父の介護を手伝っていて

『母さんは すごいなぁ…』

と思うことが多々あります。



去年の今頃 父は

同じ年代の人達とは比べようがないほど

元気に充実した日々を過ごしていました。


手術をして癌を取ったら

次の日からリハビリをして

あっという間に退院して

またいつも通りの日常に戻る

病院にトレーニング道具を持ち込んでたくらい

父も私達も そう思っていたのに


手術をするために入院をして

1週間ほどの入院のはずが経過が悪く

長い入院生活の後

自分のことは自分でできるけど ゆっくりで

歩くのもヨタヨタとしか歩けなくなった。


再入院した後は

トイレも入浴も手伝いがないとできなくなり

1人で歩く時は歩行器が必要になり

通院する時の移動が車椅子になった。


再々入院した後は

介護タクシーで寝たまま帰ってきて

自分のことは何ひとつ出来なくなり

今まで通りに飲食できなくなった。

とろみのあるものしか食べられなくなり

ほんの数口しか口にせず

生きていくのに必要な栄養すらとれなくなった。

今は最低限の栄養と水分を点滴で入れてるけど

その頃は 父に元気になってほしいと

母が頑張って食べさせようとしてるのに

父が食べてくれなくて

父の前では元気そうにしていたけど

母は悩んでて眠れなくなってた。



手術をしてから1年も経たないのに

筋肉自慢で元気だった父は介護状態。


時々 父は

『何でこんな事になってしまったのだろう』

と呟いている。


本当に『何で』だと思う。


手術の時は どんな簡単な手術でも

100%成功するとは限らないし

手術が成功しても 経過が悪かったり

思うほど回復しないこともあるから

『もしかしたら…』の悪い可能性の話は

必ずされる


でも そんな事は 万が一も起こらないと

何故か信じて疑ってはいなくて


私達ですら 思いがけず坂道を

転がり落ちてしまったような感覚だから


きっと父にしたら もっと辛く苦しくて

崖から足を踏み外して転落したくらいの


そんな感覚なんじゃないかと思います。



今は身体は動かないけど

大きな声を出しながら当たるように

怒る時もあります。


自分の仕事も忙しく大変なのに

少しでも父や母の役に立ちたいと妹は

旦那さんや家族の協力を得て 

家には時々しか帰らず

職場まで片道1時間近くかかっても

できるだけ実家に帰ってきてくれているので

疲れているせいもあって

『こんなに尽くしてあげてるのに』と

腹を立てて私に愚痴ることもあったけど



母はずっと父と一緒に居て

もっと理不尽に当たられているし

夜も何度も起こされて寝られず疲れているのに

文句を言うことも腹を立てることもない


それどころか

『気が利かない嫁でゴメンね。

 でも私はずっと昔から気が利かなかったよ。

 早く元気になって鍛え直さないとダメだね』

って笑って父に言ってたりする。


ついこの間まで 誰よりフットワーク軽く

動き回れていた父だから

『やりたいことが何もできなくて

 もどかしいんだよ』

『可哀想に誰より自分が情けなくて腹が立って

 気持ちの持ってく所がなくて暴れちゃうの

 本当は感謝してるんだから許してあげて』

って母は私達に言う。

わかってるけど…

あんまり理由のわからないことばかり言うから

つい愚痴っちゃうんだよ。


確かに父の口からボソボソと

『みんなに迷惑かけて 情けないや…』

って呟いているのも何度も聞いた。

そんな時も母は

『迷惑じゃないよ。

 私はお父さんと行きたい所

 たくさんあるんだよ。

 元気になって車椅子くらい乗ってくれないと

 散歩にも ドライブにも行けないでしょ』

って励ましてました。


言いやすい…当たりやすいのか

父は誰より母には我儘を言ったり

当たったりもしていますが

母の励ましに答えて父も調子の良い時は

『温泉行きたいなぁ』『花見行けるかなぁ』

って言ってました。


主治医に『だんだん弱りで回復は難しい』

と 言われた時も

元気そうに見えるのに

『あと半年は生きられないだろう』

と 言われた時も

『いつ亡くなってもおかしくない』

と 言われた時も

『家で看取るのは辛く大変だろうから

 病院の手配しましょうか』

と言われた時も

私は父の死期が近づいているのがただ悲しくて

我慢できず涙が止まらなくなったのに

ホワホワしてて 天然ボケで

弱そうに見えてた母は泣くこともなく気丈に

『もうずっと家に居たいだろうから

 できる限り最後の時まで家でみてあげたい』

って即答してましたし

もういつその時が来てもおかしくないのに

今も『元気になって』と父を励まし続けてます。

母がこんなにも強い人だとは知らなかった。



父は浮気や不倫とは無縁の愛妻家でした。

我儘を言ったり 当たったりしてても

今も時々 ぽっりぽつりと

母の事を思いやるような言葉をかけます。

きっと母は 父の気持ちを疑ったことなんて

ないんだろうなぁ…


母の強さが

今までの父の愛情に答える気持ちから生まれた

強さなのだとしたら

同じ状況になった時 私は夫を

母のように強く支えることができるだろうか。

そう考えた時

できれば私は 夫より先に死にたいと思った。