・これから急激な人口減少を経験する日本。日本の人口は2008年の1億2800万人をピークに減少し始め、2008年から約50年後の2060年には人口が4000万人ほど減少し、8674万人になると推測されている。高齢化者人口に関しては、2042年の3878万人をピークに迎えた後、減少に転じると推測されている。
・高齢化は、地域によってピークが異なるため、高齢化に伴って医療が必要になる量のピークも各地で大きく異なる。
・日本は平均寿命が長い国ではあるが、平均寿命と健康寿命に約10年の差があることが課題とされている。
・第四次産業革命(ネットワークで情報を繋ぎ、人工知能を活用して生産や流通などを自動的に最適化させる試み)によって大きくふたつの変化があると考えられている。一つは、オーダーメード化が進むことです。もう一つは、新たな付加価値が提供されるようになることです。
・医療4.0は、医療との接点が医療機関以外に広がる「多角化」、個人個人に応じたオーナーメード化が進む「個別化」、そして医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」が特徴です。
・ウェアラブルデバイスでの健康管理。筆者も含め普段腕時計などを使わない人にとって、デバイスを24時間腕に巻いておくのは高いハードルになる。そのため、腕ではなく耳などの他の部位につけるデバイスや、すでに身につけている肌着や靴、メガネなどにセンサーを付加する開発が行われている。
・IOTデバイスの継続使用に関するインセンティブの一例として、東京海上日動安心生命保険の「あるく保険」では、生命保険の加入者にリストバンド型デバイスが貸与され、歩く歩数の達成状況によって保険料の一部が還付されるという仕組みがある。
・ゲーミフィケーションが健康を導く。2016年に社会現象にもなった「ポケモンGO」というスマートフォンゲームのように、人を楽しませ、熱中させるゲーム要素や考え方をゲーム以外の分野に応用する取り組みをゲーミフィケーションという。
・お茶の水内科のかかりつけ患者さん対象のアプリである「おちゃないGO」のポイントによる商品交換の中で1番人気なのは「ゴールド診察券」である。費用等の優遇があるわけではないので、人間の承認欲求を満たすためのものが1番人気であるところが興味深い。
・「うんコレ」は、今までは「ガンについて知る→予防につながる動きをする」だったのが、「(知識はなくても)予防につながる動きをする→がんが予防された」という順序になる点がとても興味深いところである。
・AI開発を進めるべき重点録領域は、実用化が比較的早いと考えられる領域として、①ゲノム医療、②画像診断支援、③診断・治療支援、④医薬品開発の4分野が、実用化に向けて段階的に取り組むべき領域として、⑤介護・認知症、⑥手術支援の2分野が挙げられている。
・これから起こるかもしれないと予測された疾患に発症前に対処するというのは、医療の一つの新しい形で、「予測医療」と呼ばれたりする。今後研究が進みわかったことが増えれば、予測医療が進展する可能性がある。
・ゲノムの異常をほぼピンポイントで修復したり、不要な遺伝子を破壊したりするゲノム編集技術も可能になるとされている。例えば現在、ゲノム編集ツールとしては「クリスパー・キャス9」が主流となっている。ゲノム編集技術は、現在最も新技術の開発競争が激化している分野の一つである。
・放射線や病理、内視鏡や眼底写真などの質の高い画像データを学会などが主導して集めて画像データベースを作り、その画像データベースにディープラーニングを活用することで疾患の候補を上げるソフトウェアを作って、画像診断の支援に取り組んでいる。
・診断、治療支援領域では、以前よりも患者の検査項目が増えたことで、医療者が判断しなければならない医療情報が増大したこと、そして医師の分布の地域偏在や、診療科の偏在、希少疾患を診断できる医師の偏在などの課題を解決するために、問診や一般検査を用いたAIの開発が進められている。
・近い将来、単なるカルテの電子版だった電子カルテが、AI問診を活用することでカルテ記載の業務時間を短縮できる可能性がある。
・医薬品開発でも、AIによって新薬開発における時間の短縮やコストの低減が期待されている。
・介護、認知症の領域では、高齢者の自立支援の促進や介護者の業務負担の軽減などにおいてAIを活用することが求められている。
・AIによる手術支援では、麻酔科医のための麻酔支援AIプログラムや、自動手術支援ロボットが想定されている。
・オンライン診療は、通院が困難な寝たきりの人や、自覚症状が乏しく、つい治療を中断してしまう糖尿病や高血圧などの生活習慣病患者に対しとても有用である。また、医療機関を受診すると、長時間待たされる割に診療時間は短いため、治療を継続するモチベーションが低下してしまう患者にも有効であり、医療の質の地域格差を解消できる可能性もある。
・医療現場にオンライン診療が普及する際には、いくつかの課題がある。
一つ目は、一般的に、高齢の人ほどスマートフォンやパソコンとの親和性が低く、なかなか使いたがらないため、高齢の医師が院長として1人で診察しているクリニックなどでは、スマホやパソコンが主体となるオンライン診療のシステムは導入が難しくなる場面が多くなる可能性が高い。
二つ目は、医療現場は慢性的に忙しいということ。医療現場は変化の余白を取れないくらい慢性的に忙しいということであり、医療機関の働き方に対しての対応も求められている。
三つ目は、コストパフォーマンスの観点である。現在の保険診療の制度では、今まで通り医師と直接あって対面診療したときに比べ、オンライン診療を行った時は診療報酬が低くなる。また、保険診療でオンライン診療できる疾患が決められている。
・厚生労働省や経済産業省が優先的に開発、普及を進めたい介護支援ロボットの分野は、①移乗介助、②移動支援、③排泄支援、④認知症の方の見守り、⑤入浴支援、⑥介護業務支援に分類される。
・移乗介助とは、介護者をベッドなどから移動させるときの介助のこと。介助支援ロボットは、装着型と非装着型に分けられる。
・排泄支援は、超音波で膀胱の尿の溜まり具合を計測して排尿を予測し、的確なタイミングでトイレに誘導するロボットがある。
・思っていることや感じていることだけでなく、思っていないこと、感じていないことまで表現することから、脳×テクノロジーのブレインテックと呼ばれる領域の研究が進んできている。
・自分自身の病気な情報や診療の情報、アレルギー、使用できない薬剤の情報、これまでの検査結果などをクラウドや個人のスマートフォンなどにまとめ、一元管理しようと生まれた考えがPHRです。一元管理が可能になると、新たな医療機関を受診したときも、クラウドに保管された医療情報を医師に見せるだけで、必要な情報が伝わるようになる。また、災害時などに医療機関のカルテが参照できなくなった場合でも、インターネット環境があれば医療情報にアクセスできる。そして、集積された個人の医療情報を、個人が特定できないように匿名化しておけば、ビッグデータとして治療や薬剤の効果を検証する臨床研究などに活用できる可能性もある。ただし、既存の電子カルテは医療情報の統合を目的として開発されておはず、日本では電子カルテを導入するインセンティブがほとんどないないため、普及の後押しになっていない。国としてPHR導入に向けて取り組みを始めているが、まだまだ課題が多い領域である。
(未来を描く医師30人による展望)
・テクノロジーが医療資源の再配分を可能にし、医療の質の向上を実現すると考えている。まず、テクノロジーによって①医師の生産性向上、②医師経済評価の精度向上、③医療提供コスト削減の3つが可能になる。
・国民皆保険制度を続けるのは困難。医療費抑制効果のある医療サービスには保険が適用されるが、医療費抑制効果のない医療サービスには保険が適用されなくなる。医療抑制効果のない医療サービスでも保険適用となるためには、それ相応の健康改善効果が必要となると考えている。
・AI技術を用いた電子問診票を開発することで、AIがカルテ作成の膨大な手間を省き、患者満足度の向上と医師の業務時間削減を同時に満たすことができると考えている。
・人々の意識は治療から予防へ、そして「とりあえず病院に行く」から「まずはセルフメディケーションを」にシフトしていく。
・病院をスマート化することで、慢性的な医療者の不足をIoMTや AIを用いて補うことが可能になる。病院のスマート化で重要な三つのコンセプトは「つながる」「代替する」「創造する」である。「つながる」は、病院内の医療機器などにIoTが搭載され、IoMT化されれば、病院における流通プロセスやオペレーションの改善が可能になる。「代替する」は、 AIによる自動診断、ロボットによる手術などがある。
・2045年は、シンギュラリティー(技術的特異点)に達すると予測されている年です。シンギュラリティとは、人類が開発した技術が限界に達する地点で、それを超えた先には、AIが人間に変わって科学技術の進歩の主導権を握る未来がやってくると言われている。
・医療機関の多くは、非常に厳しい経営状況にある。私立の急性期病院の医業利益率は平均1%以下、自治体立の急性期病院は平均マイナス15.3%という状態である。
・2030年には、病院のブランディングが当たり前になってくると考えている。これからの病院経営は、「職員から、患者から、地域からいかに選ばれるか」を自ら考え実行する「病院のブランディング」が重要になる。①職員から選ばれる病院になるためには、お金ではなく、病院の強みと方向性を明確にして、病院が求める人材像を示すことが、中長期的には良い人材の採用と定着につながる。②地域から選ばれる病院になるためには、地域連携室が、自院の経営戦略に基づいた連携体制を作りながら、地域医療の各プレーヤーの変化をリアルタイムに把握して次の経営戦略に活かす必要がある。③患者から選ばれる病院になるためには、医療機関として「良い医療」を提供することは大前提ではあるが、それが認知、理解されなければ、患者は集まらない。そこで広報という視点が必要になる。
・家庭で血圧を測定することは、少し前の時代では想像できない技術であった。それと同様に聴診は病院で行うイメージが強いが、これを自動化し、自宅で測定するような技術の開発を行っている。
・プログラミングも一から書く時代では、高度な技術が必要であったが、プログラミングがコモディティ化された(あらかじめプログラムされたライブラリーを組み合わせることでプログラムできるようになった)ため、問題解決の実現可能性が非常に高くなった。この例から、そのほかの分野でコモディティ化されて使われている技術を医療技術にも応用できないか考えている。
・高齢化に伴い、ますます夜間の二次・三次救急医療期間が逼迫し、救急自動車の出動件数が増加の一途を辿ると考えている。医療費の自己負担額を引き上げることで、不必要な救急受診を止めようとしたが、あまり効果がなかった。
・2030年に向けて避けられない3つの流れがある。①2030年には65歳以上の高齢者の割合が30%を超える。②65歳以上の高齢者はこれまでの支えられる側ではなく、支える側に回ってほしいと国が考えている。③医療費削減のためお金のかかる入院治療を減らし、自宅で医療を提供する流れ。
・共感力や人間力、「触れ合い」や「つながり」というものは仮想現実等の技術の進歩では賄うことができず、むしろ価値が増していくと考えている。
・2030年には女性の晩婚化と高齢化に伴い、不妊に悩む人が増えていくと考えている。技術の進歩により新型出生前診断や着床前スクリーニングというものも出てきている(希望者が全員受けれるというわけではない)。
・スマートコンタクトレンズにできることが増えてきている。例えば、血糖値の測定や緑内障の診断、カメラユニットが埋め込まれたコンタクトレンズがある。
・現在、米国では、世界に先駆けてスマートフォンアプリをはじめとするソフトウェアを医療現場で活用する取り組みが進んでいる。
・2030年には自宅で不妊治療や妊活の一部ができるようになっていくと考えている。
・医療機関、特に日々の生活に近いところで健康を支えるかかりつけのクリニックは、治療拠点から教育拠点へ変化する。医師は病気を治す役割から、病気にさせないという役割がメインになると考えている。様々な技術革新によって、多くの医学的知識は人より機械の方が効率的に提供でき、診断に関しても、機械の方が正確にできるようになる未来が来ると考えている。しかしその先に、その知識や情報が人の心に届き、人の行動が変わるには、やはり「人」が必要だと考えている。医師は、単なる医学的な知識を持って経験を積んだ専門職ではなく、患者や地域の方々に信頼される「高い人間力」が求められる時代が来る。
・親が家庭の中の産業医になれると考えから、保育園を中心に講演するようにしている。