【双葉町長選挙】進まぬ補償にいらだつ町民~浮き彫りになった世代間での考え方の違い
井戸川克隆前町長の辞職に伴う双葉町長選挙は10日、投開票が行われ、獣医師で2月の町議選で再選したばかりの伊澤史朗氏(54)が圧勝した。前回より20ポイント近く下げた投票率は過去最低。初めから結果の見えていた選挙戦は盛り上がりに欠いたが、世代間での考え方の違いを浮き彫りにした。3.11前夜に誕生した新町長は、帰還に向けて大きくかじ取りをすることになりそう。それが本当に町のためになるのだろうか
【国は早く土地と家を買い上げてくれ】
「選択の基準?やっぱり双葉町のことを分かっている人でしょう」
郡山市内に避難している60代女性の言葉が、今回の選挙を如実に表していた。
井戸川前町長が再出馬を表明し、体調不良を理由に取りやめ。結局、立候補したのは現職の町議に元町議、元県議と山梨県の男性。この時点で伊澤氏の勝利は決まっていた。
間もなく80歳になるという男性は、元県議が掲げた「福島市内に仮の町をつくる」という公約に対し「福島市はとにかく寒い。多くの人がいわき市を選ぶのは、気温もあるんだ。浜通りと中通りは全然気候が違うからね」と否定した。さらに「福島のことは福島の人間でなきゃね。まあ、山梨の人は第一種放射線取扱主任者の免許を持っているということだから悪くなさそうだけど…」とも。
郡山市内の仮設住宅にクラス男性(68)は「とにかく補償だ」と話した。
「もう帰れないんだから、あきらめるしかないんだ。だからこそ、国が土地や家を買い上げてくれたら、その金で新しい土地で暮らすことができる。いつまでも仮設住宅では落ち着かないよ」
一時帰宅のたびに土足であがるようになってしまった自宅。カビ臭さが鼻をつく。もはや、人の住めるような状態でないことは、自分自身が一番よく分かってる。新しい町長には、早く国との交渉を始めてもらいたいと願っている。
一票を投じる男性。町民たちは一日も早く〝仮〟
の生活が終わることを切に願っている
=福島県郡山市の双葉町役場福島支所
【戻りたい高齢者と戻らない若者】
町役場が拠点を置いている埼玉県加須市から応援にきていた男性職員は「福島県内に避難している人と県外に避難している人とで考え方、井戸川前町長への評価がまるで違う。これがウチの町の特徴でしょうね」と苦笑した。
いわき市在住の30代男性も、世代間での考え方の違いを口にした。
「井戸川さんは正しかったんです。僕も除染は無駄だと思う。除染をしたって帰れるわけがないでしょう。そんなものに多額の予算をつぎ込むのなら、新しい町づくりに使って欲しい。でも、上の世代はやっぱり住み慣れた双葉町に帰りたいんです。だから除染を否定する井戸川さんを支持できない。気持ちは分かりますけどね」
地元メディアの記者が解説する。
「井戸川さんは、加須市での支持率は非常に高いんです。でも、ここ郡山では逆。やぱり皆、帰りたいんですよ、ふるさとに。県内避難者は年齢層が高いですから。それに、目に見えて症状が出ているわけでは無い。そうすると、いくら井戸川さんが『福島は危険だ』正論を吐いても伝わらないんです」
実際、投票所では「井戸川さんは駄目。独断だから」「国の大事な会議を欠席するようでは駄目ね」などの声を多く聴いた。
ある男性は言った。
「30年後に町に戻る?そしたら俺は110歳だよ。生きてるわけねえっぺ。俺は双葉町の墓に入りたいんだ」
盛り上がりに欠いた選挙戦。投票率は20ポイント
近く下がり過去最低だった
【フクイチで迎える3.11 内部被曝は2万cps】
郡山の投票所には、原発事故以前から今も福島第一原発で働く30代男性の姿もあった。
妻と共に一票を投じた男性。妻に「3.11はどう過ごすか」と尋ねると「黙とうするくらいかな。でも、この人は明日も原発での仕事があるから心配なんです」と表情を曇らせた。
原発労働者を取り巻く労働環境の過酷さは、既に多くのメディアが報じているが「本当に酷かったですよ。食事も最初は非常食やビスケット。それがパンになり温かいカップラーメンになり…。今ではかなり良くなりましたけどね」と振り返る。
しかし、妻が案じるのは夫の健康だ。事故以降、どれだけ被曝をし、健康に悪影響を及ぼしているのか想像もつかない。ただでさえいわき市への避難を余儀なくされている身。不安は尽きない。
「そりゃ、相当取り込んでいると思いますよ。何せ、作業員が次々と行き交う通路の両脇に座ってパンをかじっていたんですから。内部被曝線量は定期的に測っているけれど、一番高い人で200万cpsだったかな。俺は大したことなくて2万cps。まあ、排泄されるしね、大丈夫でしょう」
淡々と話す夫の横で、妻は新しい町長への期待を口にした。
「この2年間、何も進まなかった。進めるように努力しているのかもしれないけれど、私たちには伝わっていないんです。他の双葉郡の人たちと比べて遅れていて、恥ずかしくて双葉町出身だと口にできないくらいです。これで、少しでも一歩でも前に進めれば良いと思います。もう、双葉町に帰れるとは思っていませんから」
(了)
