「がん検診啓発パンフレット」が浮き彫りにした行政の鈍感さ~郡山市保健所は原発事故との関連を否定 | 民の声新聞

「がん検診啓発パンフレット」が浮き彫りにした行政の鈍感さ~郡山市保健所は原発事故との関連を否定

福島県郡山市の保健所が小学生に配った啓発パンフレット「最大の国民病-がんのおはなし」に批判の声が上がっている。保健所の担当者は「原発事故とは全く関係なく、がん検診の受診率を上げたかった」と戸惑いを隠せない様子だが、監修は〝安全派〟の中川恵一東大病院准教授。被曝への不安が未だ根強い中での「クラスの2人に1人はがんになる」との内容は、あまりにも親たちの感覚とはかけ離れており、鈍感だと言わざるを得ない。保健所には連日、問い合わせの電話が寄せられており、担当者は釈明に追われている。


【保健所の狙いは「がん検診受診率の向上」】

 郡山市保健所地域保健課によると、啓発パンフレットは市内の公立小学校に通う全6年生に配布した。原発事故が起きる前年の2010年に初めて作成。当初から、東大医学部附属病院放射線科の中川恵一准教授がまとめたテキストを引用しているという。現在は、著作権の関係上、テキストをまとめた東京法規出版から市が内容を購入する形で作成している。

 パンフレットは全8ページ。表紙から〝中川色〟が前面に押し出され、「将来クラスの2人に1人ががんになる!?」とし、がん細胞の解説、がんの種類、治療法、検診の大切さなどがイラストとともに盛り込まれている。6ページ目には「命には限りがあります」として「日本人のがんの知識は非常におそまつ」「人はいつか死ぬ」「生きてきて死ななかった人間は1人もいない」「人間の死亡率は100%」「限りある命を大切に生きよう」などと記している。

 「とにかくがん検診の受診率を上げたいんです。6年生なら、自分でもある程度理解ができ、親にも読ませてくれるだろうと考えました。他自治体と比べても先駆的な取り組みで、良いことをしていると思っていたのですが…」と保健所の担当者。最新のデータでは、郡山市が行っているがん検診の受診率は、胃がんで23.9%、最も高い大腸がんでも27.2%にとどまっている。保健所としては、子どもと親の両方に受診を促す〝一挙両得〟を狙ったパンフレットなのだという。
民の声新聞-パンフ①
民の声新聞-パンフ②
郡山市保健所が市内の小学6年生に配った啓発

パンフレット「最大の国民病-がんのおはなし」。

表紙には「クラスの半分ががんを発症する」と描か

れ、裏表紙には「がんから身を守る8つの方法」が

書かれている


【治療中のがん患者からも怒りの声】

 郡山市議の1人は、こう批判する。

 「原発事故から2年8カ月という微妙な時期に、なぜこのような表現のパンフレットを配るのか?何か別の意図があると勘繰られても仕方ない」

 この市議は、同僚市議とともに保健所や市教委を訪れ、配布の真意などを尋ねた。「本当にがん検診の受診率を上げたいのならば、『みんなで検診を受けましょう』と全面に打ち出せば良い。これでは逆に不安をあおっている」。同行した別の市議も「被曝の影響にとても敏感になっている子どももいて『どうせ僕はがんで死ぬんでしょ?』と話すそうです。だから、口に出さなくても心の中ではすごく心配している母親は多いんです」と話す。この市議の元には、現在がん治療中の患者から「がん患者の3人に1人が死ぬ、と書くなんて、がん患者を小馬鹿にしている」との声が寄せられたという。

 ましてや、中川准教授は原発事故直後から「安全・安心キャンペーン」に積極的に寄与しているとして〝御用学者〟と揶揄されている。それだけに「子どもたちが将来、がんに罹っても『原発事故由来ではない』と思わせるためのパンフレットではないか」との声まで上がる。

 市議らは「市教委も内容がおかしいと言っていた。そもそも、詳しく説明を聴かないと意図が分からないなんて、出し方が悪い。〝一挙両得〟には無理があり、4年間続けてきても受診率は上がっていないのが現実。子どもは子ども向け、親には親向けの検診啓発をするべきではないか」と話した。
民の声新聞-開成山
民の声新聞-保健所
原発事故によって撒き散らされた放射性物質。

わが子の健康に悪影響を及ぼさないか、不安を

抱く親は少なくない(下の写真は郡山市保健所の

モニタリングポスト)


【想定外だった被曝と絡めた反響】

 「対応に追われる毎日です。原発とは全く関係なく、原発と結びつけた反響があるとは想定外でした。がんは不治の病ではない、早期発見で治せるということを分かって欲しいだけなんです」。パンフレットの存在がインターネット上で批判的に紹介されたことを機に、保健所には連日、郡山市内外から問い合わせの電話が寄せられているという。

 だが、原発事故の影響で郡山市内にも依然として高濃度に汚染された場所が点在する現状を考えれば、自ずと子どもや親の不安に配慮することができたはず。もし、全く頭になかったのだとすれば、あまりにも市民感覚からはかけ離れた、鈍感な行政マンだと言わざるを得ない。保健所の担当者はさらに「インターネットのおかげで、市民がわれわれ行政よりも隣のおばさんの言葉を信用するようになってしまった」とネット批判を口にしたが、これも的外れな発想でしかない。

 郡山市内の母親は「言いたいことは分かるが、なぜこの時期にこのような内容のパンフレットを配ったのか理解に苦しむ」と首をかしげた。いま、本当に必要なのは被曝による健康への影響を最小限に食い止めることだ。一般論としてのがん予防を、「クラスの2人に1人はがんになる」という言葉で子ども向けに行うことが喫緊の施策ではないだろう。

 「避難したくてもできないのが現状」(郡山市議)。汚染に関する積極的な情報開示や福島県外への避難を支援してこなかった行政への不信感は、行政が考えている以上に高いことも再認識する必要がある。



(了)