●大岳山 曇りのち晴
東京都 大岳山(1266m) 2009年4月18日 温泉
<参考コースタイム>
JR武蔵五日市駅→千足バス停→(25分)天狗の滝→(1時間15分)つづら岩→(25分)富士見台→(20分)分岐→(20分)大岳神社→(20分)大岳山山頂→(1時間10分)鋸山山頂→(2時間10分)登山口→(20分)もえぎの湯
参考歩行時間:6時間45分
立ち寄り温泉:もえぎの湯
4月の中旬ともなれば、奥多摩は桜がすっかり散り、かといって新緑にはまだ少し早い微妙な季節。しかし、山桜と新緑の芽生えに期待して、標高1266mの大岳山に登ることにした。
大岳山は、三頭山、御前山とならぶ奥多摩三山のひとつで、三角帽子のような特長ある山姿から、古来、「海路の目標」とされていたそうだ。上総(千葉)の船乗りたちは、その姿から「鍋冠山」と称していたと言う。確かにこの山頂はどこから見ても特長ある姿なので、いまでも山を特定する目印になる
そもそも大岳(だけ、たけ)とは、「高い山」を意味するから、この辺りでもひときわ高い山というので名づけられたのだろう。
登山コースは、隣の御岳山を経るのがポピュラーのようだが、われわれは五日市駅から小岩方面のバスに乗り、千足バス停で下車、柳沢林道経由で山頂を目指すことにした。
五日市駅の標高は100mほどで、山奥に行くに従って徐々に高度が上がり、千足バス停の標高は400mほどか?
この千足の地名には、古い由来がある。
戦国時代、豊臣方に攻められた檜原村の城主平山氏重が、草鞋に事欠くあり様になって、天に祈ると、千足の草鞋が忽然と空から降ってきたという。檜原城跡はこのバス停の3つ前の払沢の滝入口から程近いところにある。
檜原村は人口2000人あまりの四方を山に囲まれた山里。
新編武蔵風土記によると、「日本橋より行程十六里」に位置し、村の年歴は定かではないが、相当古く、小田原北条家の領地の頃にはすでの番所が置かれていたという。
たまたま一緒のバスに乗り合わせた地元人によると、今年の花の開花は例年より遅いと言う。途中、この地元の人が、バスガイドを勤めてくれる。「鬼切というというところがあるが、昔、村人が薙ぎなた鬼の首を切りとったという伝説に由来する」・・などなど。
車内は登山客が多く、満席の状況だが、8時30分、千足バス亭に降り立ったのはわずか2組のパーティーだけ。
山腹にも濃い霧がかかっている。
今回は、一時帰国したK君が参加。なぜかこの3人で登るときは雨か霧ばかりで晴天の日がない。誰か雨男が混じっているのではないか?
バス停の前の山里
バス停から柳沢林道を15分ほど歩くと、いよいよ登山道になる。山に霧はかかってはいるが、林道からは山桜やミツバツツジ、新緑も萌黄色に染まった、鮮やかなみずみずしい景色が広がっている。
本日の第一目標地は、天狗の滝。
林道の終わりから少し登ると天狗の滝に至る道と、つづら岩に向かう標識がある。予期しない分岐点だが、天狗の滝に寄っても道はいずれ合流するだろうと思って、滝へ至る道を選択することにした。
落差40mほどのこの滝は、新緑の木々に隠れるようにひっそりとした場所にある。
この天狗の滝からさらに30分ほど登ると檜原村一番という綾滝(21m)
山道の勾配がきつくなるに従って、足元に桜の花びらが目に付くようになった。樹間から見える山々にも、ピンク色に染まった山桜が淡い緑色のグラデーションに一層映えて美しい。
山道はブナ、クヌギ、コナラ、ミズナラの広葉樹や針葉樹の混合林で、豊富な樹木に覆われた奥多摩の森が実感できる。
天気予報では、今日は気温が相当高くなるそうだ。しかし前夜降った雨のせいで、山全体に冷気がこもってむしろ肌寒いくらい。
天狗の滝から傾斜の厳しいゴツゴツとした山道を1時間15分ほど歩いて、やっとつづら岩に着。
つづら岩は巨大な一枚岩で、近づいてみると、錆びた古いハーケンが何本も打ち付けられている。
ここは丁度尾根道に出る分岐点で、右側の稜線は馬頭刈(まずかり)山に至る馬頭刈山尾根が連なっている。
つづら岩
つづら岩からは、熊笹の生い茂ったな、上り下りを繰り返す、なだらかな尾根道。行き交う登山客はほとんどいない静かな山行だ。
ここから25分ほど歩くと見晴らしの良い富士見台に着く。あずまやがあり、一息入れるには格好の場所。だいぶ汗をかいたのでここで小休止。本日ここで、山中で初めて満開のミツバツツジ1本を発見。
富士見台から尾根道が続くが、傾斜はきつくなり、登り始めてから3時間近くなったところから太ももに張りが出てきた。どうやら上り、下りがこたえるようだ。
霧がまた深くなった。
そろそろ大岳山への最後のアプローチが近づいたころ、松の根元に道ひらきの神として信仰されてきた猿田彦の石仏に出くわした。傍らに彫られた年号を確認すると天宝九年(1838年)とある。
猿田彦の石仏 大岳神社鳥居
11時40分、登山口から丁度3時間経過したところでようやく大岳神社の鳥居に着。大岳神社は、御岳山からの縦走路の合流地点なので、ドッと登山客が増えてきた。
この社は、里の大嶽神社の奥宮で、この神社の創建は、天平19年(747年)。檜原村の城主橘高安が宿願があって、「大和吉野金峰山の神影を写し祀れリ、是即ち人皇28代安閑天皇の尊霊なり」と、1尺8寸の銅像を安置したという(新編武蔵風土記より)。その後、権現信仰が盛んになって、蔵王権現を祀る神社として、名を馳せたという。ここも日本武尊(東征)ゆかりの社で、境内に狗が祀られている。
山中の神社の手前にある大岳山荘は、江戸時代は、お狗信者を宿泊させる籠堂として建てられたというから、往時もいまと変わらぬに賑わいだったのだろう。
神社の鳥居から、最後の急坂にかかり、太ももが危うくつりそうになったが20分間踏んばり、ようやく12時丁度に大岳山頂に着いた。
山頂は相当な混雑だが広く、見晴らしも良い。
ザックを置く間も惜しく、南西の方角を見ると、厚い雲の向こうにほんのかすかに富士山が見えている。
分厚い雲海の上に、ポッと浮かんだ富士山の景色も珍しい。
雲が晴れ、富士山が顔を覗かせるたびに、登山客が一斉にカメラを構えて歓声を上げている。
ようやく待望の陽が出て、気温も高くなった。
目を右(西)に転じると、雲海の上に滝子山?、大菩薩の山々が悠然と浮かんで見える。
山頂で昼食を40分取り、下山道は、鋸山(1109m)を経て、愛宕山から奥多摩駅方向に向かう。
本日の温泉は、駅から20分ほど離れたもえぎの湯に浸かることになっている。下山には3時間以上を要するが、暑さのせいもあって、湯上りの生ビールはことのほか旨いだろう・・。
頂上直下は急坂だが、鋸山までの熊笹の尾根道はなだらかで、鳥のさえずりを聞きながら、長閑な山歩きが楽しめる。
大岳山頂から鋸山山頂までは、1時間10分。途中、団体登山者で渋滞するのにはいささか閉口した。
山頂は展望が利かないので、小休止して一路、奥多摩駅へ。
日本の伝統色は200以上あるというが、こうした新緑の景色を眺めていると、自然の微妙な配色の美しさには声も出ないほど。
途中、急峻な崖近くで一眼レフのカメラを構えている登山者が、白い花の群生にレンズを向けている。
何の花だろうかと思っていたら、岩ウチワだそうだ。ピンクと白があるがこの山では白の岩ウチワ。
大岳山頂から3時間20分、予定より20分ほど時間がかかったが、最後の180数段の愛宕神社下の急階段も無事下りて、16時丁度に登山口の道路にゴール。
ここから吊橋を渡って、もえぎ野湯 に向かうばかり。
湯上りの冷えた生ビールで祝杯。
本日の登山歩数は約30000歩なり。明日は足腰が痛くなることは必至。
もえぎ野湯で、2杯、3杯ジョッキを空け、駅前食堂で恒例の澤ノ井で一杯というもくろみだったのだが、残念ながら6時閉店という予期せぬ事態に遭遇。
しかたがないので、本日は立川駅で下車し、駅前で飲み直して10時ころ解散。
永い永い1日もようやくフィナーレ。