●四万十川  キャンプ

  高知県四万十市 2009年5月3日~5日(四国旅行6日~8日)

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カヌーイストなら誰でもが憧れる、日本"最後の清流"、四万十川の川下りをGWに実行することになった。もっとも最後の清流というのは昔の話で、最近ではこの川もずいぶん濁ってきたという話は、すでに色々なところで指摘されている。

川下りは1年半のブランクだが、「四万十川は今年が最後になるかも?」という師匠の脅し文句もあって参加を決意。



予想通り、高速料金1000円の文句に釣られて、東名高速は大渋滞の列で、ニッチもサッチも動かない。

早朝6時半にスタートし、1日目の目的地である香川県多度津に着いたのは、日付が変わって深夜の1時半。なんと19時間という途方もない所要時間だ。

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メンバーは師匠、Tさん、Kさん、Yさんと小生の男女計5名。車2台に一人乗りのファルト艇を5艇とキャンプ道具一式を搭載。

5月2日(正確には3日)は瀬戸内海を眼前に望む、絶景のT氏の実家に1泊お世話になり、3日午前9時過ぎ、一路四万十川目指して350Kmの旅に再出発。

窪川(高知県)からはJR予佐線と並行して国道を走るのだが、駅近くの駅名表示板が依然として「国鉄」のままになっているのは、この土地の”辺境”さを物語っている?

午後4時ころ、ようやくベースキャンプ地となる江川崎に着。

江川崎は数キロ北上すれば、もう愛媛県宇和島市に接するところだ。
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四万十川の鯉のぼりが見えてきた

当初、四万十川はカヌーのメッカだけあって、河原は相当な混雑を予想していたのだが、意外にもカヌーの姿はほとんど見かけない。その代わり、自然豊かな四万十川流域の観光を目的にしたマイカーで、集落は空前の大混雑。
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当日は、キャンプ設営と、夕食の支度、仕上げに温泉に浸かり、翌日の川下りに備えることにした。

初日は長旅の疲れを癒すと同時に、前途を祝してビールのほか、土佐の焼酎「海援隊」と、栗から作った「ダバダ火振り(ひぶり)」という焼酎をしたたか飲んだ。



5月4日、朝5時30分に起床。テントを這い出して空を仰ぐと、どんよりとした曇り空。出発前に、ひと気のない、朝の四万十川を散策。

四国はどこを走っても山また山の土地だが、とりわけ江川崎を中心とした西土佐は、90%が森林に覆われれいる山峡の土地だ。
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川漁師の船

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朝食を済ませところ、隣のテントの子供たちが、すでに水着に着替えて、川遊びの準備をしている。

小学生の女の子が、小雨の降る中、突然川に飛び込み、向こう岸に瞬くまに泳ぎつき、大きな岩に這い登る。

こちらの岸から、「飛び込んでみとお~せ」と大声がかかると、ためらいもなく、ザブンと勢いよく、水面に飛び込んだ。

川遊びに馴れているのだろう、しばらく水中から出てこない。魚でも探しているのだろうか。

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いよいよわれわれも、出発の時間が迫ってきた。9時半ころ、川岸から口屋内のゴール目指して、フネを漕ぎ出すことになった。
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初日の川下りは、江川崎から15kmほど下った口屋内まで。2日目は口屋内からやはり同距離を下った川登までのコースを予定。

初日は、全長196kmの長江、四万十川のなかでも、もっとも瀬が少ない初心者向けのコースだ。

旅の出発前、野田知佑の「日本の川を旅する」を読み直してみたが、この行程を「今日は一日、漕がず、フネの中であぐらをかいて流されるままに下った」と記している。

実際に川を下ってみると、水量が少ないせいか、流れはゆったりとしているが、さすがに「漕がない」わけにも行かない。

朝霧が、山の中腹を這うようにして、ゆうゆうとして立ち昇る。

水は、確かに川底が見えないほど濁って透明度はないが、川の周囲はどの川にも比べられないほど絶景の連続。

川幅が広く、幾重にも蛇行して、しかも川のすぐそばまで山が迫っているので、漕いでいて飽きることがない。これが四万十川の魅力だろう。

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昨夜から降り続く雨は、やみそうにないが、小雨も川下りの風情のひとつと割り切ることにした。

鳥のさえずり以外に、何一つわずらわしい音が聞こえてこない。

四万十川は大水が出るので有名だが、左右の岸を見ると、上流から下流に向かって流水で傾いた、低木や竹林が目に付く。

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岸辺に竹林は枯れて斜めに傾いている
下り始めて40分ほどしたところで、一つ目の沈下橋に近づいてきた。

四万十川の風情で忘れてならないのが、この沈下橋の存在だ。

その数は、本流だけで21、支流も含めると50近くもあるそうだ。

洪水に備えて、水の抵抗を少なくするために、欄干がないのが沈下橋。文字通り大雨が降ると、橋自体が流れのなかに沈下する。

沈下橋を渡る人も、遠くからこの橋を眺める人も、川の景観が十分に楽しめる(地元の人には大水は迷惑だろうが・・)。

川下りをしていると、景観上、橋の存在が気になるが、沈下橋は四万十川の雄大な景観にすっかり溶け込んで、なお美しい。
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沈下橋に近づいてくると、ひと組のカップルが川の景色に見とれている。

女性がこちらにカメラを向けているので、被写体になるのはご免とばかり、両手で二人に並ぶように仕向けて、こちら側から写真を数枚パチリ。新緑を背にして、川から橋を見上げるのは、カヌーの楽しさのひとつ。

もう少し時期が早ければ、萌黄色に染まった清新な四万十川の風景を堪能できただろう。山   写真 温泉
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ここで、小休止のために岸に上がって、沈下橋を渡ってみた。

あまりに狭いので、初めて車で渡る人には抵抗があるだろう。

夏ともなれば、子供たちがこの橋から川にダイビングしている光景が目に浮かぶようだ。
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流域の森は、新緑に混じって褐色の樹木が目に付く。

四国の山ではどこでもこの褐色の樹木が目立つので、川漁師の人に聞いてみると、シイ(椎)の木の花が一斉に咲いているのだそうだ。       

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ところどころ軽い瀬があるが、沈するほどスリルのある場所はない。ここならビールを飲んでも、煙草を吸っても、本を読んでいてもいいくらい。あまりに流れが遅いので、どちらが上流か錯覚するほどだ。

ゆったりとしたペースで30分ほど漕いで、少し早めの昼食を摂ることにした。乗艇して1時間半ほど漕いだことになる。



昼食は、缶詰のご飯という携行食だが、水も燃料も持ってきたのだが、缶詰を温める鍋を忘れたことに気がついた。結局、缶詰ごとバーナーの火で温めることにした。
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再びフネに乗って漕ぎ始めたが、GW期間中だというのに、ここまで数艇のカヌーしか見ていない。もはや四万十川を下ろうとするカヌーイストは、皆無になったのだろうか。それほど、この川の汚れは進んでいるということか?

手元にある野田知佑の「日本の川を旅する」(新潮社文庫)は、昭和60年刊の初版。さらに単行本の刊行は、昭和57年とあるから、連載を始めたころは、この時期よりさらに遡る。今からおよそ25年前以上。

この当時でさえ、地元の人たちは、四万十川の汚れを嘆いていたという。

実際、川漁師は、30年前には「川の水を手で掬って飲みようが・・」、と言っていたが、年々、汚れがひどくなっていると言う。

ちなみに「日本の川・・」によると、当時のカヌー人口は3000人ほどで、そのうち川下りをするのは300人程度と推測している。今ではその数百倍?の人たちがカヌーを楽しんでいるのは、ひとえにこの本の影響が大と言うことになる。



午後1時半ころ、流れの少し速い最後の瀬を越えて、ゴールの口屋内に着。ここにも大きな沈下橋がある。
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口屋内の岸にフネを着ける。ここでレンタルカヌーを楽しんでいる人がいた
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四万十川の名物、鯉のぼりの川渡し

あっという間の川下りだが、川の景観は十分楽しめた。

あらかじめ車を1台置いてあったので、フネを運ぶため師匠とTさんはもう1台の車を取りに行くため、スタート地点に引き返すことになる。

その間、口屋内の集落を歩き回ってみることにした。

沈下橋の向こうに、民宿や酒店などわずか10数軒ほどの家がある。

橋のすぐ上に、「お茶堂」と書いてある、小さな古びた木造のお堂を見つけた。堂の奥に木像とお札が置いてあるので、良くみると弘法大師を祭っている。四国巡礼の土地柄らしく、ここでは阿弥陀如来でも、地蔵でもなく、お大師なのだろう。

川の景観が良いので、腰掛けていると、おばあさんが来て、軽く挨拶をして板の間に腰掛けた。

「お堂は、風が良く通るけんね」という。

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「お茶堂」は、住民の憩いの場。他の地方では呼ばない名称

この辺りはのんびりして、いい場所だが、おばあさんは「嫌ややね~」とため息をつく。

大きな台風が来ると、家が水浸しになる、人家は、川からかなりの高所にあるが、数年前は2階まで浸水した家もあるという。

翌日、この橋の向こうにある、師匠が以前訪ねた酒井商店のアッちゃんという人会いに行ったのだが、大水のとき、家の中を「泳がにゃいかん」と嘆いていた。新品のTVも電気製品も皆流される。業務用の冷蔵庫が、向かいの岸の木の上に引っかかっているので、水が引けたころあいの見計らって、回収しに行ったそうだが、それが奇跡的に今でも使えると妙なところで自慢していた。

地元の人の中には「もう慣れとります」という人がいるようだが、「そんなもん、慣れるわけがあろうか」と憤慨する。

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向こうの人家まで水に浸かるというからかなりの大水だ
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口屋内には小さな畑や田んぼもある。

下のほうは、もうとっくに田植えが終わって青々とした水田だが、この辺りではこれからが田植えの時期。

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何年か前、キャンプ地で、この川の漁師の人から、うなぎを譲ってもらったそうだが、昨日、たまたまそのおっちゃんに出会ったので、今回もうなぎを譲ってもらうことにした。

近頃は、この辺りのうなぎも目に見えて減り、一日1本も捕れないときがあるそうだ。ましてや四万十の名物、「鮎」「手長海老」も、である。

約束の時間ぴったりに岸に漕ぎ寄せてもらい、フネの上で交渉。

養殖のうなぎの腹は白いが、天然物の腹は黄色いと言うが、見事に黄色く染まっている。それほど脂が乗っている証拠。

天然物というせいか、元気が良い。氷をつめたクーラーバックに移すのにもひと苦労。

うなぎは、もちろんおっちゃんに捌いてもらうことにした。ひとり1本だが、今晩は、このほかの食材はあまり必要がないほどの贅沢。

都会で天然物のうなぎを食べるとしたら、目が飛び出るほどの値段だが、ここでは、都会のうな丼程度の値段で食べられる。

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昔ながら秤で計ると5本で800g        見事に黄色い腹

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骨もあぶって食べるつもり

その夜は、食料品店でうなぎのタレを買って、溶けそうなほどやわらかいうなぎを堪能したことは言うまでもない。
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その日は、夜半から雷と大雨で、翌日の天候が気になるが、こればかりは、あれこれ気をもんでもしかたがない。
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5月5日、雨は降っていないが、空は昨日に増して、雲が低く垂れ込めている。9時まで待機して、天気予報を聞くと、快復の見込みはなく、午後から雷の予報も。

この時点で、師匠は川下りを断念することを決めたようだ。

師匠の判断だから仕方がないが、今回に限って師匠の判断がほとんど裏目に出てきたので、どこか疑心暗鬼?

晴れといえば、雨が降り、雨といえば晴れ、渋滞が終わったと宣言すれば、終わらず、白といえば黒、右といえば左という具合で、皆から「頼むからもう予想は口にしないで」という声が出る始末。

結局その日は、ぶらぶら土佐中村の市中を歩き、そこから四万十川の河口の土佐湾に出て、温泉に浸かろうということになった。

途中、天気予報の裏をかくように、青空が見え始め、午後になっても雷の気配すらない、まさに絶好のカヌー日和。

車中、皆の無言のプレッシャーを感じたせいか、師匠の口から「早く雷雲が出てこないかなあ」という弱音がもれた。

(以後、6日、7日と四国漫遊の旅 は続くが・・・カヌー篇はこれにて終了)