神様はバスじゃなく、人を寄こすのかもしれない
――三峯神社・奇跡のミニバス編
バスは来ない。
タクシーも呼べない。
電波は弱く、寒さだけが確実に体力を削っていく。
近くのコンビニか、
さっきまでいた温泉施設に戻って、
タクシーを呼んでもらえないか――
そんな現実的な案が頭をよぎり始めた、その時だった。
山の奥から、一台のミニバスが現れた。
大滝温泉の入口に入っていくのを見送り、
「まぁ関係ないか」と思った次の瞬間。
そのミニバスが、急にUターン。
そして、
我々の目の前で停車した。
助手席側の窓が開き、
そこから顔を出したのは、
どこか陽気で人懐っこい、
70歳は軽く超えていそうなおじさんだった。
「兄ちゃんたち、どこから来たの?」
「どこに行きたいの?」
突然の出来事に一瞬戸惑いながら、答える。
「三峯神社から帰る途中で…
西武秩父に行きたいんです」
するとおじさんは、迷いなく言った。
「そりゃ大変だ。
西武秩父まで戻るより、
近くの駅から電車に乗った方が早いよ。
ほら、乗りな」
後部座席のドアが、
ガラッと大きく開く。
正直、少しだけ躊躇した。
でも、ここまで来たらもう賭けだ。
「まぁ、大人だし。
仮にぼったくられても、なんとかなるだろ」
そんな雑な判断基準で、乗り込む。
走り出してすぐ、
バスが来なかった理由がはっきりした。
トンネル工事による片側交互通行。
三連休の中日、初詣客の帰宅ラッシュ。
山道は完全に大渋滞。
――そりゃ、バスも来ないわ。
むしろ、
バスに乗れていたら身動きが取れなかった可能性すらある。
目的の駅までは約16km。
所要時間は20分ほど。
……のはずだった。
だが、この20分が、体感5分。
なぜならこのおじさん、
マシンガントークが止まらない。
「あっちが長野で、こっちは群馬でね」
そこから始まり、
武田信玄の話、
なぜか三島由紀夫の話、
さらには我々の地元トークまで。
話題は縦横無尽。
気づけば、もう駅が見えていた。
しかも――
電車の発車時刻、ギリギリ。
料金を聞いて、さらに驚く。
一人、210円。
安い。
安すぎる。
疑ってごめんなさい。
汚れちまった大人の心を、
静かに反省しながら電車に乗り込んだ。
三駅ほど揺られ、御花畑駅で下車。
ここで終わりではない。
向かったのは、
秩父神社。
日が落ち、ライトアップされた境内は、
昼の三峯神社とはまったく違う顔を見せていた。
一日に二つの神社を参拝する。
人生で初めての経験だ。
次のLaviewまで少し時間があったので、
秩父神社近くの商店街をぶらり。
和菓子屋「中村屋」さんでお土産を買い、
神社から西武秩父駅まで歩く。
やがてLaviewに乗り込み、
都内へ向けて走り出す車内。
楽しかった時間が遠ざかり、
急に現実感が戻ってくる。
少しの寂しさと、
不思議な満足感を胸に。
今日は、ここまで。
次回、最終話。
この初詣の旅で、
本当に“ご利益”はあったのか。
――第四話へ、つづく。
