※残酷描写が多分に含まれています。苦手な方はお戻りください。
17話 彼女の計画
『田戸中健二を使用した「プランA」、失敗』
リミンクは雨の中、神保武を引き連れながら普通の歩道を歩いていた。
顔立ちだけ見れば歳の離れた姉弟に見えるだろうか。
ただ、武の顔には生気がない。
自己決定権を失われていた。
人形師リミンクと操り人形武は肩をぬらしながら歩いている。
向かっているのはTのいる場所。
現在は通信機器から流される単調な報告に耳を傾けている。
『「プランB」と「プランC」へ移行』
通信機器の音声を聞いて、リミンクは立ち止まった。
その後ろで武が急停止する。
『実行者のリミンクは現行の任務を破棄し、速やかに「プランB」の準備へ入れ』
リミンクはすぐにTの位置を知る小型の機器を地面に捨てた。
そして、ヒールで砕く。
現行の任務、それはMIBからの任務。
その任務を破棄するということはMIBへの反逆を意味する。
MIBへの反逆はそのまま全宇宙の最高権力に対する反逆になる。
しかしそれこそが彼女達の目的であり、彼女が躊躇することなど有り得なかった。
『悪魔と対峙するにあたり、表皮からの神経毒侵入は不可』
リミンクは伝えられる情報をもとに「プランB」を再構築していく。
「プランB」は投げやりな計画だった。
──神保武を人質に取り、何らかの方法を用いて悪魔に神経毒を打ち込む、または悪魔を処理する方法を確立した上でMIB本部に誘導する。
神保武を人質に取ることには既に成功している。
が、表皮からの神経毒が効かないとなればそれは無駄となる。
二つ目の案はもはや適当だ。
悪魔の処理方法なんて簡単に見つかるはずが無いし、そもそもMIB本部は地球上に無い。
一番簡単な方法としては、MIBの実質的な下部組織に当たるSERO本部からMIB直通の瞬間移動装置を使うというものだ。
しかし、SEROは今朝の事件から警戒が強められている。
リミンクが能力を使う前に蜂の巣にされてしまうだろう。
全てがリミンクに丸投げされていた。
SCPOはそれほどリミンクの能力を信頼している。
「全く面倒くさいですの……」
リミンクはため息をついた。
リミンクは小豆色のスーツのポケットから小さな機械を取り出す。
それは瞬間移動装置。
相当小型化が進んでいて携帯ほどのサイズだが、移動先にも装置を設置しなければならないというデメリットがある。
リミンクは後ろに立つ武の腕をつかんだ。
そして装置を起動する。
二人の姿はぶれ、虚空へ消えた。
二人が次に現れたのは、ある路地裏。
SCPOが世界各地に勝手に設置した移動先の装置一億個のうちの一つだ。
雨が降っていて地面のわずかな土が濁っている。
さらに降り続く雨が二人の体をぬらした。
「ここで待っててくださる?」
リミンクが武に尋ねる。
リミンクの言葉は疑問系だがそれはただの命令だった。
武は生気を失った目でこくんと頷く。
リミンクは路地裏から出た道路の向かいにあるスーパーへと歩いていった。
このスーパーにいくためにこの装置へ飛んだ。
リミンクは一億個全ての場所とその周辺の地理を記憶している。
そのぐらいの知識が必要だった。
いや、SCPOから困難で重労働の任務をしょっちゅう任されるリミンクにはその程度の知識では足りない。
リミンクは店内へと入る。
入ってすぐの場所には果物などが売っているがリミンクは無視して進んだ。
入り口からほぼ真逆の飲料が並ぶエリアに着く。
リミンクは迷わず一本のパックを手に取った。
『トマトジュース』。
それがリミンクの出した結論だった。
神保武でおびき寄せる悪魔は的間砂叉という少女が支配されたものだ。
的間砂叉の情報を読み取ると、神保武という存在の次に出てくるのがトマトだ。
神保武と的間砂叉がもう一人の悪魔に襲撃された場所でも一面トマトに覆い尽くされた弁当箱が見つかっている。
人間時代の大切な人を覚えているように人間時代の大好物も覚えているだろう。
そこに神経毒を混ぜればいい、とそう考えた。
リミンクは誰も並んでいないレジに入る。
「通らせてくださる?」
リミンクが聞くとレジに立つバイトの店員は応じた。
金も払わずにリミンクが通り過ぎる。
「はぁ……。こんなことに使わなければならないとは、悲しい限りですの」
リミンクは任務にするときにその場での通貨を渡されない。
このように万引き紛いのことをすればいいと考えられる。
やらないで済むならそのほうが良いに決まっているのに。
リミンクの力を見れば、大半の人はトップに立つにふさわしいと考えるだろう。
しかし、それは大きな間違いだ。
確かに人の上に立つことは人に対して命令する機会が増えることだ。
けれど、上に立てば立つほど、恨む人間も多くなる。
リミンクが命令を下すには、相手と会話できる状況、最低でも相手に言葉を聞かせる状況が必要だ。
たくさんの自分を恨む人間に対してそれぞれ会話することは不可能に等しい。
不意を衝かれて殺されればそれまでなのだ。
逆に言えば、相手に警戒されず、一言でも発することが出来れば勝ちだ。
だからこその位置。
彼女が組織の中で位置するのはそういう位置だった。
恨まれることも無ければ、不意に殺されることも無い。
そして、相手に一言発することの出来る位置。
その地位にいるしかない。
リミンクはスーパーから出た。
後は神経毒を仕込んだトマトジュースを神保武に持たせるだけ。
どこにいてもいずれ悪魔は武の元へやってくる。
そうすれば神保武を殺害した後か前かは別として悪魔はトマトジュースを口にするだろう。
だから、まずは神保武のもとに行く。
そのために道路を渡る。
だから、リミンクは車が通り過ぎるのを待っていた。
リミンクの目の前を通り過ぎる車。
その車に、黒い翼が降り立つ。
バリン! と助手席のフロントガラスが粉々に砕けた。
悪魔が、そこにはいた。
「あれ? 『たけし』はここら辺のはずなんだけどなぁ……」
悪魔の口からたけしという人名が発せられる。
リミンクは判断した。
こいつが二体目の悪魔、的間砂叉であることを。
一瞬の油断も許さない状況だった。
リミンクの勝利条件は、悪魔に神経毒を打ち込む。
または武を一度安全な場所へ連れて行く。
悪魔の勝利条件は実に単純。
神保武を殺すこと。
トマトジュースに毒を仕込んでいない今、神経毒を打ち込むという選択肢は無い。
武を安全な場所へ連れて行くにしても、その武との間に悪魔がいる。
しかしそちらを選ぶしかない。
武の体にさえ触れればすぐに瞬間移動で悪魔から距離をとることができる。
リミンクがすることは一つ。
神保武のもとに辿り着くこと。
武が自らの足で通りに出てくることは期待できない。
何故なら武の自主的な移動はリミンク自身が力で封じているのだから。
リミンクは走り出した。
フロントガラスの割れた車のすぐ横を。
悪魔はリミンクには気付いていないようだ。
悪魔は翼で運転席の女性の左手をつかみ、車から引きずり出していた。
女性は片腕だけをつかまれ、ぶらぶらと宙にゆれている。
「あんた、『たけし』っていう名前じゃないわよね」
ガタガタと女性は震えて首を横に振っていた。
片手だけを持ち上げられているのでその体勢は不自然だ。
車から出るときにガラスで切ったのか、ところどころ服は破け、血が流れている。
悪魔は小首をかしげる。
「違うの? じゃあ、要らない」
残りの全ての翼が一斉に動いた。
その翼は胸や腹、女性の胴体を次々と刺していく。
女性は痛みですぐに意識を失った。
悪魔は左の腕で女性の空いている右腕をつかむ。
そして、そのまま腕をひねった。
メシメシと女性の腕の骨が砕ける。
皮膚は裂け、内側から骨の一端が顔を覗かせた。
果汁を絞るように血液がボタボタとこぼれる。
女性は気を失っているため、その表情に変化は無い。
悪魔はひどく残念そうな顔をした。
「詰まらない」
悪魔は翼で女性を車道に叩きつける。
それだけで潰すことも出来ただろうが、そうはしなかった。
ばさっ、と悪魔は一瞬だけ舞って、すぐ急降下する。
悪魔の足は女性の頭部に着陸した。
ガキゴキという頭蓋骨の割れる音が響く。
顔面の皮膚が外側へ裂けた。
眼球が頭蓋骨から飛び出て車道へ転がる。
路面に赤い円が広がっていく。
そして、悪魔はリミンクの走るほうへと、首を回した。
「ふぅ~ん。そこね」
悪魔がそこから爆発的な速さで低空を飛翔する。
リミンクはようやく路地裏に駆け込んだ。
武は命令したときと寸分の狂いも無い場所に立っている。
リミンクは走りにくいハイヒールで全力を出した。
ヒールが折れ、リミンクは地面に倒れる。
路地裏の汚い地面にリミンクは手をついた。
倒れたときに思いっきり右足を挫いた。
「くっ……まずいですわ」
リミンクは呟いた。
悪魔も路地裏の入り口に差し掛かっている。
武はすぐそこだが、倒れたままでは届かない。
体を起こそうとしたが、右足の激痛で無理だった。
しかし、リミンクは這うようなことはせず、
「前へ倒れてくださる?」
武の目を見て言う。
武は目の色も顔色も変えず、ためらいも無く体のバランスを崩した。
大きな音を立てて武は倒れ、ピシャッとした水音がする。
倒れた武との距離は多少あった。
悪魔は全速力で迫る。
しかし、どうにか手だけは武の頭に届いた。
ポケットを探り、リミンクは瞬間移動装置を取り出す。
リミンクはどうにか目的地を設定し、起動した。
二人の体は虚空へと消える。
悪魔はバッと翼を広げ急停止した。
「くそ……。あの女、今度あったら絶対にいたぶってやる」
悪魔が忌々しげに呟く。
悪魔は苛立ちをぶつけるかのように右の足で路地裏に面するビルの壁をけった。
ボゴッと足が埋まる。
さらに苛立った悪魔は六枚の翼の面でビルを思いっきり打ちつけた。
ガラガラ!! とビルが倒壊する。
「待ってなさいよ……」
バサァッ! と悪魔は再び飛び立った。
リミンクと武の姿が次に現れたのは、富士の樹海。
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17話 彼女の計画
『田戸中健二を使用した「プランA」、失敗』
リミンクは雨の中、神保武を引き連れながら普通の歩道を歩いていた。
顔立ちだけ見れば歳の離れた姉弟に見えるだろうか。
ただ、武の顔には生気がない。
自己決定権を失われていた。
人形師リミンクと操り人形武は肩をぬらしながら歩いている。
向かっているのはTのいる場所。
現在は通信機器から流される単調な報告に耳を傾けている。
『「プランB」と「プランC」へ移行』
通信機器の音声を聞いて、リミンクは立ち止まった。
その後ろで武が急停止する。
『実行者のリミンクは現行の任務を破棄し、速やかに「プランB」の準備へ入れ』
リミンクはすぐにTの位置を知る小型の機器を地面に捨てた。
そして、ヒールで砕く。
現行の任務、それはMIBからの任務。
その任務を破棄するということはMIBへの反逆を意味する。
MIBへの反逆はそのまま全宇宙の最高権力に対する反逆になる。
しかしそれこそが彼女達の目的であり、彼女が躊躇することなど有り得なかった。
『悪魔と対峙するにあたり、表皮からの神経毒侵入は不可』
リミンクは伝えられる情報をもとに「プランB」を再構築していく。
「プランB」は投げやりな計画だった。
──神保武を人質に取り、何らかの方法を用いて悪魔に神経毒を打ち込む、または悪魔を処理する方法を確立した上でMIB本部に誘導する。
神保武を人質に取ることには既に成功している。
が、表皮からの神経毒が効かないとなればそれは無駄となる。
二つ目の案はもはや適当だ。
悪魔の処理方法なんて簡単に見つかるはずが無いし、そもそもMIB本部は地球上に無い。
一番簡単な方法としては、MIBの実質的な下部組織に当たるSERO本部からMIB直通の瞬間移動装置を使うというものだ。
しかし、SEROは今朝の事件から警戒が強められている。
リミンクが能力を使う前に蜂の巣にされてしまうだろう。
全てがリミンクに丸投げされていた。
SCPOはそれほどリミンクの能力を信頼している。
「全く面倒くさいですの……」
リミンクはため息をついた。
リミンクは小豆色のスーツのポケットから小さな機械を取り出す。
それは瞬間移動装置。
相当小型化が進んでいて携帯ほどのサイズだが、移動先にも装置を設置しなければならないというデメリットがある。
リミンクは後ろに立つ武の腕をつかんだ。
そして装置を起動する。
二人の姿はぶれ、虚空へ消えた。
二人が次に現れたのは、ある路地裏。
SCPOが世界各地に勝手に設置した移動先の装置一億個のうちの一つだ。
雨が降っていて地面のわずかな土が濁っている。
さらに降り続く雨が二人の体をぬらした。
「ここで待っててくださる?」
リミンクが武に尋ねる。
リミンクの言葉は疑問系だがそれはただの命令だった。
武は生気を失った目でこくんと頷く。
リミンクは路地裏から出た道路の向かいにあるスーパーへと歩いていった。
このスーパーにいくためにこの装置へ飛んだ。
リミンクは一億個全ての場所とその周辺の地理を記憶している。
そのぐらいの知識が必要だった。
いや、SCPOから困難で重労働の任務をしょっちゅう任されるリミンクにはその程度の知識では足りない。
リミンクは店内へと入る。
入ってすぐの場所には果物などが売っているがリミンクは無視して進んだ。
入り口からほぼ真逆の飲料が並ぶエリアに着く。
リミンクは迷わず一本のパックを手に取った。
『トマトジュース』。
それがリミンクの出した結論だった。
神保武でおびき寄せる悪魔は的間砂叉という少女が支配されたものだ。
的間砂叉の情報を読み取ると、神保武という存在の次に出てくるのがトマトだ。
神保武と的間砂叉がもう一人の悪魔に襲撃された場所でも一面トマトに覆い尽くされた弁当箱が見つかっている。
人間時代の大切な人を覚えているように人間時代の大好物も覚えているだろう。
そこに神経毒を混ぜればいい、とそう考えた。
リミンクは誰も並んでいないレジに入る。
「通らせてくださる?」
リミンクが聞くとレジに立つバイトの店員は応じた。
金も払わずにリミンクが通り過ぎる。
「はぁ……。こんなことに使わなければならないとは、悲しい限りですの」
リミンクは任務にするときにその場での通貨を渡されない。
このように万引き紛いのことをすればいいと考えられる。
やらないで済むならそのほうが良いに決まっているのに。
リミンクの力を見れば、大半の人はトップに立つにふさわしいと考えるだろう。
しかし、それは大きな間違いだ。
確かに人の上に立つことは人に対して命令する機会が増えることだ。
けれど、上に立てば立つほど、恨む人間も多くなる。
リミンクが命令を下すには、相手と会話できる状況、最低でも相手に言葉を聞かせる状況が必要だ。
たくさんの自分を恨む人間に対してそれぞれ会話することは不可能に等しい。
不意を衝かれて殺されればそれまでなのだ。
逆に言えば、相手に警戒されず、一言でも発することが出来れば勝ちだ。
だからこその位置。
彼女が組織の中で位置するのはそういう位置だった。
恨まれることも無ければ、不意に殺されることも無い。
そして、相手に一言発することの出来る位置。
その地位にいるしかない。
リミンクはスーパーから出た。
後は神経毒を仕込んだトマトジュースを神保武に持たせるだけ。
どこにいてもいずれ悪魔は武の元へやってくる。
そうすれば神保武を殺害した後か前かは別として悪魔はトマトジュースを口にするだろう。
だから、まずは神保武のもとに行く。
そのために道路を渡る。
だから、リミンクは車が通り過ぎるのを待っていた。
リミンクの目の前を通り過ぎる車。
その車に、黒い翼が降り立つ。
バリン! と助手席のフロントガラスが粉々に砕けた。
悪魔が、そこにはいた。
「あれ? 『たけし』はここら辺のはずなんだけどなぁ……」
悪魔の口からたけしという人名が発せられる。
リミンクは判断した。
こいつが二体目の悪魔、的間砂叉であることを。
一瞬の油断も許さない状況だった。
リミンクの勝利条件は、悪魔に神経毒を打ち込む。
または武を一度安全な場所へ連れて行く。
悪魔の勝利条件は実に単純。
神保武を殺すこと。
トマトジュースに毒を仕込んでいない今、神経毒を打ち込むという選択肢は無い。
武を安全な場所へ連れて行くにしても、その武との間に悪魔がいる。
しかしそちらを選ぶしかない。
武の体にさえ触れればすぐに瞬間移動で悪魔から距離をとることができる。
リミンクがすることは一つ。
神保武のもとに辿り着くこと。
武が自らの足で通りに出てくることは期待できない。
何故なら武の自主的な移動はリミンク自身が力で封じているのだから。
リミンクは走り出した。
フロントガラスの割れた車のすぐ横を。
悪魔はリミンクには気付いていないようだ。
悪魔は翼で運転席の女性の左手をつかみ、車から引きずり出していた。
女性は片腕だけをつかまれ、ぶらぶらと宙にゆれている。
「あんた、『たけし』っていう名前じゃないわよね」
ガタガタと女性は震えて首を横に振っていた。
片手だけを持ち上げられているのでその体勢は不自然だ。
車から出るときにガラスで切ったのか、ところどころ服は破け、血が流れている。
悪魔は小首をかしげる。
「違うの? じゃあ、要らない」
残りの全ての翼が一斉に動いた。
その翼は胸や腹、女性の胴体を次々と刺していく。
女性は痛みですぐに意識を失った。
悪魔は左の腕で女性の空いている右腕をつかむ。
そして、そのまま腕をひねった。
メシメシと女性の腕の骨が砕ける。
皮膚は裂け、内側から骨の一端が顔を覗かせた。
果汁を絞るように血液がボタボタとこぼれる。
女性は気を失っているため、その表情に変化は無い。
悪魔はひどく残念そうな顔をした。
「詰まらない」
悪魔は翼で女性を車道に叩きつける。
それだけで潰すことも出来ただろうが、そうはしなかった。
ばさっ、と悪魔は一瞬だけ舞って、すぐ急降下する。
悪魔の足は女性の頭部に着陸した。
ガキゴキという頭蓋骨の割れる音が響く。
顔面の皮膚が外側へ裂けた。
眼球が頭蓋骨から飛び出て車道へ転がる。
路面に赤い円が広がっていく。
そして、悪魔はリミンクの走るほうへと、首を回した。
「ふぅ~ん。そこね」
悪魔がそこから爆発的な速さで低空を飛翔する。
リミンクはようやく路地裏に駆け込んだ。
武は命令したときと寸分の狂いも無い場所に立っている。
リミンクは走りにくいハイヒールで全力を出した。
ヒールが折れ、リミンクは地面に倒れる。
路地裏の汚い地面にリミンクは手をついた。
倒れたときに思いっきり右足を挫いた。
「くっ……まずいですわ」
リミンクは呟いた。
悪魔も路地裏の入り口に差し掛かっている。
武はすぐそこだが、倒れたままでは届かない。
体を起こそうとしたが、右足の激痛で無理だった。
しかし、リミンクは這うようなことはせず、
「前へ倒れてくださる?」
武の目を見て言う。
武は目の色も顔色も変えず、ためらいも無く体のバランスを崩した。
大きな音を立てて武は倒れ、ピシャッとした水音がする。
倒れた武との距離は多少あった。
悪魔は全速力で迫る。
しかし、どうにか手だけは武の頭に届いた。
ポケットを探り、リミンクは瞬間移動装置を取り出す。
リミンクはどうにか目的地を設定し、起動した。
二人の体は虚空へと消える。
悪魔はバッと翼を広げ急停止した。
「くそ……。あの女、今度あったら絶対にいたぶってやる」
悪魔が忌々しげに呟く。
悪魔は苛立ちをぶつけるかのように右の足で路地裏に面するビルの壁をけった。
ボゴッと足が埋まる。
さらに苛立った悪魔は六枚の翼の面でビルを思いっきり打ちつけた。
ガラガラ!! とビルが倒壊する。
「待ってなさいよ……」
バサァッ! と悪魔は再び飛び立った。
リミンクと武の姿が次に現れたのは、富士の樹海。
───────────────────────
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