汚れちまった小鳥のオアシス~高線量の「福島市小鳥の森」
野鳥の楽園の危機だ。福島市内有数の里山「小鳥の森」は今や、市内随一の〝ホットスポット〟。山林の除染方法が確立しておらず、行政も本格的な除染に乗り出せずにいる。野鳥の鳴き声が奏でるハーモニーは、被曝への鎮魂歌か。決して子どもたたちを近づけてはならない高線量の森を、線量計を手に歩いた。汚されてしまった森で、再び子どもたちが野鳥観測をする日は来るのか
【汚染された野鳥の楽園】
なんと素晴らしい森だろう。
ただし、放射線さえなければ。
都会の喧騒を忘れさせてくれる森。野鳥のさえずり。
福島競馬場の裏手。阿武隈川を超えた森。シジュウカラ、カワセミ、ホオジロ…。ここはまるで、野鳥の楽園だ。
しかし、手元の線量計は軽く、1.0μSVを超えている。
「ほらいま、渡り鳥のサンコウチョウが飛んでいきましたよ」
日本野鳥の会福島支部の男性が、図鑑を手に指さす。
「せっかく来たんだから、鳥の鳴き声も楽しんでいきなさいよ」という言葉に促されて一瞬、言葉を止める。すると、あちらこちらから野鳥のさえずりのハーモニーが響き渡る。
「被曝の心配さえなければ、こんなに素晴らしい森はありませんね」
と言うと、男性はうれしそうに、しかし、複雑そうな表情でうなずいた。
小学生を中心に、課外授業の場として活用されてきた森も、子どもたちの姿はない。
観察会など森が主催する行事は今年度も行われているものの、子どもへの被曝を考慮して積極的なPRは無し。授業の一環で、子どもたちが森に入ることもなくなった。
「小学生や幼稚園児がたくさん、来ていたんですけどね」と一眼レフカメラを手にした男性。広大な母なる森は今や、放射性物質に汚染された〝汚れたオアシス〟と化してしまった。
軒並み高線量の「小鳥の森」。市による本格的な
除染が進まないまま、汚染状態が続いている
=福島市山口
【森の除染、有効な方法は無し】
「市内の森では、最も汚染されてしまいました…」
福島市農政部農林整備課の担当者は、悲しそうな表情で話した。
52haの広大な里山は来年、開園30周年を迎える。今年3月まで日本野鳥の会が管理を請け負っていたが撤退。今年度からは、同会福島支部の会員を中心に組織された「野鳥の会ふくしま」が、指定管理者となった。森では野鳥だけでなく、タヌキやムササビ、イタチ、キツネやリス、ザリガニやオタマジャクシも確認されている。
震災以降、本格的な除染は行われていない。
「森の除染は究極のところ、はげ山のようにしてしまうしかないのではないかと思うんです。しかし、それでは、長年かけて野鳥などと築いてきた環境を壊してしまう。がけ崩れも起きやすくなる…。山林の有効な除染方法が無く、手をつけられずにいるんです」
森の一角には、市営の霊園があるが、墓地の除染も「今年度中に行う」との計画があるだけで、具体化していないという。
5/27には、野鳥の会の有志が除染の一環として落ち葉をかき集め、森の一角に仮置きしている。数十個のビニール袋に詰め込まれた落ち葉はブルーシートで覆われてはいるが、線量計を近づけると5.0μSVを超える高い値を計測した。福島市によると、落ち葉は可燃ごみとそて焼却され、生じた灰は焼却場内に保管されることになるという。
手のつけようがなく、すっかりお手上げの様子の市。
「野鳥たちも被曝していると思うと心が痛みますね」
森の一角には、有志が行った〝除染〟で生じた
落ち葉などの入ったごみ袋がブルーシートで
覆われていた。線量計を近づけると5.0μSVを
超えた
【姪は子を連れ名古屋へ】
野鳥の観察に来ていた別の男性(53)=福島市=は、森の中腹のベンチに腰かけて子どもたちの健康被害への想いを語った。
自宅近くに、姪夫婦の新居が完成したのは、大震災の10日前だった。
揺れによる損壊はまぬかれたものの、幼稚園児ら2人の子どもを抱え、さらに妊娠していたため、姪は夫の実家である名古屋市に避難した。姪は名古屋で第三子を無事出産。時折、帰省するものの、3人の子どもへの悪影響を懸念して、すぐに名古屋へ帰るという。子どもには、福島産の食べ物は与えていない。
「親としては当然の行動ですよね。新築した自宅はきれいなまま建っているけれど、ここに住むことはないでしょうね。やはり、子どものことを考えたらね。私だって、福島産の野菜を食べてはいるけれど、何も『健康に影響はない』という言葉を鵜呑みにして食べているわけではありませんよ。腹を括って食べているんです」
つきあいのある農家からはこれまで、市場に流通させられない規格外の野菜を分けてもらっていたが、震災後は、農家の側が遠慮して持って来なくなったという。
天気予報通りに鳴り出した雷鳴を避けるように、市街地への道を急ぐと、まるで道案内をするようにシジュウカラが先導してくれた。
このシジュウカラも被曝しているのだろうか。
手元の線量計はやはり、1.0μSVを下回ることはなかった。
(了)
