~花の名前を持つ巨大兵器。ステイメンとオーキスに隠された設計思想~
おはこんにちは。どうも僕です。
ガンダムシリーズには、数多くの巨大兵器が登場します。
ビグ・ザム。
ノイエ・ジール。
サイコガンダム。
そして、ガンダム試作3号機。
デンドロビウム。
初めてこの機体を見たとき、僕は思いました。
……これ、ガンダムなのか?
巨大なコンテナ。
長大なメガ・ビーム砲。
大型スラスター。
そして、その中心に収まる一機のガンダム。
モビルスーツというより、宇宙戦艦の武装を無理やり一機に詰め込んだような姿です。
しかも、こんな恐ろしい兵器に付けられた名前が、デンドロビウム。
実は、ランの仲間である花の名前なのです。
あの巨大な武装と、繊細な花。
どう考えても似合わない組み合わせに思えます。
しかし、名前の意味から機体構造を調べていくと、なかなか面白い設計思想が見えてきます。
今回は、デンドロビウムという名前の由来から始めて、巨大な武装システムの合理性、運用上の問題、そしてなぜ同じような兵器が主流にならなかったのかを考えてみたいと思います。
■デンドロビウムとは、そもそも何の名前なのか
デンドロビウム。
英語ではDendrobium。
ラン科の植物の一属で、数多くの種類が存在します。
名前はギリシャ語に由来し、「樹木」と「生命・生活」を意味する言葉から作られています。
樹木に着生する種類が多いことから付けられた名前です。
そして、ガンダム試作3号機のコードネームは、この植物から取られています。
花言葉には「わがままな美女」などがあります。
……。
わがままな美女。
確かに、あの機体は相当にわがままです。
巨大すぎて母艦に収容できない。
整備にも莫大な手間がかかる。
補給も簡単ではない。
それでいて、戦場では圧倒的な火力を発揮する。
花言葉と機体の性格が妙に重なって見えるのは、僕だけでしょうか(笑)。
ただし、花言葉に合わせて設計されたという公式な説明があるわけではありません。
ここは、作品を楽しむうえでの解釈ですね。
そして、さらに興味深いのが、機体を構成する二つの名前です。
ステイメン。
オーキス。
この二つも、植物に由来しています。
■ステイメンとオーキス。名前が表す機体構造
デンドロビウムは、大きく二つの部分から構成されています。
中心となるモビルスーツ、ステイメン。
そして、巨大な武装プラットフォームであるオーキスです。
ステイメン(Stamen)は、花の雄しべを意味します。
一方、オーキス(Orchis)は、ランに関係する名称です。
つまり、花に関係する名前が、機体の中心部分と外側の構造に与えられているのです。
ここで面白いのは、デンドロビウムが単なる巨大モビルスーツではないことです。
ステイメンは、単独でも活動できるモビルスーツ。
オーキスは、そのステイメンに大火力と推進能力を与える外部ユニットです。
両者が合体することで、一つの巨大な戦闘システムになります。
言い換えれば、モビルスーツを中核にした、モジュール式の兵器です。
ガンダム試作1号機が、モビルスーツ単体の性能を追求した機体だとすれば、試作3号機はモビルスーツの能力を外部装備によって極端に拡張する方向へ進んだわけです。
この発想そのものは、決して非合理的ではありません。
現実の兵器でも、基本となる車両や航空機に任務ごとの装備を追加する設計は珍しくないからです。
問題は、その拡張の規模でした。
■なぜ、あれほど巨大な兵器が必要だったのか
デンドロビウムの開発思想は、モビルスーツの汎用性と、モビルアーマー級の攻撃力を組み合わせることでした。
モビルスーツには、手足を利用した柔軟な運動能力があります。
さまざまな武器を扱い、状況に応じた戦闘ができます。
一方、モビルアーマーは、特定の任務に特化した大出力の推進装置や重武装を搭載できます。
それなら、両方の長所を組み合わせればよい。
この考え方から生まれたのが、デンドロビウムだったのでしょう。
しかし、兵器の設計には、常に相反する要求があります。
火力を増やせば、重量が増える。
重量が増えれば、推進力が必要になる。
推進力を増やせば、燃料や推進剤も必要になる。
そして、それらを搭載するために機体がさらに大きくなる。
デンドロビウムは、この拡大をかなり大胆に許容した兵器です。
巨大なウェポンコンテナ。
大型スラスター。
長大なビーム兵器。
大型ビーム・サーベル。
必要なものを次々に積み込んでいった結果、通常のモビルスーツとは比較にならない規模になったと考えられます。
もちろん、単に思いつくまま装備を増やしたわけではないでしょう。
それだけの火力を必要とする任務が想定されていたはずです。
■デンドロビウムは、宇宙を飛ぶ弾薬庫だった
僕がデンドロビウムで最も特徴的だと思うのは、ウェポンコンテナです。
通常のモビルスーツは、武器を手に持ったり、機体へ固定したりして戦います。
しかし、持てる武器の数には限界があります。
ライフル。
バズーカ。
ビーム・サーベル。
予備弾薬。
それらをすべて持とうとすれば、機動性や操作性に影響します。
そこで、デンドロビウムは発想を変えました。
武器を巨大なコンテナに収納しておき、必要なときに取り出す。
これなら、複数種類の武装を一度の出撃で使用できます。
相手が多数のモビルスーツなら、ミサイル。
大型艦艇なら、メガ・ビーム砲。
接近してくる敵には、ビーム・サーベル。
状況に応じて武装を使い分けるわけです。
現実の軍事兵器で例えるなら、多数のミサイルを搭載した艦艇の発想に近いものがあります。
一隻の艦艇に、対空、対艦、対地など複数の任務を担当する兵器を搭載する。
デンドロビウムも、それに似た多用途の火力プラットフォームだったのではないでしょうか。
ただし、現実の艦艇と決定的に違う点があります。
デンドロビウムは、基本的に一人のパイロットが操作するのです。
■一人で巨大な兵器を操作するという無理
ここが、僕にとって最大の疑問です。
デンドロビウムには、多数の武装が搭載されています。
それぞれの武装を使用するには、敵を発見し、目標を選び、攻撃方法を決定しなければなりません。
さらに、機体そのものを操縦する必要があります。
高速で移動しながら、敵の攻撃を避け、複数の武装を使い分ける。
これを一人で行うのです。
現実の大型戦闘艦なら、役割は分担されています。
操艦を担当する人。
レーダーやセンサーを監視する人。
武器を操作する人。
戦闘全体を指揮する人。
ところが、デンドロビウムでは、それらの判断がパイロットに集中します。
もちろん、宇宙世紀のコンピューター技術によって、かなりの部分が自動化されているのでしょう。
実際、試作3号機には複雑な機体制御と火器管制に対応するため、新しいOSが搭載されたとされています。
しかし、自動化できることと、パイロットの負担がなくなることは別です。
多数の情報を一度に処理し、瞬時に判断する必要があります。
つまり、デンドロビウムは、機械的な性能だけでなく、パイロットの情報処理能力にも大きく依存する兵器だったと考えられます。
それほどの機体を実戦で操ったコウ・ウラキ。
改めて考えると、とんでもないことをしていたのではないでしょうか。
■巨大な推進装置は、本当に合理的だったのか
デンドロビウムには、6基の大型スラスターが搭載されています。
巨大な機体を高速で移動させるための装備です。
ここで、現実の宇宙空間について考えてみましょう。
宇宙では、地上のような空気抵抗がほとんどありません。
一度加速した物体は、外力を受けなければ、その運動を続けます。
つまり、巨大な物体でも、十分な時間をかければ加速させることができます。
しかし、戦闘では事情が違います。
敵の攻撃を回避する。
急速に方向を変える。
目標へ接近する。
こうした運動には、短時間で大きな加速度を生み出す推進力が必要です。
そのため、デンドロビウムには大型スラスターが必要だったのでしょう。
ただし、機体が大きくなれば、慣性も大きくなります。
さらに、姿勢を変えるためには、回転運動を制御する必要があります。
巨大なウェポンコンテナや長いビーム砲は、質量分布にも影響します。
ここで重要なのが、推進装置の配置です。
ただ後ろから押すだけでは、自在な姿勢制御はできません。
機体の重心。
推力の作用線。
姿勢制御用スラスター。
それらを適切に設計する必要があります。
デンドロビウムは、巨大な機体を戦闘機動させるために、相当に高度な制御技術を必要としたはずです。
そして、その制御を一人のパイロットが行っている。
やはり、無茶な兵器です(笑)。
■最大の弱点は、敵ではなく整備だった?
さて、ここからがデンドロビウムの本当の問題です。
実は、この機体には非常に大きな運用上の欠点があります。
巨大すぎて、通常の母艦に収容できないのです。
普通のモビルスーツなら、戦闘が終われば母艦へ戻ります。
格納庫へ収容し、整備を受け、弾薬を補給する。
ところが、デンドロビウムは、その巨大さゆえに母艦の格納庫へ入れません。
そのため、整備や補給は宇宙空間での船外作業が必要になります。
これは、かなり深刻な問題です。
宇宙空間での整備は、地上の工場での整備とは違います。
作業員は宇宙服を着用しなければなりません。
身体や工具を固定する必要もあります。
巨大な部品を交換するには、専用の作業装置も必要でしょう。
さらに、武装の補給です。
あれほど大量のミサイルや砲弾を搭載しているのです。
使用後には、当然、補充しなければなりません。
つまり、デンドロビウムは戦闘能力こそ高いものの、その能力を維持するために非常に大きな補給・整備体制が必要だったのです。
設定資料には、通常のモビルスーツの100倍ともいわれる運用コストが記されています。
もちろん、具体的な費用の内訳まで示された数字ではありません。
しかし、設計思想を考えると、そのような極端なコスト評価が生まれた理由は理解できます。
一機の兵器としては、あまりにも大きすぎたのです。
■デンドロビウム一機と、モビルスーツ部隊。どちらが合理的か
ここで、少し意地悪な比較をしてみましょう。
デンドロビウム一機。
それとも、通常のモビルスーツを複数機。
どちらの方が、戦力として合理的なのでしょうか。
デンドロビウムの長所は、火力の集中です。
一機に多数の武装を搭載し、短時間で大きな攻撃力を発揮できます。
しかし、弱点もあります。
一機が故障すれば、戦力全体を失う可能性があります。
補給にも時間がかかります。
そして、戦場で同時に対応できる方向や目標には限界があります。
一方、複数のモビルスーツならどうでしょうか。
各機が別々の方向から攻撃できます。
一機が損傷しても、ほかの機体が戦闘を続けられます。
偵察、護衛、攻撃など、役割分担も可能です。
もちろん、複数機を運用するには、それぞれのパイロットや整備員が必要になります。
単純に、どちらが安いとは言えません。
しかし、戦力を分散できることには大きな意味があります。
現実の軍事でも、一つの巨大兵器へすべての能力を集中させることには慎重になる傾向があります。
どれほど強力な兵器でも、故障や被弾によって失われれば、それまでだからです。
デンドロビウムは、圧倒的な火力を追求した結果、戦力の集中という大きなリスクも抱え込んでいたのでしょう。
■それでも、デンドロビウムが必要だった理由
ここまで欠点ばかり挙げてしまいました。
しかし、僕はデンドロビウムが単なる失敗作だったとは思いません。
重要なのは、どのような任務を想定していたかです。
例えば、敵の大規模な部隊が接近してきたとします。
こちらには、十分な数のモビルスーツがいません。
しかし、短時間で敵の進撃を阻止しなければならない。
そんな状況では、一機で多数の敵に対応できる兵器が必要になるかもしれません。
デンドロビウムは、そうした局地的な戦力不足を、一機の大火力によって補うという思想を持っていたのではないでしょうか。
そして、拠点防衛や敵部隊への突入など、特定の任務では非常に大きな効果を発揮したと考えられます。
つまり、デンドロビウムは、あらゆる戦場で使う万能兵器ではありません。
特定の状況で圧倒的な戦力を発揮するための、極端に専門化された兵器だったのでしょう。
問題は、その能力を得るために支払う代償が大きすぎたことです。
■なぜ、デンドロビウムの思想は主流にならなかったのか
宇宙世紀の歴史を見ても、デンドロビウムのような巨大な武装プラットフォームをモビルスーツへ組み合わせる方式は、標準的な兵器にはなりませんでした。
なぜでしょうか。
一つは、先ほど説明した運用コストです。
巨大な機体。
膨大な武装。
専用の整備設備。
これらを維持するのは、簡単ではありません。
そして、もう一つ。
兵器の進歩によって、通常のモビルスーツでも高い戦闘能力を発揮できるようになったことです。
ビーム兵器。
高性能センサー。
機動性の向上。
さらに、後の時代には可変モビルスーツやファンネルなど、新しい技術も登場します。
もちろん、デンドロビウムの設計が後世の兵器へどの程度直接影響したかについては、慎重に考える必要があります。
しかし、巨大な外部装備で火力を増強するという発想自体は、その後もさまざまな形で登場しています。
デンドロビウムは、その極端な実例だったのかもしれません。
■ガンプラとしても、規格外だったデンドロビウム
最後に、少しガンプラの話をしましょう。
デンドロビウムといえば、2002年に発売されたHGUC 1/144 ガンダムGP03 デンドロビウム。
これがまた、とんでもないキットです。
巨大なオーキス。
展開するウェポンコンテナ。
大型ビーム・サーベル。
そして、内部へドッキングできるステイメン。
通常の1/144スケールのガンプラとは、まったく違う存在感があります。
メーカー公式の商品情報では、税込30,800円という価格が掲載されています。
2002年発売のキットとして考えても、相当に大きな商品です。
もちろん、現在の販売状況や実売価格は別途確認が必要です。
それでも、デンドロビウムという機体の巨大さを実感するには、これ以上ない題材でしょう。
ただし、組み立てる以前に問題があります。
完成したら、どこに置くのか。
……。
これが最大の難関かもしれません(笑)。
■しめ
今回は、ガンダム試作3号機デンドロビウムについて考えてみました。
ランの花から付けられた名前。
中心となるステイメン。
巨大な武装プラットフォームであるオーキス。
そして、モビルスーツの汎用性とモビルアーマー級の火力を組み合わせるという設計思想。
こうして整理すると、デンドロビウムは決して思いつきで作られた兵器ではないことが分かります。
しかし、その能力を実現するためには、巨大な機体と膨大な補給・整備体制が必要でした。
しかも、複雑な機体を一人のパイロットが操作しなければなりません。
戦闘能力だけを見れば、極めて強力です。
しかし、軍隊全体の運用という視点で考えると、合理的とは言い切れない部分もあります。
それでも、僕はこの機体が好きです。
なぜなら、デンドロビウムには、技術者の夢が詰まっているように感じるからです。
もっと火力を。
もっと推進力を。
もっと多くの武装を。
その要求を突き詰めていった結果、生まれた巨大な兵器。
実用性とロマンの境界線に立つ機体。
それが、デンドロビウムなのではないでしょうか。
……。
ちなみに、もし僕がアナハイムの開発担当者だったら。
企画会議で、この設計図を見せられた瞬間、こう聞くと思います。
「これ、どこの格納庫に入れるんですか?」
そして、開発責任者から返ってくる答えは、おそらく。
「入りません」
……。
いや、そこは最初に考えておきましょうよ(笑)。
今日はここまで。それでは、また別のお話で。