●千丈ヶ岳 曇り
山梨県 千丈ヶ岳(3033m) 2009年9月22日
<参考コースタイム>
北沢駒仙小屋テント場→(30分)二合目→(20分)三合目→(15分)四合目→(15分)大滝頭→(50分)小千丈→(1時間20分)千丈ヶ岳頂上→(15分)千丈小屋→(45分)馬の背フュッテ→(30分)大滝頭→(1時間)キャンプ地
歩行参考時間:6時間
*駒ヶ岳からの続き
深夜、目を覚ましてトイレに立ったとき、太もものダメージはどのくらいだろうかと屈伸を試みたが、痛くて2回と続かない。
千丈ヶ岳の登りはなんとか我慢しても、足に負担のかかる下りまでは持つまいと不安になった。
早朝4時頃から、出発の準備で周囲が騒がしくなったので、足の具合をみるとまだ相当の張りがある。残念だが、今日の登山は断念するしかない。一人キャンプサイトで留守番か。
相棒は昨夜、かなり痛飲して二日酔いのはずだが、予定通り4時半頃起床。傍らで、朝から真っ赤な即席の坦々面をすすっている。
結局、6時少し過ぎ頃に、山頂を目指して幕場を出発して行った。
こちらは朝食の用意をしながら、相棒を見送り、ゆっくり食後のコーヒーを飲み、テント内を片付けると、後はすることがない。
それならいっそ、行けるところまで行ってみようかと考え直し、バタバタと出発の準備をして、幕場を後にしたのが、7時15分。相棒から遅れることちょうど1時間。
二合目 三合目
出発が相当遅いため、幕場から千丈ヶ岳に向かう登山者はわずか一人だけ。米ツガのうっそうとした樹林を30分歩いて、ようやく二合目の分岐点で、北沢峠からの登山者と合流。
この頃になると、嘘のように太ももの張りがすっかり消えて、痛みもない。われながら回復力の速さに驚いた。
この分なら山頂の往復は十分可能だと自信が湧いてきた。しかし残念なことに、本日は曇り空で、昨日のような晴れやかな気分とは正反対。
千丈ヶ岳の雄大カールの眺めは、今回の大きな楽しみの一つだったが、空一面を覆う雲がなんとか晴れないものか。
4合目まではそこそこの登りだが、そこから5合目の大滝頭までは、かなりの急坂で四苦八苦。
幕場を出発してから、1時間20分かけてなんとか大滝頭にたどり着いた。早く歩いたつもりではないが、ガイドブックより40分も短縮。
大滝頭で、樹林の間から、頂に雪を被ったような甲斐駒が覗いている。
旧白州町(現在の北杜市)の名前は、甲斐駒の花崗岩の白い砂礫が、下流域に流れ落ちきたことに由来するとか。
白州を流れる尾白川もその名の通り、白色のきれいな河川。
大滝頭を過ぎると視界が開け、やがて森林限界を過ぎると尾根に出て、行く手に本日の第一目標地点の小千丈ヶ岳(2855m)が見えてきた。
一面ハイマツに覆われた小千丈へのアプローチは、ゴツゴツとした岩ばかりの甲斐駒と違って、グリーンを敷き詰めたような緩やかな傾斜。
真っ赤に紅葉したナナカマドが、鮮やかな赤い実をつけている。
大滝頭から50分かけて小千丈の頂上に着いた。
徐々に霧が濃くなって、視界はほとんどきかなくなり、気温も急激に下がってきたようだ.。
10分ほど休憩をとって、いよいよ千丈の山頂を目指して出発。
予定では山頂までは1時間の距離。
小千丈の頂上から一度下って、そこからなだらかな尾根筋に沿って千丈ヶ岳への道が延々と続いている。
この辺りは夏の高山植物はすっかりかげをひそめ、山肌の表面はすでに紅葉し始めている。
小千丈から1時間以上を過ぎた辺りで、千丈ヶ岳の頂上から下りて来た相棒にようやく遭遇。
あともうひと登りで頂上というので、二人で山頂に向かって上り始めた。山頂に到着したのは、スタートから3時間45分を経過した11時ちょうど。
あいにくまた霧が濃くなって、視界はほとんど効かなくなった。
山頂でお互いに記念撮影をして、こちらは昼食を摂るので、相棒が先に出発。
登りのルートがそれぞれ違うので、帰りも別行動になる。
千丈ヶ岳は、南アルプスの女王といわれるだけあって、その山容は優美な曲線を描いて四方に広がっている。とくにこれから下山する藪沢のカールは広々としているが、そのえぐられたような氷河の侵食は、今でも生々しい姿をとどめている。
千丈とは、もともと千畳敷に起因する名前で、千丈や藪沢のこの広大なカールをイメージして名づけられたという。真夏にはカール一面に高山植物が咲き乱れるというが、今はその面影はない。
この辺りの景観で、氷河の痕跡といわれるのが、氷河の圧力で堆積した岩の小丘(モレーン)だそうだ。
巨大な岩を押し流す、氷河の崩落の凄まじさ。
数万年前の、遥か氷河期の景観に思いを馳せながら、錦のじゅうたんの景色を見ながら、ガレ場をゆっくりと下ってゆく。
山頂から15分ほどで、千丈小屋。さらに50分ほど下ると馬の背ヒュッテに着いた。
紅葉の森に囲まれた、静かな馬の背ヒュッテのテラスで2組の登山者が食事をしている。登山者を見送った静かな小屋を覗くと、中でもうストーブでも焚いているのだろうか。
こんな閑静なヒュッテで、紅葉や満天の星を眺めながら、終日ノンビリ過ごすのも良いかもしれない。そんな誘惑にかられそうな佇まいだ。
馬の背ヒュッテ
ヒュッテの入口の前に備え付けられたベンチで、小休止して、藪沢の細い渓流に沿って再び歩き始めた。
この辺りは、昨日の甲斐駒と違って、まだ12時だというのに、行き交う登山者の数がほんのわずか。
ヒュッテから少し下ると、北沢峠に抜ける道と今朝登って着た五合目に至る分岐がある。
数少ない登山者は、北沢峠を目指すが、五合目の道を進むのは自分ひとりだけ。
沢の下流から勢い良く、絶えず霧が吹き上げてくる。水が冷たいので、霧に変化するのだろうか。沢の水を、手で掬って口に含んでみると、やはり相当な冷たさだ。
薄っすらと樹木が紅葉している道は、ところどころ水流で崩落しているところがある。ことさら危険な場所というわけではないが、こんなところで不用意に滑落したら、きっと誰にも分からないだろうな、という思いが頭を掠めた。
ひと気のまったくない深い森に分け入って来たので、用心に熊除けのカウベルを出した。
とうとう30分ほど、唯ひとりの登山者に行き交うことなく五合目の分岐に着いた。
そこから、キャンプ地に着いたのは1時間後の13時35分。
これで2日間の行程を、すべてこなしたことになる。
初日の甲斐駒ケ岳の歩数は26,365歩、2日目の千丈ヶ岳の歩数はは33,840歩、二日あわせた登山総数は約60,000歩なり。
下山後、靴を脱いで足裏を見ると、左足の2本の指の豆が見事つぶれていた。