夜の寝床で薄暗い天井を見つめながら、私は北条氏が言った目撃情報、事件の解明という言葉を何度も反芻していました。

 

 北条氏はつい最近になって僥倖にも偶然の目撃情報を得たという。それはアイさんが以前に勤めていた昼キャバに調査に入った際、元同僚のホステスが真夏日の昼間に奥多摩の外れで買い物かごを提げたアイさんを見かけたというのです。

 

 元同僚ホステスは青梅線奥多摩駅近くの管理釣り場で昼間から大人数でバーベキューを楽しんでいたという。その際、途中で仲間二人で駅前界隈を少し散策したという。その時、里山の更なる奥へ向かうバス停で買い物かごを提げたアイさんを見かけたというのです。

 

 すぐにアイさんだと気づいたが、イメージとは違う地味というかラフな格好だったのはいいにして、一点を見つめる不思議なオーラを感じ、声をかける事ができなかったといいます。なんだか変な宗教に取り憑かれたような怖い感じで、姿形はそのままでも別人のようであったといいます。

 

 大平くん失踪事件の鍵を握るのはいうまでもなくアイさんであり、アイさん自身も行方不明になっているのならば、きっと二人は同じ場所にいるというのは北条氏に聞くまでもなく分かる事です。

 

 奥多摩の外れに向かって歩むアイさんとお墓で元気に暮らしているという台詞を結び付けるものは一つであり、結局、誰かのお墓を守って、その誰かのお墓の近くで二人仲良く生活しているという事は誰でも推理できる事です。

 

 近々北条氏は奥多摩駅へと飛び徹底調査する事によってこの事件も終結するだろうと言っていましたが、その際、少しだけ疑問を抱いた事があるとも言っていました。

 

 それは、アイさんや大平くんの親族縁者を調べても奥多摩地方出身者の者はおらず、一体誰のお墓なのだろうかという事です。そこで、北条氏は大平くんが最後に私に語った神々の地という言葉と彼の特殊な女性観にインスピレーションを得たと言うのです。

 

 私にはよく分からなかった。よく分からなかったが、近々に事件は解決するはずで、その暁には真相の概略を教えてくれると言った北条氏の約束を楽しみにしていたのです。

 

 それから一週間後、大平くんの行方と失踪の原因が判明しました。

 

 

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