※一次
ぱたむ、と軽い音と共に琥空がソファに沈んだ。人一人が倒れ込むにはあまりにも柔らかい音に千閃はどきりとする。
朝焼けが漏れるカーテンの隙間を睨み付けて琥空は唸った。
「なんつーか、疲れるわ……」
「だろうね」
「あいつらしちめんどくせぇ」
ぐち、と口を尖らせてため息をつく。肺の奥の淀みを塗り固めたような吐息。よほど疲れているらしかった。
慰めるように髪に指を差し入れれば、ぐりり、と頭皮を押し付けてくる。髪の根本を解すように触るとんふふ、と嬉しそうな声が上がった。
ゆる、と細められた琥珀色が朝日を受けて揺らめいている。
「眠い?」
千閃が尋ねると、まあね、と琥空が間延びした声で答え、瞼を閉じる。
生え揃った睫毛に触れるように目の上にキスをすれば、やめい、と抗議の声が上がった。
「ねみぃんだよ……邪魔してくれんな」
「ベッドにいくほうがいいと思うけど」
「肉体稼働限界迎えてんだよ……。五分寝りゃ動ける」
目を閉じたまま眉間にシワを寄せる琥空に、千閃もまた、眉間に力が入った。
この人の言う稼働限界は、かなり文字通り、だ。本当に動けない。肉体と精神の結びつきが弱いために気力だとか集中力だとかで己の限界前に気がつくことができないのだ。
今日、いや、昨晩から今朝がたにかけて、どうやら酷使されてきたらしい。
そんな風に使われてやることなどないのに。
「彼らの言うことなんて聞かなくていいんじゃないの」
ぽそり、ととう。顔にかかる髪を耳へと流せば、柔らかな輪郭が露になる。すり、と頬を寄せれば、琥空はむずがった。
「ん、んん、それでどうにかできんなら聞かねぇよ」
「どうにもならない?」
「ならんね……」
ひた、とくっついてくる千閃を払う腕も上がらないのか、琥空は微動だにしなくなる。
もう本当に限界らしいと悟って、千閃は琥空の体を抱きあげた。
「……ういてる」
「浮かせてるから」
「……なんで」
「五分、とかじゃなくちゃんと寝たほうがいいから。連れてくことにしたよ」
「構わねぇのに」
「構うんだよ、僕は」
にこり、と笑いながら千閃は言った。気遣わしげに、けれど、嬉しげに。大切な人を胸に抱き込んで。
「おやすみ。素敵な眠りがありますように」
「ん……」