【母子避難】「父ちゃんだって苦しいんだ」~郡山で父親の会。集団申し立ても視野に
福島県外へ妻や子どもを逃がしている親父たちが18日夜、勉強会と懇親会を兼ねて郡山市に集まった。除染、母子避難…。母親と比べ、わが子の被曝回避や避難に対してとかく理解が足りないと言われがちな父親たち。依然として放射線量の高い郡山で何を考えながら生活をしているのか、言葉少なながら、随所に本音がこぼれた。俺たちだってつらいんだ─。妻子と離れ汚染地で働く親父たちは、東電への集団申し立ても視野に入れながら、交流を続けて行く。
【職場では苦悩を共有できない】
「除染?終わったとしても子どもたちを郡山に戻すつもりはないね。だいたい屋根は何もしないし…。市の説明会で質問したけど完全に無視された。自宅は0.2μSv/hに達しないくらいにまで下がったけど、近所の家はまだ0.7μSv/hもある。これではとても戻せないよ」。首都圏に子どもたちを自主避難させている男性は、苦笑交じりに語った。
郡山市に生まれ育った別の男性(44)は、2011年9月から、埼玉県さいたま市内に妻と小4と中1の2人の息子を避難させている。「妻から反対はなかったですね。何が大変って、やっぱり生活費が二重にかかることですね」。男性は、低い声でポツリポツリと話す。「大変だけれど、放射線から遠ざけられているという安心感はあります。自分が死んだ後は子どもたちの健康に責任が持てないですからね。今できることをしてやらないと。少なくとも大学を卒業して就職するまでは向こうで生活させるつもりです。その先は、福島に戻ってくるかどうかは子どもの意思ですから」。
「職場の同僚たちと苦悩は共有できないですね」
そう話したのは41歳の男性。妻と4歳、8歳の娘を郡山市から福島県外に逃がしている。40人ほどいる職場の中で、母子避難をさせている男性は自分1人。周囲から理解されるはずもない。「ともすれば『夫だけ残して逃げている自分勝手な妻』と思われかねないですから。それに、仮に理解してくれる同僚がいたとしてもどうだろう?話題に上るかな…」
妻子と離れ離れの〝逆単身赴任〟はもうすぐ2年。収入減を恐れて避難に二の足を踏む男性たちの気持ちは良く分かる。二重家計のなか、妻子だけ逃がすのが精一杯。「避難先の幼稚園に入るのにも地元の住民票がないと駄目。福島に住民票を残しておけば18歳まで医療費は免除されるのに…。せめて制度さえきちんとしていれば、離れて暮らすことも消化できるんですけどね」
福田弁護士の作った資料に目を通す男性。2011年
9月から埼玉県内に妻と子どもを避難させている
【「子づくりする以上、被曝回避と排出は当然」】
50代の男性は、妻と2歳の子どもとともに北海道札幌市内に移住。仕事の都合上、自身だけ週に数回、郡山市に戻ってくる生活。妻は妊娠中。春には新しい命が誕生する。「もう1人子どもが欲しい。子づくりする以上、放射性物質を避け、体内から排出させるのは当然。男の責任です」と語る。
食物を通した内部被曝は徹底的に避ける。郡山に戻る際は、北海道の食材を詰め込んで持参する。「福島の海産物なんて怖くて食べられません」。そして、集まった親父たちを見渡して言った。「やっぱり、横のつながりが必要ですね。男たちで連帯しないと」。
親父の会を主催したのは、郡山の母親グループ「3a! in 郡山」。まもなく原発事故から3年。ようやく実現にこぎつけた。代表の野口時子さんは「お父さんをこういう場に引っ張り出すのは、お母さんを集めるよりも大変。やはり見栄や体裁があるでしょうから」と話す。
会には、宮城県内に小学生の息子を逃がしている母親の姿もあった。
「向こうの中学校への進学を決めました。除染への信頼はありません。戻すつもりはない。将来、『お母さん、何であの時やれることをやってくれなかったの?』と言われたくないんです」
それは、この日集まった親父たちにも共通する想いだ。
親父たちを前に、これまで東電が支払った賠償金や
ADRの問題点などを説明する福田健治弁護士(左か
ら2人目)=郡山市
【郡山市民への賠償金は最大で72万円】
勉強会では、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(サフラン)副代表の福田弁護士が、原発事故以降に支払われた損害賠償金や、ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)への申し立てに関してレクチャー。これまでに、東電が郡山市民に対して支払った賠償金は、18歳未満の子どもや妊婦は52万円(40万円+追加賠償12万円)、数日でも避難した場合は72万円(60万円+追加賠償12万円)。それ以外の市民は一律12万円(8万円+追加賠償4万円)だった。
福田弁護士は、問題点として①白河市などの県南地域や会津、福島県外は損害賠償の対象外②賠償が低額すぎる③上記の定額賠償しか応じない④2012年8月末までで賠償を打ち切っている─を挙げた。現在、原子力規制委員会の委員長を務める田中俊一氏は当時、損害賠償の内容を決める文科省の「原子力損害賠償紛争審査会」の委員だったが、福田弁護士によると田中氏は当時から20mSv/年を下回る地域からの〝自主避難〟には否定的で委員会の閉会間際に、自主避難者への損害賠償に反対するメモを読み上げたほどだという。
また、上記賠償以上の損害賠償を求める手段としてADRへの申し立てがあるが、「仲介委員」と呼ばれる弁護士の提示した和解案を東電が受け入れない限り成立せず「東電に和解案の受け入れ義務はない点が最大の問題」(福田弁護士)。センターは原子力損害賠償紛争審査会の一部門で独立性はないため、審査会の決めた賠償指針を大きく逸脱する和解案が提示されることはないという。訴訟を起こす選択肢もあるが、費用や時間がかかる。どの手段を選んでも、被害者より加害者(東電)が優位に立っている現状が説明された。福田弁護士は「債務超過の東電に国が3兆円を超える金をあげて賠償しており、その東電が和解案を蹴るなんてけしからん」と語気を強めた。
「サフラン」はこれまで、区域外避難(自主避難)賠償への働きかけや、福島県との県境で汚染や被曝が指摘されている宮城県丸森町の集団申し立てなどに携わってきた。
福田弁護士は「母子避難をさせて福島に残された夫たちが『父ちゃんだって苦しいんだ請求』をしてもいいんじゃないかと思う」と話し、一定の人数が集まり次第、集団申し立てを起こす意向があることを明らかにした。参加者の一人は「その時はぜひ加わりたい」と応じた。親父たちがいよいよ、動き出す。
(了)