【3度目の夏休み】屋内遊び場を駆ける子どもたち~ペップキッズこおりやま
夏が来た。原発事故後、3度目の夏休み。福島県郡山市内の屋内遊び場は、被曝の不安から屋外での遊びを避ける親子連れでにぎわっている。外遊びを奪われた子どもたち。怒りを発散させるように走り回る。今なお、払拭されない被曝への不安。福島に〝本当の夏〟がやってくるには、まだまだ時間がかかる。原発事故はまだ、終わっていない。
【除染した公園でも払拭されない被曝の不安】
駐車場の整理にあたる初老の警備員が苦笑した。「原発事故さえなければ、こんな所で遊ぶ必要も無いのにね。今日も満車だよ」。雨模様も手伝ってか、平日にもかかわらず館内は親子連れでいっぱいだった。「これでも、土日に比べれば空いてる方ですよ」とスタッフ。子どもたちは、汗で髪の毛を濡らしながら走り回っている。
「午前中に来て、いったん休憩して午後にもう一度遊ぶ。一日2回利用してますよ。外遊び、特に土いじりにはまだまだ不安は無くならないですね。だから、こういう施設は重宝していますよ」。小学校1年生と3歳の孫が遊ぶ様子に目を細めながら、男性は笑った。
別の母親は須賀川市の出身。結婚して郡山市内で生活している。小学校2年生の娘と生後10カ月の息子を週に1回は連れて来るという。
「除染したとはいえ、公園でわが子を遊ばせて良いものか…。今でも不安はあります。ママ友とも、そういう話題になりますよ。かといって、家で毎日DVDを観るなどして過ごしてばかりでもいけないので、ここに来ます。上の子は、本当は小学校にあがるまでには自転車に乗れるようにしたかったんですけど、屋外で遊べる状況でなかったですからね…。仕方ないです」
県外避難も考えた。家族会議も開いた。しかし、最後には夫の仕事がネックになった。また、恐怖心も避難をためらわせたという。
「外(県外)に出ようかと本気で考えました。でも、福島ナンバーの付いている車で県外へ行くのが怖かったんです。どんな仕打ちを受けるか分からなかった。それも、避難に踏み切れなかった一因です」
多くの子どもたちでにぎわう「ペップキッズこおり
やま」。原発事故から2年以上が経過しても、親
たちの被曝への不安は消えていない
=郡山市横塚
【被曝から目を逸らさないと生きて行かれない】
「ペップキッズこおりやま」は原発事故から9カ月後の2011年12月23日、東北最大の屋内遊び場としてオープン。施設は、郡山市を中心にスーパーマーケットを展開する株式会社ヨークベニマルが郡山市に5年間、無償貸与。一部をNPO法人に委託しながら市が運営している。
オープンから3カ月で利用者が10万人を突破。10カ月後の2012年10月には30万人を超え、現在では52万人に達している。一日の利用者は平均800人。土日は倍の1600人にも上るという。利用できるのは生後6カ月の乳児から12歳まで。90分ごとの入れ替え制。料金は無料で、コインロッカーも完備されている。
「マスクに長袖姿が目立った事故直後と比べると、かなり屋外で遊ぶ姿が見られるようになりました。でも、未就学児を持つ親は、やはり被曝の危険性について考えるのではないでしょうか。私だって、郡山産の米は食べたくないので会津から取り寄せていますから」。ある職員は母親らの気持ちを代弁するように語った。
「皆、被曝への不安を抱えながらも、一方で忘れたい、打ち消したいんです。親は原発事故や被曝の危険性を忘れようと努力していると思います。人は忘れないと生きて行かれないですからね。子育てに母親の影響は大きいんです。母親が不安に感じると子どもも不安になる。だから、関心が無いのではなく、見ないようにしているんだと思います」
小学校1年生の娘を連れてきていた母親は、被曝の危険性と背中合わせの生活での葛藤を口にした。
「子どもは砂などいろいろなものに触れるので、不安はかなりあります。でもね、子どもは遊びたいから外に飛び出して行ってしまう。それを無理矢理止めることもできないですしね…」
一日のうちで最も混雑するという午後2時の回が始まると、館内はあっという間に子どもたちの歓声と熱気に包まれた。
(上)水遊びもできる砂場は70㎡の広さ
(下)館内には屋内外の放射線量が掲示されている
【砂遊びは除染済みの校庭だけ】
絵画教室の講師をしている女性は、汗だくになりながら甥っ子を追いかけていた。
「放射線量を気にしたり危機感を募らせている人は、とっくに県外避難をしていますよ。でも出たら出たで、福島に残った人との関係はぎくしゃくしてしまっています。中には戻って来たいと考えている人もいるけど、まだ放射線量が高いからね、戻るタイミングを決めかねているみたい」
小学校2年、4年、5年生の三児の母親は「小学校の校庭は除染して砂を入れ替えたので良いが、校庭以外では絶対に砂遊びはさせません」と言い切った。
原発事故後、3度目の夏休みは佳境を迎えた。そして、子どもたちは今日も、望まない被曝を強いられている。
(了)