「駅とは言え、通勤通学時間から外れた時間じゃ、人はそんなに集まらん。
無差別やないな。
と言うことは、誰かを待っているのか?
それとも、これからどこかへ行くのかな?」
さすがに博之に気味の悪さを感じたらしく、
「意味のわからんこと、言わんといて下さい」
彼女はベンチから立ち上がり、サブバッグを返してくれと右手を差し出した。
もちろん、博之にサブバッグを返す気はない。
「それ、私の鞄です」
「わかっているよ」
「ほな、返して下さい」
「返せんなぁ」
「え? 白昼堂々と泥棒をする気ですか?」
「あはは、泥棒てか、ははは」
博之はサブバッグを膝の上に乗せ、彼女の目を見つめた。
切れ長の奥二重、澄んだきれいな瞳をしているが、陰がある。
「警察に通報してくれてもええよ、ただ、私は勧めん。
通報を受けて駆け付けたお巡りさんは、このバッグが本当に君の所有物かどうか確認をするために、バッグの中を検める。
都合が悪ないんやったら、通報したらええ」
内頬を噛み、眉を下げた彼女は、どうしたものかと思案する様子で沈黙した。
サブバッグを取り返し奇妙な男から離れたい、はっきりと顔に書かれている。
つづく。。。
この作品はフィクションです。
実在する団体、人物は存在しません。