙はゆるやかに流れ、陽の当たらない場所を覆っている。
だがそれは煙ではなく、夕暮れ時の影なのかもしれない。
── 空にはヘリコプターのエンジン音が響く。(6/1)

人が最初に知ったものは恐怖か、その神経がもたらす恐怖なのか。
だがそれでもない。
人がこの世界にいきなり放り出され、そこで「最初に語られたもの」は、時間の新たな容貌の中への自らの拡大と、そうして時間軸を超えるための自らの複写だ。
ただそれだけだ、── そこからの逃亡。恐怖に追われての。それは最初に知ったものではない。(2/11)

僕の内の、まだ語られていない場所。それが僕を存在させる。
まだ語られていない場所、つまり、動態である個所。そこに出発点はある。
(7/9)

波打ち際は変貌し続け、いつでも未知への進行は歓喜とともになされてきた。
巨大な塔は天を指し、── 波打ち際は変貌し続け、無限の告別はさらに僕を解放し続ける。
無限の告別、つまり、繰り返され続ける完結だ。(2/11)

「許してくれるのか」。僕がその言葉を、何の陰りもなく心の奥底のすべてを持って言えるのは、ただ、降りしきる雨や、雲間の月、波打ち際に消えてゆく波に対してなのだ。
── なぜならそれは、自らを守ることを一切考えはせず、しかも僕をいつでも見つめてくれていたものだからだ。(5/3)

氷を透かして光はやってくる、音はやってくる、── だがそれらはどこの世界のものなのか。
── 迷い込めば、そこでなにを求めるのか。そこはあくまでも地下室の中なのだ。(1/30)

正午。暑い一日。光のさすビル群の間の道。壁面のガラスは高く、四角く区切られた空。
── 路面に焼き付けられることなく焼けていく僕の影。(7/10)




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冒険と称して、見知らぬ街を、道を歩く少年たち。
そうして未知の道路が、自分のよく知っているなつかしい道路に出たときの、あの不思議な気分。(4/27)

へえ、骨折すると、そんなに痛いのか。虫歯が痛いのと、どっちが痛い?
── 分かっていることだけが基準になる。(6/18)

今年の三月に行った滝。春だというのに、まだ空気は冷たく、滝は凍り付いていた。
だが凍り付いた滝のところどころからは、水が白く輝いて噴き出していた。
水は陽の光を受けて輝き、冷えたつららの間を縫って落ちて行った。(6/19)

アスファルトの道路に子供らの遊んだ跡。
白い線で大きな四角が描いてある。それは二本の斜線で区切られていて、それぞれ「てんごく」「ぢごく」と書かれている。(6/22)

クレーの「フーガの技法」は安易すぎて、しかしきれいだ。(4/27)

女の子。まりが転がりだしたので大さわぎ。やがて泣き出した。
大切な友達が悠然と歩み去っていくのが耐えられなかったのだろう。
「自分で取ればいいんだよ、馬鹿な子だねえ」。
母親がまりを拾い上げる。女の子は大喜びで、両手を差し伸べて大切な友達を待つ。(6/22)

親子。親は子供を手放してしまうと不安になり、子供の短所を数え上げて、行く末を案じる。── 手元にあるうちは長所ばかりを数え上げる。(6/30)

道路には車が満ちている。── 陸橋、そうして明るく広い空からの秋の陽射し。
いつか見た風景。── いつもの道を少し変えただけなのに。(4/20)

既成の文章をピックアップして、分析を加えるやり方。
それは、自分を通過させて描くことによって、他ならぬ自分の姿を浮き上がらせようという作業だ。
── だが、自分の姿を浮かび上がらせること自体、目的とするようなことではないだろう。(7/13)

以前、山間の小さな川の上にある橋に出てみたら、その橋にも水が流れていた。
川の立体交差だった。上の川は用水路だった。(7/14)

キース・ジャレットや五輪真弓には、強い人間のけだるさを感じる。(4/21)

崎川範行の「四季の風」はオオコノハズクの話など、楽しく読めた。僕は自然科学者の書いたエッセイが好きだ。

── たとえば志賀直哉の「城の崎にて」で、ネズミに石を投げる描写があるが、川端康成はその冷徹な描写を絶賛していた。
しかし自然科学者のエッセイというものは、そもそも、そのようなものなのだ。
(4/26)




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アパートの横の細い通り道で、前から母娘の二人乗りの自転車がやってきた。
自転車が僕の横を通り過ぎるとき、乗っていた五歳ぐらいの女の子が僕に言った。「あ、かこちゃんのおともだち、かこちゃんのおともだち」。
僕はいきなり、かこちゃんの友達になった。途中経過のすべてを飛ばして。
(12/18)

宮城音弥:右足を切断すると、右足の働きはなくなる。しかしこの人の歩き方は、いままでの歩き方から右足を減じただけのものではない。(12/13)

早朝。特別冷え込む朝だ。遠くにひろがる山々は、うっすらと朝もやにおおわれている。それはまるで太陽に起こされた山々の呼吸のようだ。
そうして、太陽の光をいっぱいに受ける、アスファルトの路面。
人々はそこを歩いてゆく。(11/30)

「お眠り、朝はまたやってくるから」。
「起こしてくれるの?」。(1/24)

細かい枝葉は、単独では何の役にも立たない。すべてをまとめて見なければならない。
しかし幹は一本で充分だ。その一本だけのものを見失わない限りは。
── となりの枝葉と混じってしまうと、となりの幹を自分だと思ってしまうこともあるだろう。(12/9)

晩年の芥川は、筋書きのない小説を主張した。彼は本質的には詩人だったのだろう。(2/9)

おかしなヒロイズム。衒学趣味も、偽悪趣味も、特権意識も虚弱な武装だ。
それらに思考を慣れ合わさせてしまえば、それを失って残るのは卑屈だけだ。
つまりそのために時間を使ったとしても、浪費にすぎない。(12/4)

ある老配達人が、ある事件に対して。「私にはああなれる暇もありませんよ」。
(12/5)

ギリシャ神話からのテーマ。
服従を拒んだプロメテウスの、終わりなき罰。
エピメテウス(反省)は、世の悲惨の根源であるパンドラを引き入れた。
ゴルゴンを直視しないために、ペルセウスは鏡を用いた。(10/18)

人間の原罪。人間は知恵の実を食べた。
人間はエデンから追放されたのだろうか。── 自分から出て行ったのではないだろうか。(10/3)

具体的な事実は書いておくことができるが、その時の経験を支配していた印象は身体で覚えておくほかはない。
印象を忘れることなく、具体的なことを書くことが必要だ。(12/21)

西洋風の白い鉄柵。そこから木々の緑の静かな茂みが見えている。(11/28)

ランボーの詩には、音楽の対位法やフーガなどと同じものがあるのを感じる。
(1/15)

白く渦巻く波頭の上に鳥は舞い上がる。「ジュピター」 第四楽章。(10/13)





Toscanini "JUPITER"
 W.A.Mozart Symphony No.41 K.551 (4th Mvt) - [Vinyl record]



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知の神アテナはゴルゴンの首を自分の盾にはめた。知は、直視する者を石に変える盾を持つ。(12/24)

ブルフィンチ。「哲学によって頭が得ただけのものを、胸は失ってしまった」。
── 知神アテナと、軍神ニケの二つの概念を忘れまい。(12/25)

竹山道雄。「気韻の生動、気魄の躍動ということは、ずっと後に至るまで、日本の芸術の大きな指導原理だったように思われる」。(2/10)

静かな夜に、かすかな物音。── ときおり歩いていく、背中を丸めた人。
眠りにつく家々、毎夜毎夜、異なる思いの中で迎える夜。── 冬の星はいつも変わることはない。(1/23)

夢。洋風の広い階段、そうしてピカピカに磨かれた大理石の大広間。胸像が所々に置かれている。
僕は大広間をかけ抜け、複雑に絡み合った階段を登り降りした。その建物には外などなかった。僕は内部を往き来した。
僕の知らぬ男がいた。知らぬ男なのに、僕とは昔から親しかったような感じのする男だった。
大広間。劇場。── 異様な空間だった。僕はどこに行こうとしていたのだろうか。(1/21)

外山滋比古:「およそ変化には二種類ある。思想的変事と、様式上の転換である」。(12/18)

性格上の様々な要素の混合。反抗心と人懐こさ。にらむような目と朗らかな笑顔。他者と対立する要素があっても、混ぜ合わされれば夏のよく晴れた高原の風のようになることもある。
調味料はそれ自体不味いが、それが料理を美味くする。(12/28)

高校時代の寄せ書きから:「帆をはらなくちゃ ─ さち子さんの好きな「郷愁」から ─」(12/19)

冬の街、行きかう人々。思考によって多くを築いた彼は、そんな街の中を、大変な手間をかけて巡らなければならなくなる。── 自閉症とはそのようなものだろう。
(2/4)

ある思想を正当化しようとして、懸命にその作業を続ける人々。── その思想が目的としていることなど、すでにどこかに行ってしまっている。(1/30)

僕は「寛大な表情」が好きではない。あの微笑は何なのだろう、優越を確信したかのようなあの微笑は。
怒っているなら怒鳴りつけてこい。(12/28)

ある男。彼は本を読んでいる途中で、頭の中で別のことを考え始め、頭の中のことに没頭しながら、それでも目だけはページを追っているという風変わりなクセを持っている。
ピアニストの右手と左手のようなものだ。(12/27)

カミュ。── 彼は妻にすべてを語った。結婚の最初の日々のように、妻の手を取りながら。話し終わった時、彼は海の方を向いてじっと動かずにいた。
海の上では水平線の端から端まで、もう速やかな黄昏の色が流れていた。
「ああ、あれがいけなかったんだ」と彼は言った。
彼は若くなりたかった。フェルナンドも若くなってほしかった。そうしたら二人で出発しただろう、海の向こう側へ。(12/19)




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