「あじさい小路」に見え隠れする被曝への本音と建前と葛藤~福島市・土合舘公園
主催者は分かっていた。放射線量が決して低くないことも、子どもたちの身体に悪影響を及ぼす可能性があることも。一方で街の〝地盤沈下〟も重要課題…。6日に始まった福島市松川町の「あじさい小路」。会場となった土合舘公園では、イベント実施と被曝をめぐり本音と建前と葛藤が交錯していた。もはや外部被曝の心配はないと言い切る母親もいた。それでもやはり、私は言い続けたい。放射線量の高い土合舘公園で子どもたちが集まるようなイベントを開くべきではない。
【線量の高さは承知の上…萎縮していられない】
開会の式典を緊張気味に終えた松川町商工会の石井勝美会長(81)は、汗をぬぐいながら思わず本音を漏らした。
「放射線量にあきらめ半分、慣れ半分といったところかな」
会場では、「ふくしまの元気は松川から」の幟(のぼり)が風になびいていた。式典で、石井会長は「震災と原発事故で、地域経済はかつてない危機を迎えている。このイベントを実施することで元気な福島を一日も早く取り戻すことができると判断した」とあいさつした。しかし、その裏では、イベント開催に慎重な声もあったという。
「婦人部の中にね、そういう意見もありました。ここの放射線量が高いことは知っています。風評被害と言うけれど、そればかりではない。実害があることも分かっています。でも萎縮してはいけないと思うんです」
震災前は8日間も開催されていたイベントを2日間に短縮した。原発事故が収束しないなか、地域の恒例行事となったこのイベントまでもやめてしまったら…。石井会長の表情は、懇願しているようにも見えた。立場上、地域の活性化を掲げざるを得ない事情も良く分かる。しかし、やはり私は子どもたちも多く訪れるようなイベントを、高線量の公園で行うべきではないと主張したい。
商工会婦人部の女性にも、この想いをぶつけた。女性は少し表情を曇らせて、しばらく考えた後に言った。
「子どもたちを立ち入り禁止にしなければいけないほどの放射線量でしょうか。局所的に空間線量の高い個所はいくらでもあります。それを気にしていたら、ここでは生きていかれません。出て行くしかない」
(上)土合舘公園の中腹に設置されたモニタリング
ポストの数値は、0.7μSVを超していた
(下)散策路には、父親に連れられた小学生の姿も
=福島市松川町土合舘
【安全だとPRしながら除染に力注ぐ矛盾】
標高228.1メートル、5.5ヘクタールの土合舘公園。JR東北本線・福島駅から3つ目。松川駅から徒歩で30分ほどの小高い山に、4500株のアジサイが植えられている。昨年の猛暑が影響し、開花が遅れ気味とか。しかし、そんなことより、私はやはり放射線量と子どもたちへの悪影響が気になってしまう。散策路では、親に連れられた子どもの姿を多く見かけた。
50代の関係者は、匿名を条件に本音を語った。
「一方で『福島は安全ですよ』『危ないというのは風評被害なんですよ』と言いながら、他方で多額の費用をかけて除染を続けている。これは大いなる矛盾なんですよ」
「でもね、では現実問題として皆が県外に避難できますか?避難先で今と同じ生活レベルを保てますか?私も含めて、ここの人々はここで生まれ育った。先ほどの矛盾点も受け入れるしかないんです。今の放射線量が生きて行くうえで身体に良くないか分からないわけだし…」
式典で代読された瀬戸孝則福島市長のメッセージでは、やはり「風評被害を払拭」という文言が使われた。「復興を進めるためには、福島の元気な姿を発信していかなければならない」。男性は、行政による安全安心キャンペーンには疑問を抱きつつも、福島で生活していかざるを得ない葛藤もあると語った。
公園内では、地域住民で構成される「花案内人」たちが来場者のガイド役を務めた。花案内人の一人の女性は、語気を強めながら私に言った。
「伝えて下さい。ここでは『異常』が『普通』になってしまっている。こんな事故、前例が無いんだから私たちはモルモットですよ。皆、仕方なく心の中で折り合いをつけながら生活をしているんです」
彼女はもう一度、強調した。
「伝えてください」
(上)公園内の散策路は軒並み、0.4-0.5μSV
(下)地元のゆるキャラ「ももりん」と「八重たん」も
登場した。だが「ここは被曝するから危ないよ」と
は言ってくれない
【神経質になる方が身体に悪いと言う母親も】
土合舘公園近くの福島市立松陵中学校の校庭からは、少年野球の歓声が聴こえていた。
川俣町のチームと福島市のチームとの対戦。校舎脇に設置されたモニタリングポストは0.166μSVを示していた。
わが子の応援に来ていた40代の母親は「もう、空間線量を気にしていたらキリがないですよ」と話した。
原発事故直後、県外避難も検討した。しかし、2人の小学生が新しい環境になじめるかを考え、残ることを決めた。「幼子だけだったら避難を決断できていたでしょう。でも、2人が避難先で受けるであろうストレスを考えたら、その方が身体に悪いような気がして。今だって、空間線量が1.0μSVを超えなきゃいいなとは思っていますよ。でもね、そればかり考えて神経質になる方が余計に身体には悪いですから」。
保護者で通学路の除染も行った。だが、車が塚するだけでも放射線量が上がることに気付いた時、「山に囲まれている限り、除染で放射線量を下げるのは無理だ」との結論に達したという。「川俣も、山木屋以外は住めない数値ではない。外部被曝はもう、気にしなくて良いのではないかと思いますよ。土合舘公園いだって、長時間滞在しなければ大丈夫なんじゃないですか」
未曽有の大震災と原発事故から間もなく2年4カ月。これが〝折り合い〟なのか
(了)