●奥穂高岳 その2 奥穂高岳 へ
2013年9月13日(金)~15日(日)
長野県松本市 涸沢~奥穂高(3190m)
<参考コースタイム>
第1日目(13日):上高地バスターミナル→(10分)河童橋→(1時間)明神池→
1時間)徳沢園→(1時間)横尾山荘
第2日目(14日):横尾山荘→(55分)本谷橋→(1時間)Sガレ付近(涸沢が
見えるところ・1時間)→(50分)涸沢ヒュッテ→(10分)涸沢小屋→(3時間)
奥穂高山荘→(1時間10分)奥穂高往復
第3日目(15日):奥穂高山荘→上高地
→その1 から続く
2日目(14日)は4時に起きだし、横尾山荘の前でバーナーを出して朝食の準備。
外はまだ暗闇で、空を見上げると、ちょうど蝶ヶ岳の頭上に、冬の星座オリオンが輝いている。
外気温計を見ると12度。
最近は10度を下回ることもあるそうだから、今日は少し気温が上がりそう。
気になるのはやはり台風の動向だ。
9月13日小笠原諸島の南海上で発生した大型台風18号は、15日(明日)には関東や東海地方にかけて広範囲にわたって、大雨を降らすという。
本日(14日)の予報は午前中は晴れだが、午後から雨が降り始めるという。午後というのは一体何時頃なのか?それが問題なのだが・・。
出発間際の5時過ぎ、前穂高の稜線がモルゲンロートで朱色に染まってきた。
そこに、この夏北アルプスで発生した事故の内容と日付のメモが貼ってある。
帰宅して調べて分ったのだが、8月1ケ月間で穂高と槍ヶ岳周辺で起こった事故は8件あり、そのほとんどが滑落か転倒事故。しかも8件のうち6件が死亡につながっている。
今日われわれが登る奥穂高のザイテングラードでも、わずか1ケ月の間で2件の死亡事故が発生。
途中、雨にでもあったら、落石を含めて滑落などの危険度が増すに違いない。
予定通り5時30分、横尾山荘を出発。
本日の予定は、涸沢からザイテングラードを登り奥穂高山荘、さらに奥穂高山頂往復と、約7時間のハードな登り一方の厳しい行程になる。
横尾橋を渡り、屏風岩を大きく左に回り込み、緩やかな坂道を1時間ほど歩くと本谷橋に着く。
この川の上流に、小さな橋がかかっているが、昔はなかったはず。上り下りの登山者が混雑するので、新たに造られたのだろう。
絶好の休憩所で、ここで朝食を摂る登山者もいる。
2つの橋がかかる本谷橋
道はここから本格的な急坂となり、屏風岩を大きく廻り込むとほぼ直角に左に曲がるガレ場がある。
この辺りはダケカンバや米ツガの樹林帯で、今日初めて、真っ赤な実を付けたナナカマドを見た。
やがて待望の穂高の稜線と涸沢のカールが見えるところに出た。
ここが「Sガレ」と言われるところで、イッキに視界が開けて涸沢が視野に入ってくる。
Sガレを過ぎたあたりから、北穂高や涸沢ヒュッテの赤い屋根が見えるのだが、ここから坂が少しきつくなり、見た目以上に距離がある。
涸沢カールが見えるSガレから40分ほどで、涸沢小屋と涸沢ヒュッテの分岐に出る。いつもは涸沢小屋に行くのだが、今回は涸沢ヒュッテからの眺望を期待して、道を直進して涸沢ヒュッテに向かうことにした。
涸沢ヒュッテへの石畳
横尾山荘を出発してから、ちょうど3時間後の8時30分、第一目的地の涸沢ヒュッテに着。
予定通りの所要時間だ。
テラスから見る涸沢のカールや北穂高、涸沢岳、奥穂高、そして前穂高の吊尾根はまさに日本アルプスと呼ぶにふさわしいダイナミックな景色。
もう9月に入ったせいか、あるいは今年の猛暑のせいか、雪渓はだいぶ姿を消して痩せ細っている。
登山者が出発したあとの広いテラスで、二度目の軽い朝食。
ここでおでんにビールを飲みたいところだが、目指す奥穂高ははるか頭上の彼方に聳えている。
ほろ酔い加減で登れる山でもない。
ここでしばらく休んでいると、後方にいた婦人がわれわれの隣にいるパーティに、これから穂高に登るのか聞いている。どうやら台風のことが気になって、他の登山者の意見を聞きたいらしい。
すると、その横にいる北穂高から下山したばかりの男性が話に加わって、どうやら台風が速度を上げて予定より早く上陸するという。
この好天に気をよくして、つかの間台風のことを忘れていたが、ここからの進退が厄介なことになってきた。
ここから奥穂高山荘までは雨に降られずに済むだろうが、明日台風が襲ってくるなら山を下りられなくなる。
一方ここに荷物を預け、空身で穂高を往復すれば、涸沢からなら台風でも下山することはできる。しかし、今日中に穂高を往復する間に雨が降り始めたら、山荘からの下山はかなり危険になる。
まだ10時前で、この辺りでのんびり過ごすわけにもゆかないし・・?
結局、淡い期待だが、台風の速度が落ちるか?、進路が変わるか?あるいは穂高山荘で台風が過ぎるまで延泊するか・・と意を決して、のんビリムードから一変して出発を急ぐことにした。
涸沢ヒュッテからはこのまま道を直進するパノラマコースもあるが、懐かしい涸沢小屋をひと目見たかったので、涸沢小屋を目指して、9時15分出発。
この道はしばらく行くと、涸沢ヒュッテからの道と合流することになる。
涸沢小屋前
本日は、台風以外に気になることがある。
実は少し前から軽い高山病か、吐き気と眠気が襲ってくる。かつて高山病らしき症状が出たことがないので、確信はなかったが、途中、横尾山荘や、下のヒュッテで一緒だった男性に追いつくと、私と同じ症状で、岩場で休んでいる。
彼らのパーティは4人で、今日中に涸沢に降りてくるというからかなりの強行軍。
男性が一体どういう結論を下したかは分らないが、われわれは好天のうちに穂高山荘まで辿りつかなければならない。
少し酸欠ぎみらしいので、大きく息を吸い込むと、眠気は霧消した。
ヒュッテから1時間30分で、クサリやハシゴがかかる岩峰のザイテングラードの「取付点」に着。
ほぼコースタイム通り。
下を見下ろすと、ヒュッテから一途に急坂を登っていることが良くわかる。
見上げる行く手は、容赦のない岩稜で、やけにザックの重さが気にかかる。
ザイテングラードは、ジグザグの道はなく、ほぼ直登の厳しい岩登り。
昔に比べてヘルメットを被った登山者が多くなった。落石のほかに転落した時に頭を直撃するのを防ぐのに良い。
徐々に大きな岩場とクサリの急途が続くうち、呼吸もずいぶん荒くなってきた。
当初心配していた、3000mの山が初めてのYさんは快調に、危なげなく登ってゆく。
しかしこちらは心臓にも負荷がかかったきたのか、なかなか呼吸が整わずペースダウン。
かなり息苦しい登りだったが、ほぼ予定通りの所要時間で、3時間後の12時30分、奥穂高山荘に着。
横尾山荘を朝5時30分に出発したから、所要時間はちょうど7時間になる。
奥穂高山荘から見上げる奥穂高岳
山荘前の石畳の広場でひと休みしたあと、小屋で受付を済ませ、やっと待望のビールタイム!
ちなみに今、奥穂高山荘では、創設90周年を記念して、小さな袋と小冊子を無料プレゼントキャンペーン中。
一度部屋に入って、布団を広げ、しばらくウトウト。
登山中、高山病らしき症状が治まらなければ、山荘脇の診療所に行こうかと思ったが、すでに軽い吐き気は治まっている。
目を覚ますと、すでに3時を少し過ぎているので、ピークハントするならギリギリの時間。
外は相変わらず濃い霧の中だが、出発の準備をして外に出た。
小屋からすぐに険しい岩場で、先ほど2回落石を見た。一度目は思わず大きな声で「落石!」と声を上げてしまったほど、登山者の近くに石が落ちてきた。
小屋の前の崖
山荘から山頂まではおよそ40分。
しばらく岩をよじ登ると、傾斜の緩やかなガレ場になる。
2時間以上も休んで、体調は戻っているはずだが、やはりなかなか呼吸が整わない。
単なるバテなら十分に休んでいるので、すで恢復しているはずだが、どうもそうではないらしい。
循環器の医師から、130の心拍数を超えると心臓に負荷がかかると言われているから、そのせいか?
あと一息で山頂だが、この上はもう危険個所はないはずだし、ここは自重して、Yさん一人でピークハントしてもらうことにした。
岩場に腰を下ろして待っていると、そろそろ5時近くなってガスも濃くなってきた。15分程度で戻ってくると思っていたが、なかなか姿を現わさない。
心配になって向かいに行こうか迷っていた矢先、遠くの岩場から単身の人影が見えた。声をかけるとYさんでひと安心。
山頂にいたのは、前穂高から登ってきたパーティの他、もうひと組しかいないという。
運良く山頂で、一瞬だが霧が少し晴れて、西穂高のジャンダルムが見えたようだ。Yさんが、このジャンダルムの写真を撮影!(下)
奥穂高岳山頂でYさんが撮影してもらった写真
下りは慎重に降りて無事、山荘に着!
明日まだ下りが残っているが、これで一応の目的を達成したのでひと安心。
小屋に戻ると、早くもストーブに火が灯り、5時からの夕食の声がかかってきた。
なかなか豪華で美味しい食事なのは驚き!
本日の歩行時間:約8時間
☛その3 に続く