【ふくしま集団疎開裁判】「由々しき事態」と低線量被曝を認定、だが結論は「自主避難せよ」の暴論 | 民の声新聞

【ふくしま集団疎開裁判】「由々しき事態」と低線量被曝を認定、だが結論は「自主避難せよ」の暴論

福島県郡山市の中学生ら14人が2011年6月、0.193μSV/h以下の安全な学習環境を求めて郡山市を相手取り提訴した「ふくしま集団疎開裁判」の控訴審で、仙台高裁は24日、申し立てを却下する決定を下した。高裁は、「児童生徒の生命・身体・健康について由々しい事態の進行が懸念される」と低線量被曝の存在と子どもたちに与える悪影響を認定。「被曝を避けるには空間線量の低い土地へ避難するほかない」とまで言及しながら、「自主避難すれば良い」との暴論を展開。「自主避難に大きな支障はない」「自主避難を困難とすべき事情は認められない」などと一蹴した。〝逃げたくても逃げられない〟子どもたちの事情は無視した仙台高裁。弁護団は「チンプンカンプンなロジック」と呆れた。

【「年間1mSVにこだわるなら自主避難しろ」の暴論】

 決定は、予想通り「却下」だった。

 仙台高裁の主張は大別して2点。①ただちに人体に影響ない②自主避難に何ら支障はない─だ。

 高裁は「相手方(郡山市)の管轄行政区域においては、特に強線量の放射線被曝のおそれがあるわけでも、また、避難区域等として指定されているわけでもなく、今なお多くの児童生徒を含む市民が居住し生活しているところであって…空間線量率をみる限り、そこで居住生活することにより…中長期的な懸念が残るものの、現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼすおそれがあるとまでは認め難い」「相手方(郡山市)は、現にその設置する中学校で多数の生徒に教育活動を行っているものであるところ、現にその学校施設での教育を受けている生徒がおり、その教育活動を継続することが直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまで認め得る証拠もない」と述べ、郡山の子どもたちの被曝回避が喫緊の課題ではないと断じた。

 自主避難に関しては「抗告人が主張するような年間1mSV以下という積算空間線量率の環境が確保されるような学校生活を含めた生活を送るとなると、抗告人が自宅を離れた地に転居して教育活動を受けることは避けることができない」としたうえで「転居先での公的教育機関による教育を受けることでその目的は十分に達することができるはず」「転居先での公的教育機関が設置した学校施設で学校教育を受けることに何らの妨げもない」と一蹴。「集団疎開」に関しても「あくまで抗告人個人の放射線被ばくを回避するための…個人の請求なのであるから、他の生徒の動向については当然にこれを斟酌すべきものではない」とした。友人と離れることを理由に子どもたちが避難に難色を示すことについても「大きな支障があるとはいえず、困難とすべき事情は認めることができない」と退けた。

 分かりやすく言えば、仙台高裁の主張は「逃げたのは一部で今なお多くの子どもたちが郡山市内で生活しており、深刻な健康被害は出ていない」「郡山市内で年間1mSV以下の環境を確保するのは難しく、福島県外へ避難するほか方法はない。逃げたければ逃げれば良いわけで、誰も何も妨げない」となる。そんなことは百も承知で起こした訴訟であることを裁判官はご存じないのか。まったく、血も涙も無いとはこのようなことを指すと言わざるを得ない。
民の声新聞-却下
民の声新聞-ふくしま集団疎開裁判
仙台高裁の「却下」決定を受け、郡山市内でも開

かれた記者会見。関係者は一様に落胆の表情を

隠さなかった


【低線量被曝と除染の不十分さは認定】

 一方で仙台高裁は、一審の福島地裁が避けた「被曝の存在」に言及。

 「郡山市の設置する学校施設については、校庭の表土除去、校庭整地などの除染作業が続けられていて一定の成果を上げているものの、未だ十分な成果が得られているとはいえない」「ガンマ線の飛来を考えると地域ぐるみの除染が必要であり、しかも除染は一回では不十分で何回もする必要があることとされている一方で…汚染土の仮置き場が容易に見つからないことが、除染作業が進まない理由とされている」と分析。そのうえで「郡山市に居住し、学校に通っている抗告人は、強線量ではないが低線量の放射線に間断なく晒されているものと認められるから、そうした低線量の放射線に長期間にわたり継続的に晒されることによって、その生命・身体・健康に対する被害の発生が危惧される」として、「児童生徒の生命・身体・健康について由々しい事態の進行が懸念される」と明言した。

 除染に関しても「一定の除洗(ママ)の成果を上げるに至ったとはいえ、なお、広範囲にわたって拡散した放射性物質を直ちに人体に無害とし、あるいはこれを完全に封じ込めるというような科学技術が未だ開発されるに至っていないことは公知の事実」「今なお相手方(郡山市)の管轄行政区域内にある各地域においては、放射性物質から放出される放射線による被曝の危険から容易に解放されない状態にあることは明らか」などと不十分さを指摘。郡山市が主張する「除染による放射線量の低減」には汚染土の仮置き場用地の確保など、まだまだ解消すべき課題があると言及した。
民の声新聞-除染をしても…①
民の声新聞-除染をしても…②
被曝の存在と除染の不十分さは認定した仙台高

裁。高濃度に汚染された開成山公園も、除染をし

ても0.4-0.7μSVに達する

(2013年04月17日撮影)


【「高裁のロジックはチンプンカンプン」】

 決定を受けて都内で記者会見を開いた弁護団。井戸謙一弁護士は「結果としては目的を果たせなかったが、低線量被曝について『由々しき事態』と強く書いている。これを引き出したこのは成果だと考えている」と話した。

 柳原敏夫弁護士は、被曝の危険性を認定しながら公的な集団疎開の必要性を退けた高裁に対し「キツネにつままれたような決定だ。決定文をただちに理解できる人は常人ではないと思う。チンプンカンプンのロジックだ」「由々しき事態としながら自主避難すれば良いなんて、決定文の前半と後半では別々の裁判官が書いたのではないか」と批判した。

 「自主避難が難しい理由を述べてきたのに、転校することで被曝回避は達成できると、自主避難を前提とした話にされてしまった。自主避難の難しさを正面から取り上げなかった」と悔しさをにじませた。

 郡山市内でも支援者らが「自主避難ができる人はとっくに避難している」と怒りを口にした。郡山市議の駒崎ゆき子さんは「これからも、郡山市の危険性を多くの人に自覚してもらえるように活動をしていきたい。子どもたちを積極的に保養に出すように、子どもたちが郡山から出られるように、夏休みに向けて取り組んでいきたい」と話した。

 郡山市の14人の中学生が起こした訴訟は、地裁、高裁と退けられた。司法の判断を待ちきれずに自主避難をした家族もいる。国も地方自治体も司法も、現在進行形の被曝から子どもたちを守らないことが確定した。


(了)