経産省よ子どもを守れ!女性たちが座り込み抗議~「原発いらない福島の女たち」
福島の女は黙っていないぞ─。東京・霞が関の経済産業省前で27日から、女性たちが原発停止、子どもの被曝回避を求めて座り込み抗議行動を行っている。孫と引き裂かれたおばあちゃん、子どもの健康被害を憂慮する母親、後悔したくないと疎開支援を続ける若い女性…。福島だけでなく都内や横浜からも「被曝は福島だけの問題ではない」と多くの人が駆け付けた。その数、福島県からの70人を含む約800人。経産省職員を前に涙を流しながら声をあげた。幸い雨が降ることもなく、暖かい陽射しに包まれながら子どものために座り込みを続けている女性たち。ここまで民が動かないと未来ある子どもを守れないのは異常な国としか言いようがない。最終日の29日には銀座をデモ行進する。霞が関で闘う女に密着した。
【いま動かなければ後悔する】
「東京は電力消費のメッカ。そこで生活する人々に『福島の女は黙っていないぞ』ということを分かって欲しかった」
郡山市から駆け付けた黒田節子さん(61)は、2人の孫がいるおばあちゃん。さらに来年1月には、3人目の孫が誕生する予定。だが、原発事故のために孫を可愛がる生活を奪われた。子ども夫婦や孫たちは、福島県内でも比較的放射線量の低い会津若松に避難している。
「孫たちを家に呼んで遊ぶこともできなくなった。私が会いに行くしかない。孫たちが置いて行ったおもちゃを目にするたびに悲しくなる。でも、悲しんでばかりもいられない。子どもをこれ以上被曝させるわけにはいかないのです。だから私が闘うのは当たり前のことなのです」
情報不足の震災直後、取るものもとりあえず小さなバッグ一つ持って避難した人、自宅を新築したばかりで多額の住宅ローンが残ったまま自宅に帰れない人…。近所には自分と同じような苦労を味わわされている人が大勢いる。気付けば脱原発や子どもの被曝回避運動の輪に加わっていた。
「首相と話し合いたいが叶わない。『来客中』と言って面会にすら応じない国会議員もいる。政治家は本気で子どもを守る気概があるのか」。小さな身体から怒りを込めて精一杯声を張り上げた。
会津若松市の市民グループ「会津放射能情報センター」代表・片岡輝美さんの姿もあった。「福島の人間として、これだけの仲間がいるんだということを確認できて良かった。私たちの苦しみや訴えは関東の人たちにも届いているな、と思う。それに、今動かなかったら絶対に後悔しますから」。ハイロアクション福島の武藤類子さん(三春町)は「原発事故から7カ月経って、安全な原発を世界中に輸出するという政府の方針が信じられない。今、原発をやめなきゃ。今、反対運動を起こさなきゃ。予想以上の女性が集まっって驚いた。それだけ脱原発、子どもの被曝回避への思いが強いということではないか」と話した。
上:福島の被曝の深刻さを訴える黒田さん(左)
下:会津若松からも座り込みに駆け付けた
【放射能という炎から子どもを救え】
時計の針が正午を回ると、女性たちは経産省の通用門前に移動して、昼食のために出てきた職員たちに向かって思いをぶつけた。
福島市渡利地区の福祉作業所で働きながら「福島子どものいのちを守る会」代表も務める佐藤幸子さん(53)=川俣町=は、震災直後に計測した放射線量が忘れられない。
「3/29に、渡利小学校にある雨どいの直下を測ったら、地表から2cmの高さで毎時108.8μSVというとんでもない値になった。除染すれば一時的に数値は下がるが、雨水が集まるからすぐに放射線量は高くなる。火災でも大人が子どもを救い出すのは当たり前のこと。放射能という炎から子どもを助け出してから除染を行うべきだ」と訴えた。
「子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク」東京スタッフとして疎開支援などに取り組んでいる疋田香澄さん(25)は、9月の出来事を披露して一刻も早い子どもの県外避難を求めた。
「郡山市で開いた講演会で、初めて参加したというお母さんと出会った。なぜ来たのかと尋ねたら『これまでTVや行政を信じてきたが、計測器を借りて裏庭の放射線量を測ったら針が振り切れた。計測の仕方が悪いのか分からないが何かが起きているとようやく感じた』と話していた。移住やひなんのパンフレットを手渡したが、金銭面や仕事の関係などで難しいと言われてしまった。このように避難したくても叶わない人が多くいる」と涙を流した。「後に健康被害が出てしまった時、自分はあの時何をやっていたのか、と後悔したくない」
上:女性が座り込みやアピール活動を行った経済産業省
下:「子どもを守れ」「ふるさと返せ」と職員らに訴えた
【被曝は日本全体共通の問題】
福島の女性を応援しようと、各地から多くの女性も駆け付けている。
都内の母親グループのメンバーは「できることをやっているだけ。普段からデモや署名活動に参加しており、その一環。子を持つ母親として他人事ではない」。横浜から駆け付けた女性も一児の母。「放射能汚染は日本全体に拡大しているわけで、福島だけの問題ではない。横浜でも高い放射線量が計測されている。福島で苦労されている女性たちに精神的・物理的に寄り添いたいと思って来た」と話した。
昼食をとりに庁舎から出てきた職員に、空腹を満たして職場に戻る職員に、女性たちは必死に訴えた。
「子どもを守れ」
「ふるさと返せ」
「福島返せ」
職員たちは困惑する者、苦笑する者、差し出されたチラシを受け取る者、受け取らない者…。
果たして彼らの胸に女性たちの切実な訴えは響いたか。
その中に、私の脳裏から今でも消えることのない言葉があった。
「子どもを守るのに、なぜ証拠が要るんですか?なぜ数値が必要なんですか?」
愚鈍な官僚にぶつけるのに、これ以上の言葉があるだろうか。
10月30日からは、11月5日までの予定で「原発いらない全国の女たち」として座り込みが続く。
国は官僚はいつまで、民の声を無視するつもりなのだろうか。
(了)
「原発即時廃止・子どもたちの疎開に関する要請書」
①、すべての原子力発電所を直ちに停止させ、廃炉とすること
②、定期点検・トラブル等により停止中の原子力発電所の再稼働を行わないこと
③、子どもたちを直ちに、国の責任において避難・疎開させること。また、すでに避難し、またはこれから避難する住民に完全な補償を行うこと
④、原発立地自治体を補助金漬けにし、自立の妨げる原因となっている電源三法を廃止すること
上:福島の女性に連帯して座り込みに参加した都内の母親グループ
下:29日は銀座をデモ行進する