小説の最終回をお待ちの方も


 おいでかとは思いますが。                  


 ここでちょっと道草。です。




オトトイノ ヨル    のことです。



その夢は私に殴りかかってきた。


私は友人の女子に呼ばれて彼女のブティックをニューオープンするための

ディスプレイをしていた。



特大サイズのウインドゥをT字のウインドゥクリーナーでピカピカにしてから

マネキンに服を被せていたいた時だった。



ウインドゥの前を 彼 が通った。

何気なくウインドゥを見ている。

立ち止まり、2体くらい向こうのトルソーを。


咄嗟に私は手を体の上で振った。

大きく振って彼にわかるようにしようとした。

初めは どうしたものかとマネキンに服を着せる 手を止めたのだったが

早る 心は止められなかった。

 もし気づかれなければ彼は行ってしまうだろう。


リーゼントの少し揺れる前髪。

トレンチコートを無造作に結んだ太いベルト。


たくさん 手を振り 色々な動作をした。

左右に揺れてもみたりした。

そのうち窓のそばへ行き ウィンドウを軽く叩いた。

 しかし彼は遠くの服を見ていて何も気づかない、そんなことあるのだろうか?


不安になり、ウインドゥのガラスの 彼 の前まで行く。

彼はとてもびっくりして笑っていて。

何かを喋っているが、わからない。


わたしは


何ものもかなぐり捨てて

彼のもとへ走り


なぜここを通ったの?

なぜこの店を見てたの?

どうしてわたしに気づかなかったの?

なんでふつうだったら仕事をしてる時間にこんな所を通ったの?



なんで、なんで、なんで??

こどものように聞く。

どうしてどうして??


うれしくてはずかしくて

うれしすぎて泣きたいような、

悲しいような気持ちだった。



いやだいやだ、こんな格好で会うなんて。

わたしはアイボリーのツナギを着て、髪をアップにしていた。


彼は小さい声で


大丈夫。と言い、


笑っているだけだった。


多分彼と私は

大きな会社の離れた部署で仕事をしていて、私の思いなど彼は知らない。

顔を見たことがあるくらいのはずだ。



なのに、なんでこんなところにいるの??




私は心身崩壊して、彼に抱きついた。

彼は

私の背中には手を回さず、笑っていた。



通ったの?

ただこの街に、来たの??

会社から3駅も離れているこの街に??




彼 は下を向き顔を左右に振って

笑った。



その時、女子友のマリエが店から出てきて、私が声かけたのよ、と言う。



え?だって親友のマリエにも、

1 年も彼にゾッコンなんて話したことはなかった。


あ、そう言えば、マリエは今はもう私と同じ会社は退職して、

フリーでコスチュームのコーディネーターをやっているが、


前は彼の隣の部署にいたんだった。


自分が店を出すから、用事があって呼んだらしい。


何も考えず抱きついて、彼を舗道の端まで押して行ってしまった!

なんで?なんで、なんで??って。

逢えると思わなかった、って!!

子供みたいに。

はずかしい!!



私は関係なかった。




しかも、マリエと 彼 は昔付き合っていたらしい。

昔の社内の

ある噂の点と点が線になって行った。

社内の美人と恋をして新婚の奥さんと別れた男がいる、と。

その後その2人は付き合う事はなかった、と。


今回は店内の内装に手を加える場所があるか見てほしい、と呼んだらしい。



私はバケツで水をかけられたような気分になり、

その後黙々と仕事をこなした。



マリエと彼は壁を指さしたりして、何やら相談し、

壁のサイズを測ったりしていた。


けれど夜になり、

一緒に一杯やりに行く話しになり、



私は還る!!


と、子供のようにスネていた私に、

店にあったフラワーアレンジメントのバスケットを 彼 が急に差し出した。

   


     君に。


と言った。


え?

これはマリエの出店祝いに送ったものでは??


と訊く私に、

それはコレ!

と彼は言い、

会社の部署の名の付いた大きなスタンドの豪華な花を見せた。



その後マリエが、居酒屋に移動してから、

私が内装のデザインを手直しするために、噂のあった男をわざわざ自分の店に呼ぶと思う??と、

わたしの眼を覗き込みながら言う。


マリエはこんな時、やはり4つ年上のお姉さんだ。

お姉さん顔をしている。



じゃあどうして。



貴女が 彼 を気に入ってるんじゃないのかしら?

と、貴女の課の私たち共通の友達から聞いたからよ。



あー、お似合いだわよね、と思ったから、今日 彼 を内装のプランナーで来て欲しいと指名したと言う。


マリエ!!ったら。!!


事情も彼に電話したと言った。

だから事前にフラワーアレンジメントも彼が送ったらしい。


私に??


なんとなくわたしの事は見ていたと言われた。




顔から火が出そう!!

帰ろうと決めた!

それじゃ、ごゆっくり。

昔話でもしてね、

マリエ、ありがとう。

と、花かごを持って、マリエと彼 を残して立とうとする私に。


ごゆっくり、はワタシのセリフでしょ?!?


うちの彼がお腹空かして待ってるしー。

ここは払っといてね、びろうど!

内装料に上乗せしてもいいよー。

じゃあねー、

うさこちゃんと、びろうどノラ猫。

あ、うさこちゃん、

びろうどノラは、そろそろ再婚したいなー、って言ってるわよ。

最初の結婚が短すぎたらしいから。



あ、そう言えばマリエにはずっと一緒に住んでる彼がいた。



残されたわたしは言葉もなかった。

あのー、びろうどノラ猫って、何ですか??


僕のあだ名じゃない??



何だか、ずっと惚れまくっていた遠い部署の上司と2人きりで飲んでいるのが

信じられない大事故のような夜だった。



じゃあ、本当はわたしを見に来たんですか?


ウィンドウの中のツナギのポニーテールの君も新鮮だったよ。



会社で私の事見たことあったんですか?



けっこう見てたよ。



ウィンドウの中の私を何で見てないフリしてたんですか??



初めは内装のデザイン頼まれて来たフリして。(フリだけじゃないけどね。仕事もあるけどね。)

って、森谷さん(マリエ)に言われてたから。



まさか、君が抱きついて来ると思わなかったからさ。

作戦失敗だったよ。


君はそ知らぬ感じで僕に接すると思って店に来たのに。




だって、マリエと知り合いって、考えたことなかったんだもの。



会社では昔はウワサだったかもね。

皆、今は口が堅いね。(笑)



噂のこと、今日、やっと結びついたんですよ。



減点??



減点しても120点残ってます。




森谷さんとの出来事、

知らなかったのなら、振り出しだね。

君は友達だし。



だって、マリエとの事があったから、

今日こうして飲めてるんですよ。

そうじゃなかったら、中学生みたいに、

貴方に何も言えなくて、言えないうちにいつか退社して、貴方は思い出の人になって、私の心の額縁に入って終わりです。



 夜が更けて、ずっと飲んでいて、



 幸せな夜の恋の夢でした。





明け方まで緊張して話して、疲れて、疲れ切って、

起きたら仕事です!!




でも、またあんな夢が見たいです❢❢



ちなみに私は32才くらい。

びろうど猫さんは、37才くらいでした。



🌸🌸🌸🌈🌈🌈🌈🌼🌼🌼