〈訳あって独りですが、この街で暮らしてゆきます〉 第1話 , 前話(17)
「イチゴちゃんの部屋の鍵、預かっている人?」
豊さんの問いかけに手を挙げる者はいなかった。
律子さんの再確認に正臣さんは、「預かっとらん」 と首を横に振る。
「よし、アパートへ行こう。
呼びかけても返事がなかったら、警察に」
平均年齢76歳の団体が、互いの歩行を庇い合いながら、雪道を猪突猛進。
健康自慢の年長者、正臣さんが先陣を切るものの、先に小走りを繰り返したせいで膝を震わせている。
気遣いながら、最後尾で団体を見守るしっかり者の由起夫さん。
誰ひとり、「ちょっと待って」 とは言わなかった。
警官の通報でアパート前にパトカーが集結し、辺りは一時騒然となった。
刑事ドラマさながらの光景。
ライトで床を照らし、ドアノブやテーブル、食器に粉を叩く。
冷たくなったイチゴの身体チェックが済むと、一同が合掌をし、担架に乗せた。
永らく暮らした部屋から運び出されるイチゴ。
『ホウレンソウ』 の常連客の咽び泣きを知る由もない。
〈訳あって独りですが、この街で暮らしてゆきます 19〉
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