東京で「怒りの光」をともす大熊町のゲンジボタル
【「熊川の匂いがする」と感涙】
「縄文人はホタルさんの群れを住み家の指標にしたといいます。ホタルさんが乱舞する土地はきれいな水と肥沃な大地があるから。環境指標昆虫なのです」
ボランティアスタッフの坂本圭磯さん(28)はうれしそうに話す。
都営三田線・新高島平駅の近く。区立高島第三小学校に隣接した環境館では数億ものホタルが命をつないでいる。
区議会が提唱したホタル再生事業を機に、館長の阿部宣男さん(57)が大熊町の熊川から300個の卵を持ち帰ったのが始まり。植物やカワニナ、タガメなどの昆虫のほとんどが毎年のように熊川流域で採取されたもので、渡辺利綱町長らが視察に訪れた際には「熊川の匂いがする」と涙を流したという。
コケに産み付けられた卵は約1カ月で幼虫になり、水中でカワニナを食べて暮らす。水中で6回の脱皮を繰り返すと土にもぐってサナギに。成虫として地上で生活するのは一週間ほどだという。
「発光しながら乱舞するのは、最後の3日間なんですよ。まさに、子孫を残すために最後の力を振り絞った乱舞なのです」と坂本さん。こうして受け継がれた大熊町のホタルのDNAは、他地域のホタルと一切交配されることなく、「純大熊ブランド」を守っている。水槽の中では、来夏の乱舞に向けて24代目の幼虫がカワニナに群がっていた。
ゲンジボタルの夜間公開は終わってしまったが、14日からはヘイケボタルの夜間公開が始まる。
大熊町の熊川を再現したせせらぎ(上)。他のホタル
とは一切交配していない「純大熊ブランド」のゲンジ
ボタルは23代目になった=東京都板橋区高島平
【ホタル嫌いだった少年時代とアトムの基地】
板橋区に生まれ育った阿部館長は、少年期の大半を大好きな母親の実家のある大熊町で過ごした。
「実家は酒屋を営んでいて、子どもに毎日走り回られていては仕事にならなかったのでしょう。夏休みは40日間すべて向こうで過ごしたといってもいいくらい。もはやふるさとです」
夜、熊川で見たホタルの光が、少年の目には不気味に映ったという。
そこに、祖母の言葉が追い打ちをかけた。
「ホタルにはな、ご先祖様の魂が乗り移っているんだよ」
兄がいたずらで蚊帳にホタルを投げ入れた。ホタルと幽霊が結びついてしまっている阿部少年は、怖がって逃げ回ったという。「今では、先祖を悼む気持ちが理解できますが、当時は大嫌いでしたね」と苦笑する。
少年が10歳になろうとする頃、福島第一原発の建設が始まった。
当時の浜通りは、阿部さんに言わせると「極貧」。これで雇用が生まれる、町がにぎわうとお祭り騒ぎになっていたという。阿部少年もうれしかった。原発は憧れの的だった。「だって、アトムの基地ですから」。最新著書「ホタルよ、福島にふたたび」(アスペクト社刊)でも「未知なるワクワクするものだった」と述懐している。
板橋区職員になって最初の赴任地は「こども動物園」。園内に淡水魚水族館が新設されると、その担当になった。そこでの里山水槽づくりが、後の温室植物園でのホタル飼育に生かされることになる。2007年には「ホタルの累代飼育システム及び方法」として特許も取得しているほどだ。
原発事故後、ホタルにも異常が現れた。
東京にも降り注いだ放射性物質によって細胞が寸断され、発光がまばらになるホタルが出た。従来から一定の割合で奇形ホタルはあったが、事故後は4倍に増えたという。「愛のささやき」とも呼ばれるホタルの発光は、繁殖にとって大切な役割を担っている。メスはオスの光が強いのを確認して交尾を受け入れる。オスはメスの光を認識してすっとメスのもとに降りていく。発光が弱くなることは絶滅をも意味するのだ。
「0.5μSV前後の放射線量を1年間浴びせたら10%近くの成虫ホタルで奇形になったとのデータがある。10%は決して低い数値ではないんです。10匹のうち1匹がですよ。発光さ硫黄や反射細胞、羽や個体各部に何らかの影響が出る。これが人間だったら、と思うとぞっとします」
急がなければ、高線量の大熊町ではホタルが絶えてしまう。阿部さんは可能な限り大熊町入りして、ふるさと再生に取り組んでいる。
慣れ親しんだ大熊町の家は、津波で跡形も無く流されてしまった。
土台だけになってしまった家の前で、防護服姿で写真に納まる阿部さんの表情が哀しい。「大熊町のゲンジボタルは怒りの光を放っているんですよ」。
「子どもの頃はホタルが嫌いだった」と振り返る
阿部館長(上)。ナノ銀による除染効果を実証する
ため、何度も大熊町に入っている。慣れ親しんだ
母親の実家は津波にさらわれてしまっていた(下)
【ナノ銀を空中散布してふるさと再生を】
原発事故後、何度も大熊町を訪れている阿部さん。長年研究しながらも「原発の安全神話を否定することしつながる」と封印させられてきたナノ銀による除染効果を実証するためだ。
「現在の除染作業は移染にすぎない。高濃度に濃縮してしまっている」と批判する阿部さん。ナノ銀は単体では効果を発揮しないため、牛骨炭や御影石などに付着させて使う。郡山市の保育園で行った実験では、汚染水をナノ銀で3回ろ過させたところ、ろ過前は計3万2100ベクレルだった放射性セシウムが82ベクレルにまで低減した。土壌には散布する。大熊町に、ナノ純銀をヘリコプターで空中散布することも視野に入れているという。消臭剤や抗菌剤で広く使用されているナノ銀は、1985年に町が工場を誘致した純正化学株式会社が製造している。ナノ純銀は、人間を初めすべての動植物に安心安全だという。大熊町による大熊町のための除染計画というわけだ。
「1㎠の御影石などに付着したナノ純銀は10億個にもなります。コラーゲン溶液に20ppmを加えた液体では、1ccに30兆個ナノ純銀が存在します。だから、福島全域に散布すると仮定しても4.5㌧もあれば十分なのです。環境省は今頃になって森林の除染方法の検討を始めたようだが、ナノ純銀を散布すれば良いのです」
しかし、阿部さんには忘れられない言葉がある。
JAEA(日本原子力研究開発機構)の職員が口にした東大を頂点とした原子力ムラの除染利権。
「困るんだよ。そんなに効果があるならゼネコンに売り込んでくれよ。平成24年度だけで既に1兆1千億円の予算が出来上がっているんだ。放射能は消えない、薄まらない、無くならないんだ」
県民のふるさと再生や子どもの命など二の次三の次。除染はゼネコンを儲けさせるための手段か。
「ナノ銀が絶対的に正しいとは思わないが、一つの方法として取り組む価値は十分にあると思う。でも、大熊町以外で実現することは無いでしょうね。利権構造が確立されてしまっていますから。彼らは除染が順調に進んでは困るのでしょうね。ふざけるなと言いたい」
ナノ銀に早くから注目している一人に、新党を立ち上げたばかりの小沢一郎がいるという。秋にも予定されている勉強会に阿部さんが招かれており、ナノ銀による除染効果を話す。
「放射能は甘く考えてはいけないが、大熊町に人が戻れるようにしたいんです。可能だと思う」と阿部さん。
ホタルが人が暮らせるような水と大地。
ふるさと再生に奔走する人が、ここにもいる。
(了)