【原発県民投票静岡】集まった17万8千の署名~原発立地県の「民意」は届くか
浜岡原発再稼働の是非をめぐり、県民による投票を目指して署名集めをしていた「原発県民投票・静岡」は23日、法定署名数(約6万2000筆)を大幅に超える17万8240筆の署名を静岡県内各地の選挙管理委員会に提出した。福島原発事故後、電力消費地である大阪市や東京都で同様の署名活動が展開されたが、原発立地県で住民投票を求める署名が法定数に達したのは初めて。再稼働の是非は自分たちで決めたという民意は県議会に届くのか。答えは9月に出る。
【寄せられた署名は「地鳴りのようなうねり」】
5月13日から署名集めを続けてきたスタッフがこの日、静岡県内各地の選管を訪れ、署名簿を提出した。寄せられた署名数は、選挙人名簿登録人員数(有権者数)の5.79%にあたる。有権者数に対する署名率が最も高かったのは函南町で16.44%、次いで東伊豆町(13.85%)、下田市(13.43%)。逆に低かったのは小山町で0.43%、ついで御殿場市(1.56%)、浜松市浜北区(2.21%)だった。
各選管は、受理した署名に不備がないかチェックをする。代筆されたものや居住地以外で書かれたものなど明らかに不備と分かるものは既に事務局側で取り除いており、今後、さらに不備が見つかったとしても法定署名数を下回ることはない見込み。各選管での確認作業を終えた署名簿は一度、事務局に返され、改めて県の選管に提出される。県知事は20日以内に意見を付けた条例案を県議会に提出しなければならず、9月に予定されている県議会で審議されることになりそうだ。
静岡県庁で記者会見を開いた代表の鈴木望さん(前磐田市長、63)は「地鳴りのようなうねり、山が動いていくようなマグマを感じる。自分たちの想いを言わせてほしい、聴いてほしい、政治に反映させてほしいということの表れだろう」と、まず最初の関門をクリアした喜びを語った。
一方で、署名数の伸びなかった御殿場市では「私は静岡都民ですから」と断られるなど、原発立地県での署名活動の難しさも実感したという。
「準備期間が短かったこともあり、草の根が届かなかった地域や意識の掘り起こしができなかった地域があった。特定の党派とか組織に頼れば、もっと数字は伸びただろう。しかし、署名は目的でなくあくまで手段。選挙のように数の多少が直接、結果に結びつくものではない。右も左も関係ない地元住民による運動で集められた県民の声を、ぜひ知事や議会は尊重してほしい」
選管に提出された署名簿。法定署名数を大幅に
上回る17万8240筆が集まった
=静岡市葵区弥勒の興禅寺
【空港建設をめぐる住民投票条例案は否決】
署名活動の中心として奔走してきた興禅寺住職・成澤聰さん(57)はこの日の朝、積み上げられた署名簿を前に「昨日の夜になって、提出されていない署名簿がまだ受任者の手元にあることが分かりましてね…。深夜まで集計作業が大変でした」と苦笑。「でも、17万8千という数字は、素直にうれしいですね」と頬を緩ませた。
静岡県では2001年、静岡空港建設をめぐって反対運動が起こった。建設の是非は住民投票で決めようと、当時の有権者数の10%近くに達する29万余の署名が集まったという歴史がある。県議会に出された条例案は継続審査を経て否決された。
それだけに、成澤さんは「空港反対署名を超える30万筆の署名を集めよう」と心に期して活動を続けてきた。「静岡は文化の通過地。自分たちの主張を押し殺して受け入れる土地柄がある。問題をなるべく見過ごしたい、直視したくない気風があるようだ」と悔しさも滲ませた。
スタッフの一人をして「成澤さんだから、皆がついて来られた。人格者です」と言わしめるほど人望が厚い。「ゆうべなんか、スタッフからお礼を言われて涙を流していたんですよ」
段ボール箱に入れられた署名簿を車に積み込みながら、「暑いのは大変だけど、晴れてくれて良かった」とまぶしそうに空を見上げた。
走り続けた2カ月間。
闘いの舞台は県議会へ。
「もっと浜岡原発のことを知ってもらうために活動を広げていきます。県民が、賛成、反対両方の考えを精査して投票できるようにしたい」
署名集めの達成感に浸る間もなく、頭の中は次の作戦でいっぱいだ。
集まった署名を車に積み込む成澤さん。
「浜岡原発は、どこかできちんとけじめをつけな
ければいけない。議員がきちんと仕事をしてくれ
れば、こういう運動も必要ないんだ」
【議員を選ぶ投票は良くて原発の是非は駄目?】
原発の是非をめぐる住民投票に対しては「住民の意識が未成熟のまま投票を実施すると賛成が多数を占め、結果的に原発推進派を利することになる」との批判が少なくない。
「日本で国会がつくられた時の議論とまったく同じですよ。国民は愚かだから投票なんかさせたら大変なことになる、と。愚民思想はあれから何十年経っても変わらないんですね」
スタッフの一人として県民投票実現を目指している静岡市議の宮澤圭輔さん(33)はため息をつく。
「では、国政選挙は良いのか、と言いたいですよ。議員を選ぶのは良くて原発再稼働の是非を投票するのはいけないのか。新しい事を始めようとすると必ず反対の声があがりますね。仮に賛成が多数になってもやらなきゃいけないんです」
静岡市内在住の女性スタッフ(39)も「署名活動を通して、みんな口には出さないけれど浜岡原発について思うところがあると良く分かった。そういう人たちが意見を述べられる場としての投票は必要だと思う。原発立地県で投票が実現しなかったら、私たちはただの納税者にすぎないのか、主権者ではないのかということになってしまう。若い世代の人たちに自分で考えることをしてほしいんです。だから、何としても県民投票を実現させたい」と話した。
投票そのものに反対する声があることは、成澤さんもよく分かっている。
「もちろん、再稼働に賛成する答えが出たら、真摯に受け止めなければならないでしょう。しかし、だからといって何もしないのか。浜岡原発については、どこかできちんとけじめをつけなければいけないんです。それが今なんです。そもそも議員がきちんと県民の方をを向いて仕事をしてくれていれば、こんなことをしなくても良いんです。それが私の答えですよ」
(了)