仙台高裁は現在進行形の被曝から目をそらすな~ふくしま集団疎開裁判控訴審始まる
福島原発により健康が脅かされているとして、郡山市内の子どもたち14人が市を相手取り安全な場所での学習を求めた「ふくしま集団疎開裁判」の控訴審が1日、仙台高裁で開かれた。同市内の放射線量が依然として高いことや甲状腺異常が既に確認されていることなど被曝被害を正面から主張する弁護団に対し、裁判所側は被曝問題は避け、自主避難の可否や緊急性の有無を論点にする構え。審理前には裁判所の英断を求めるデモ行進も行われたが、司法の腰は重い。福島県の健康調査で確認される甲状腺異常は増える傾向にあり、弁護団は「被曝は現在進行形。民を切り捨てるな」と怒りと危機感を募らせている
【線量の高さには触れたがらない裁判所】
弁護団によると、仙台高裁で午後2時半すぎから行われた第1回審理には裁判官3人、書記官1人、申し立てをした子どもの代理として母親2人、弁護士4人、郡山市側弁護士2人の計12人が出席。約1時間にわたる審理の中で、弁護士ばかりでなく2人の母親も1人15分ずつ、申し立てをするに至った想いや自主避難に伴う苦労などを話した。裁判所側は裁判長のみが発言し、「なぜ、申し立てた子どもたちは県外に自主避難することができないのか」という主旨の質問に終始したという。
別室では、一審から数度にわたり意見書を提出している琉球大学の矢ケ崎克馬名誉教授や北海道・深川市立総合病院内科部長の松崎道幸医師が待機。弁護側が2人の意見陳述を再三求めたが、裁判長は「今日は当初から予定していない」と拒否した。また、今後の審理で2人に加えて福島県立医大の山下俊一副学長や神戸大学の山内知也教授の計4人の証人尋問を行うことも求めたが、こちらも「現段階では考えていない」と前向きな回答は得られなかったという。
審理後の記者会見で、井戸謙一弁護士は「低線量被曝について裁判所には正面から取り組んでほしいが、そのつもりは無さそうだ。『自主避難できるのならば緊急に仮処分をする必要性はないだろう』という理屈はおかしい。自主避難できるか否かでなく、子どもたちを安全な場所で学習させるのは行政の義務であるとさらに訴えたい」と高裁の姿勢を批判。「裁判官は職業上ポーカーフェイスなので表情からは分からないが、お母さんたちの話は心に響いたはずだ」とも話した。
柳原敏夫弁護士も「緊急性があるから仮処分を申し立てているのに『なぜ自主避難できないですか』と裁判長は聞いてくる。思わず目が吊り上がった」と怒りを露わにした。「そもそも、子どもたちが原発を壊したわけではないのに、なぜ自主避難しなくてはならないのか。子どもたちは純粋に被害者。交通事故でも加害者側に救護義務があるように、国や行政に子どもたちを安全な場所で学ばせる義務がある」。
「今日の様子だけでは評価は難しい」と話したのは光前幸一弁護士。しかし、放射能問題に対する司法の逃げ腰な姿勢は伝わってきたという。
「放射線量の問題には一切、裁判長は触れなかった。アンタッチャブル。そこに入り込むと大変なことになっちゃうぞ、という思いがあるのだろう。住民にはそれぞれに逃げられない事情があるわけだし、そもそも逃げられるか否かではなく行政にはやるべき義務がある。そこを理解させるよう、一つ一つクリアしていきたい」。見通しは厳しいが、一方で「仮処分事件の控訴審で裁判所が当事者を呼んできちんと話を聴くのは異例」(柳原弁護士)として、集団疎開を勝ち取る余地はあるとの見方もある。
第二回の審理は11月26日午後2時半から、仙台高裁で開かれる。
仙台高裁での1回目の審理後、記者会見する弁護団。
郡山市内の放射線量の高さには触れようとしない裁判
所側の姿勢に批判が相次いだ=仙台市青葉区春日町
【「国家権力が嘘を流している」と矢ケ崎名誉教授】
矢ケ崎名誉教授が今回の裁判に人生を賭けるほどに力を入れているのには理由がある。妻の母親が広島で入市被曝、大量に吐血をした末に亡くなった経験があるのだ。
「義母は原爆投下の翌日に広島市に入ったんです。そこで被曝をして、私たちが結婚してすぐに大量吐血をして亡くなった。これが被曝の実態です。あれから60年以上経って再び、国家権力によって嘘が流され、命が切り捨てられようとしている。これはどうしても許せません」
〝ミスター100mSV〟と呼ばれる山下俊一氏については「彼は医師でも研究者でもない。医師免許を持っているとうだけの、単なる国家官僚だ」「子どもたちをモルモットにしているという声があるが、そんな甘いものではない。徹底的に犠牲にしようとしているのです」と批判した。
福島県内に設置されたモニタリングポストの数値が低く表示されるよう設定されているとして、調査グループを発足。実際の計測値よりも50-60%ほどの数値が示されていることを突き止めた。その結果、昨年6月の時点で郡山市は市内の平均放射線量は年1mSVに達しないとの見解だったが、現段階で計算しても最低で1.7mSV、最高では7mSVに達するという。
「国が汚染を低く示している。大問題です。それどころか、国は事故後に年間被曝限度量を30mSVに引き上げてしまった。原発事故が起きると人間の抵抗力は20倍になるなんてことがわけがない。非常に危機的な状況であると裁判官に伝えたかったが呼んでもらえなかった」
松崎医師は、審理後の講演会で福島を取り巻く「医師」や「専門家」、「国」の欺瞞性を指摘した。
「人間の身体はワンパターンで定義することはできない。場合によっては原発事故から2-3年後に癌が増えることもある。人類初めてのことなのだから、次々と確認されている健康被害が被曝と無関係と断定する方がおかしい。事細かく慎重に、3カ月後、6カ月後と子どもたちの身体を追跡調査していく必要がある」と山下俊一氏らの姿勢を批判。「チェルノブイリ原発事故後、周辺国では乳がんや流産が増えた。ダウン症も増加している。それもノルウェーなど離れた国でも確認されている。今、甲状腺で見つかった3-5㍉ののう胞が今後大きくならないか、注視する必要がある」と話した。
2年前、全国の原発労働者のガン発症率が高いとの調査結果がまとまると、国は喫煙や飲酒を原因に挙げた。しかし、松崎医師の調べでは、定義を同じくすると原発労働者も一般国民も飲酒率も喫煙率も大差ないことが分かったという。
「国は原発が原因と特定されたくないので様々な原因を持ち出す。他の原因でたまたまこうなっているのだろう、と。そもそも、飲酒はガンの発症率とほとんど関係が無い。福島も然り。現段階では被曝が無関係などと断定できるはずがないのです。うやむやにされてはたまらない」
仙台高裁での審理を前に、仙台市内で行われた
デモ行進。右から2人目が矢ヶ崎名誉教授。「国
家権力によって嘘が流され、命が切り捨てられて
いるなんて絶対に許せない」と声をあげた(上)
支援集会では「今、守るべきものがあるから原発
はいらない」と「かんしょ踊り」も披露された(下)
【「今も放射線が子どもの身体を貫いている」】
審理に先立って行われた支援集会では、駒崎ゆき子郡山市議が「申し立てを起こした頃は、こんなに長くかかるとは思わなかった。夏休みに間に合わせたいと考えていたのに」と悔しさをにじませた。「子どもたちをこのまま福島に住まわせて良いのか本当に心配だが、市議会では復興や除染の話ばかり。子どもたちを逃がすという話題にならない」と批判。「動けずに悩んでいる親は多い。『どうしてあの時、避難させてくれなかったのかと恨まれる日がいずれ来る』という父親の話を聴いたばかりです」。
福島原告告訴団の団長でもある三春町の武藤類子さんは「こうしている間にも、放射線が子どもたちの身体を貫いている。これは人権問題だ」。「ふくしま集団疎開裁判の会」代表の井上利男さんが生活する県営団地は、いまだに0.8μSVもの放射線量があるという。「毎日、子どもたちが遊具で遊んでいる」と危険な状況下で被曝を強いられている子どもたちの現状を話した。
宮城県で子どもの被曝回避に取り組んでいる男性は「地続きなんだから、県境で放射性物質が入ってこないなんてことはない。福島の子どもたちを守るということは、宮城の子どもたちを守ることでもある。ぜひ裁判を支援したい」とエールを送った。
会場には、早くから裁判を支援している俳優・山本太郎さんも駆け付けた。脚の肉離れで車いす姿だったが「なぜ、こんなに大切な裁判を多くのメディアは報じないのか。国が決めた〝子殺し政策〟を後押ししているのがマスコミだからです。狂っていませんか?子どもたちを救えるのは大人だけなんですよ」と力強く呼びかけた。
集会の終わりには、会津地方に伝わる踊り「かんしょ踊り」も披露された。抑圧された民の踊り。
「いま、守りたいものがあるから、原発はいらない」
仙台駅前のアーケードを練り歩いたデモ行進でも、「子どもを守れ」とのシュプレヒコールが響き渡った。通行人は真剣に見入ったり、笑ったり、エールを送ったり、迷惑そうに通り過ぎたりと反応は様々。
今、大人たちが守るべきものは何なのか。
大人たちの愚策に巻き込まれた子どもたちの闘いは続く。
(了)