【伊達市長選あす投開票】被曝回避策怠った仁志田市政の交代望む親たち | 民の声新聞

【伊達市長選あす投開票】被曝回避策怠った仁志田市政の交代望む親たち

いまだ高濃度汚染が解消されない福島県伊達市。原発事故以降の市政を評価するか否かが問われる伊達市長選挙はあす26日、投開票だ。4人が立候補したが、3選を目指す現職の仁志田昇司氏(69)と市議の高橋一由氏(61)の事実上の一騎打ち。原発事故以来、子どもたちの被曝回避に奔走してきた市民は明確に「現職NO」を口にするが、一方で高橋氏への不安も小さくない。子どもたちに被曝を敷いてきた仁志田市政を市民は支持するのか。高橋氏のかじ取りで被曝回避が前進するのか。


【「子どもの血液検査」断った仁志田市長】

 「選びようが無いんですよ。現職には入れたくない。でも有力対抗馬にもきな臭い噂が絶えない。完璧な候補者などいないことは承知の上ですが…」

 50代の会社員男性は苦笑した。
 阿武隈急行沿線に暮らす男性には、受験生の娘と年齢の離れた息子がいる。自宅は0.3μSv/h前後、さらに隣接する畑では0.5-0.6μSv/hに達するが、市からは年間積算放射線量が5mSv未満の「Cエリア」に指定され、除染は「雨どい直下の土を取り除いただけ」という。

 これまで何度も、仁志田市長への面会を求めてきたが、すべて無視された。「市長への手紙」も書き、Cエリアの面的除染とすべての子どもたちの中長期的な保養を求めた。妻も、被曝の実態を把握するために子どもたちの血液や尿の検査を実施するよう訴えた。しかし市側から届いた返事には、こう書かれていた。「子どもに余計なストレスを与えるから行いません」。怒りを封じ込めるような男性の苦笑が、仁志田市政の無策を表している。

 市長選告示2日前の1月17日付で郵送されてきた書類がある。「Cエリア除染調査票」。ホットスポットの除染しかしないことへの市民から不安の声が多く寄せられているとし、どのような除染を望むかアンケート調査をするという。差出人は放射能対策課だった。そもそも仁志田市長は昨年末、これ以上、除染を進めても効果は得られないと表明したばかり。「選挙が近づいた途端にこれだ」。男性は呆れる。

 男性の元に最近、知人から一通のメールが届いた。「JAが、期日前投票で現職に入れるよう職員に指示を出している」。なりふり構わぬ仁志田陣営の必死さが垣間見える。男性は「これが組織票というものか…」とつぶやいた。
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(上)現職を含む4人が立候補した伊達市長選挙
(中)「セシウムだけでなく、ストロンチウムやプル

トニウムも徹底的に除染する」と演説する高橋一

由候補

(下)高橋陣営は「徹底除染」「復興加速」などの

のぼりを作ったが、資金源を疑問視する声もある



【「徹底除染」強調する高橋候補】

 保原町の高橋一由選挙事務所。「徹底除染!」「復興加速!」「変えよう伊達市」と書かれた緑色ののぼりが何本もはためいている。
 バス通りに面した事務所前でマイクを握った高橋氏は、時折ドライバーに手を振りながら「住んでいる私たちが不安なのに復興などできるわけありません。徹底除染をやらずして企業も来ません。人口流入もありません。セシウムだけではありません。プルトニウムもストロンチウムも全て、徹底的に除染します」と支持を訴えた。
 事務所で取材に応じた高橋氏は「いま、市民の間には市政に対する不信と被曝への不安が渦巻いています。除染をしても安全ではないかもしれない。でも、安心はしてもらえる。必ず徹底除染をやります。期待していただいて良いですよ」と語った。仁志田市長がこれまで、市民との直接対話を避けてきたことも批判した。

 自宅が「Aエリア」(市の分類では「特定避難勧奨地点があるなど、市内では比較的高線量の地域」)に属するため、Cエリアに避難中の40代母親は「選択肢は高橋さんしかいないですよね。表土をはぐと言っているし…」と市長交代に期待を寄せる。

 避難したことで、生活空間の放射線量は下がった。元の自宅周辺は除染で生じた汚染物の仮置き場が続々と造られ、生活圏を脅かすまでになってきた。生活圏の放射線量も1.0μSv/hを超す個所もある。それに比べれば環境は悪くないが、それでも子どもたちの通学路は0.3-0.4μSv/hもあることを確認している。

小学校までの道のりは、徒歩で片道数十分。感染症の流行もありマスクを着用するよう言い続けているが、子どもたちは「周りの子がしていないから」と嫌がるようになった。「毎日毎日吸い込んでいるかもしれない」との不安は消えない。それなのに除染の実績ばかりを国にアピールする仁志田市政を支持できるはずがない。

 「もちろん、市長が交代しただけですべてが変わるとは考えていません。仁志田市長がやってきたことを変えるのは並大抵の努力では無いでしょう。だから、私たち市民もバックアップしないといけないと思う。子どもたちのためになるように、こちらがもっていかないといけませんね」
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(上)(中)阿武隈急行が走る市中心部も、依然と

して0.4μSv/h前後と放射線量は低くない

(下)高濃度に汚染された小国地区では、0.5μSv

/hは低い方だ

【「市長の決断力」で除染が先行した?】

 仁志田市政への批判は、都市部より郡部の方が強烈だ。「特定避難勧奨地点」にも指定された霊山町下小国築の住民は「ここらでは、誰に聞いても『現職以外ならだれでも良い』と答えるよ」と話す。集落を荒らすだけ荒らした勧奨地点制度。解除の際も「説明会を」と求めたが、市側は応じなかった。除染が終わったはずの小国小学校も、校舎に隣接する用水路は、いまだに1.0μSv/hを超す。

 「でもね、3人も対抗馬が立候補したんでは批判票が割れてしまう。それに、大票田はやっぱり保原町。いくら霊山町などの郡部が束になって反対したとしても、都市部を抑えられたら負けちゃうよね」

 伊達市は昨年10月16日、原子力規制委員会に「伊達市の除染について」と題した文書を提出。その中で「伊達市の除染が先行した理由」の一つに「仁志田市長の決断力」を挙げた。さらに「仮置き場へのかたくなな抵抗」があると指摘。「全体を見ている行政vs自分の家だけの住民」「年間1㍉の呪縛」などと表現し、暗に市民を批判している。
 仁志田市政で本当に伊達市の子どもたちは守られるのか。今後の被曝回避策を占う伊達市長選は26日、投開票。


(了)