ある古びたアパートに住む主人公、佐々木(ささき)は、数週間前から隣の部屋から聞こえる奇妙な騒音に悩まされていた。

夜になると壁を超えて聞こえる音は、まるで何かが引きずられるかのようなギシギシとした音だった。最初は気にならなかったが、その音が深夜になると間隔を置いて何度も聞こえるようになり、佐々木は眠りを妨げられるようになった。

ある日、佐々木は勇気を振り絞って隣の部屋の住人に訪ねることにした。ドアをノックしたが、返事はなく、鍵が掛かっていた。住人は不在なのか、それとも……。怪しい雰囲気を感じながら、佐々木は再び自分の部屋に引き返した。

夜が更けるにつれ、その騒音はますます拡大していった。佐々木は耳を澄ませていると、時折、低い声が聞こえることに気づいた。それは囁くような声で、何となく人間ではない、異形の存在が喋っているような気配さえ感じられた。

その夜、佐々木は眠れないままベッドで仰向けに横たわっていた。すると、いつもとは違う音が聞こえてきた。ガタガタと、地響きのような音。佐々木は様子を窺うため、ベッドから起き上がり部屋を見回した。部屋の隅に、薄暗い灯りの中、影が立っているのが見えた。

佐々木は声を出すこともできないまま、ただその影を見つめていた。影は不気味な動きをして、佐々木の部屋の中心に迫ってきた。その時、佐々木は白々と光る目を見た。それは、生き物のものではない、死者の目だった。

佐々木は絶叫し、その場から飛び起きた。しかし、部屋の中にはもう何もいなかった。騒音も消え、静寂が戻ってきた。ただ佐々木の心臓の鼓動だけが響いていた。

翌日、佐々木はアパートの管理人に訴えたが、隣の部屋には誰も住んでいなかった。その部屋は以前、何か事件があったらしく、封鎖されていたのだという。

佐々木はその後、アパートを出ることにした。しかし、あの日の出来事は決して忘れられることはなかった。それは、隣の部屋の騒音は、実は死者からの警告だったのかもしれないという恐るべき事実だったのである。