松尾定行「国鉄が消えた!?日」(B6判、全229ページ、日本経済評論社1986年3月20日発行、定価1200円)
和歌山の住民が起こした、国鉄の地域格差運賃は交通権に反している、との訴訟について記したもの。交通権というのは、国鉄の分割民営化が議論された時期に、全ての国民は憲法で保障された交通に関する権利がある、という主張で、今となっては懐かしい言葉となってしまっている。本書では、ローカル線廃止ではなく、地域間運賃格差の論点として、交通権が取り上げられている訳だが、もし本当に、交通権というものを考えるのなら、通勤ラッシュに悩まされる都会の人は交通権があるのかと言った、もっと広い視野で考えるべきことであろう。本書ではそれがなされておらず、問題点のごく一部を切り取ってみせた形になっており、問題定義の書としては、有用とは言えない。
本書で参考になったのは、地域間格差運賃を決めるために調査された旅客密度の計測方法が、p170「無人駅からの乗客等の乗車券を所有しない無札の乗客については、着駅精算の取扱いがなされており、この場合乗車券が発売されないため旅客輸送密度の計算から除外される」とあり、この算定方法では、無人駅が多いローカル線は不利になることとなる。ただ、ローカル線利用者の大半は定期券利用者だろうから、算定方法を厳密にしても、あまり変化はないだろうが。