・本当の意味においての人間の基礎的能力としての論理的思考力を習得するためには、「思考」の力を強化することに尽きる。
・「考える」ということをきちんと理解し習得した上で、「論理的に」考えることができるようになれば、それが「論理的思考」であるというアプローチである。

(思考)
・思考とは、「思考対象に関する情報や知識を突き合わせて比べ、『同じ』か『違う』かの認識を行い、その認識の集積によって思考対象に対する理解や判断をもたらしてくれる意味合いを得る」ことなのである。
・分かる=判る=解るとは、思考対象者の情報要素とし声者の持つ知識とを突き合わせて比べ、すべての各要素について同じと違うに分け尽くすことができた状態にたどり着くことである。
・人間の思考も究極的には『同じ』か『違う』かの識別の集積であり、その意味では『1』か『0』という信号の識別の集積として機能しているCPUのメカニズムと全く同一のアナロジー的理解が成立するのである。
・本節において、「正しく分かる」ために必要な「正しく分ける」ための三つの要件について説明する。三つの要件とは、一つ目は「ディメンジョン」を整えること、二つ目は適切な「クライテリア」を設定すること、そして三つ目は「MECE」であることである。
・ディメンジョンとは、抽象水準あるいは思考対象・思考要素が属する次元のことを指す。適切に「分けて比べる」ためには、まず比べようとしている事象や要素が同一抽象水準上、同一次元上になければならない。
・クライテリアとは。思考対象を分類する場合の切り口、つまり分類基準を指す。
・MECEは、正しく分けるための方法論としての極めて有用なテクニックである。 
・我々が思考によって何かをわかるときは、すべてこの二つの思考成果、すなわち「事象の識別」と「事象間の関係性の把握」のどちらかか、あるいはこの二つの思考成果の組み合わせによってそれを分かることができているのである。

・事象の識別。正しい「識別」を行うということは、「そのものらしさ」を端的に表す『違い』を認識することなのである。
・我々がある事象の識別を行うことは、まず識別の対象となっている事象に関して得られている情報と、頭の中に持っている知識とを突き合わせて比べ、同じと違うの集積によって「それが何であるか」が分かる。次いで、それが何であるかという識別の結論に基づいて、そのものに関する知識を想起して「それがどのようなものであるか」という属性を認識するのである。
・ディメンジョン、クライテリア、MECEの三つの要件を満たしている「体系化された分類」は「識別」された事象をまさに構造的に理解させてくれる。

・事象間の関係性の把握。複数の事象が存在するとき、それらの事象間の関係性は「相関」か「独立」かのいずれかである。そして、「相関」は、またさらに2種類の相関関係に分類できる。原因と結果の関係になっている「因果関係」、もう一つは原因と結果の関係にはない「単純相関」である。

・われわれが思考によって得ることができる「それが何であるか、そしてそれはどのようなものであるか」を分かるという「事象の識別」と、事象と事象とが「どのような関係になっているのか」を分かるという「事象間の関係性の把握」という2つの要素的思考成果が大原則である。

・タテ、ヨコに複雑に繋がっている現実の事象群の中で、正しく因果を発見、補足するための「因果の条件」について説明する。2つの事象が影響を及ぼしたり及ぼされたりする相関関係であり、どちらか一方の事象が必ず他方を生起せしめているという、特定の方向性で影響が発生してきる場合が因果関係ということになる。そして、ある相関関係が因果関係であることを見極めるための条件は2つあり、「時間的序列」と「意味的連動性」である。
・時間的序列とは、相関関係にある二つの事象のうち、ある一方の事象が必ず先にある起こり、それを原因としてもう一方が後から結果として起きるということで得る。
・意味的連動性とは、経験的に納得して受け入れることが可能な関係性である。事象と事象の間に因果関係があるとすれば、その事象と事象の間には意味的連動性が存在するはずだという前提に立って、経験に基づいて意味的連動性がないと認定される事象については、原因特定の際の候補からあらかじめ排除することが出来る。
・因果関係を正しく補足する上で意味的連動性の確認は不可欠な条件であるが、その判断には十分な経験と知識が必要とされる。

・因果捕捉の3つの留意点。実際に因果関係を的確に捕捉する場合、明快に判断することが難しいことが少なくない。そこで、正しく因果関係を捕捉するための3つの留意点を紹介する。
第一に、直接的連動関係。スピードの出し過ぎが事故の原因(遠因)であるという解釈と、ブレーキを踏むのが遅れたことが事故の原因(原因)であるという解釈では、事故という結果を回避するための手段が大きく違ってくることになる。したがって、事象間の因果関係を補足し、その因果関係に働きかけて結果をコントロールするためには、直接的連動関係にある原因事象を明確に認識しておく必要がある。
第二に、第三ファクター。Xという原因があって生起する2つの結果AとBの間の関係は単純な相関関係に過ぎないが、第三ファクターXの存在が見えていないとAとBとの関係を因果関係だと誤って認識してしまうことがある。
第三に、因果の強さ。現実の事象が持つ複雑な因果関係を適切に補足するためには、原因が結果に対して及ぼす原因的影響力の強さ、すなわち「因果の強さ」について留意しなければならない。

・知識の属人性。思考とは、そもそも外から与えられた情報を、思考者が頭の中で自ら知識やそれまでの経験と照らし合わせて同じ部分と違う部分に仕分けし、整理して「それが何であるか」を分かり、「あれとこれの関係がどうなっているか」を理解する行為である。したがって、外から与えられた情報が同じであっても、それと突き合わせて比べる知識の要素が異なっていれば、思考者が認識する同じ部分と違う部分は当然大きく異なることになる。その結果、同じ部分と違う部分をまとめ上げて整理した全体像も異なったものになり、思考成果としての答えは思考者によって必然的に異なったものになるのである。これが思考成果の内容を左右する「知識の属人性」である。
・性格の属人性。全く同じ知識を持つ人であれば、同一の対象に関する思考成果は全く同じものになるのかというとそうではない。思考には、思考者の知識の差に起因する属人性の他に、もう一つの属人性を生む要素がある。思考者の「性格の差、価値観の差に起因する属人性」である。
・人がさまざまなことについて思考し、その結論を表明しあったとしても、人それぞれ知識や性格が異なっている限り意見が一致する可能性は全くないのであろうか。そうではない。多数の思考者が共有し合えるような客観的な結論を得るための考え方、さらにいうと、誰もが正しいと認めざるを得ない思考成果をもたらしてくれる方法論が存在する。その思考の方法論が「論理」であり、その論理の根拠として客観的に正しさを担保するのが正しい「情報」である。

(論理)
・「根拠」と「主張」によって「論理構造」が成立し、「論理構造」の中で「根拠」と「主張」を繋いでいるのが「論理」である。
・「論理構造」が成立するための条件は、二つある。一つ目の条件は、「命題」が少なくとも二つ必要であること、二つ目の条件は、その二つの「命題」の一方が「根拠」、そしてもう一方が「主張(結論)」という役割として繋がれ得るものであることである。「論理」とは「根拠」と「主張」を繋ぐものであるから、「根拠」や「主張」となるための命題が一つだけでは繋ぎようがないことは明白であるし、何かが「根拠」や「主張」になるためには、単なる単語であっては意味内容的に不十分だということも感覚的に理解していただけるであろう。
また、二つの命題の間に何らかの意味的関係性を見出すことができれば、その意味的関係性を加工・解釈して「論理」とし、一方の命題を「根拠」、他方を「主張」として繋ぐことができる。しかし、二つの命題の間に何らかの意味的関係性を見出せない場合、「乖離命題」といい、根拠と主張の役割を担わせることができないため論理構造は成立しないのである。
・論理的であるとは、話を聞く人、読む人が明快に理解することができ、納得感を持って受容できるような思考の道筋、すなわち論理によって根拠から主張が導かれている場合に、その話は「論理的である」ということになる。
・一般的に使われている「論理的であること」とは、「主張と根拠が論理によって結ばれている」という形式上の論理性に加えて、根拠から論理によって導出された「主張の現実的妥当性」が必要となる。
・「論理展開」とは、論理的な思考を行う場合に頭の中で情報を加工して「論理」を形成・構築することであり、主張/結論を導き出す思考行為を「推論」と呼ぶ。
・「推論」するとは、既呈命題を根拠にして論理構造を作ることである。
・推論によって得られる結論は、当たり前のことであってもほとんど価値がないし、誤った内容であれば当然無価値である。すなわち、「推論の価値」は、得られた結論が既呈命題に対してどれだけ新しい意味内容を持つか、すなわち「既呈命題との距離」と、その結論がどれくらい正しいか、すなわち「確からしさ」の二つのファクターによって決まるのである。さらにもう一点留意すべき点があり、それは納得性である。
・他者に理解してもらうために組み立てる論理構造の場合には、論理展開における命題間の「距離」が大きすぎると納得感が損なわれてしまい、推論の価値は低下してしまうことに留意する必要がある。既呈命題と結論の距離が遠い場合、既呈命題と次段階の命題の距離を短くし、何段階かに分けて論理構造を組み立てると、他者に理解しやすいものになる。
・客観的正しさを担保することに適った論理展開の方法論は、「演繹法」と「帰納法」の2つである。 
・演繹法とは、既呈命題(イワシは魚類である)を大前提(魚類は脊椎動物である)と照らし合わせて意味的包含関係を判断し、その意味的包含関係の中で成立する必然的命題を結論(イワシは脊椎動物である)として導き出す論理展開である。三段論法とも呼ばれる。
・帰納法とは、複数の観察事象(イワシはエラ呼吸する、アンコウはエラ呼吸する、キンギョはエラ呼吸する、サケはエラ呼吸する)の共通事項を抽出し、その共通事項を結論として一般命題化(全ての魚はエラ呼吸する)する論理展開である。
・演繹法において、要件を見ました命題構造が整っていれば、導出される結論は必然的に正しい、すなわち論理的に真と言えることになる。演繹法における大前提が適切なものであるための要件は2点ある。第1点が「意味内容的に既呈命題を包含していること」、第2点が「意味内容が普遍的妥当性を有していること」である。
・大前提が意味内容的に既呈命題を包含していることとは、既呈命題が大前提の真部分集合として完全に包含される必要がある。既呈命題と大前提とが全く交わりを持たない場合と、既呈命題と大前提とが部分的な交わりしか持っていない場合は、明確に断定できる結論につながらない。(例えば、「花子は20歳の女性である」が既呈命題、「太郎を好きになるのは皆、20歳の女性である」が大前提だとすると、花子は20歳の女性であるから太郎を好きになるかもしれないが、20歳の女性が全員太郎を好きになるというわけではないので、結論としては「花子は太郎を好きになるかもしれないし、ならないかもしれない」)
・大前提の意味的内容が普遍的妥当性を有していることとは、演繹法において真なる結論をもたらしてくれる命題構造を構成するために必要である。適切な普遍性の高い命題としては、数学的論理学的公理や自然科学法則、法律、制度は普遍性が高いが、社会科学的法則はやや普遍レベルは低くなり、道徳律や生活規範の類になると十分な普遍性を持つとは言い難い。
・帰納法において、結論の正しさを論じる観点を「真か偽か」とするのは妥当ではなく、どれくらい確からしいかという基準であるべきである。帰納法の結論の正しさは、第1点に観察事象のサンプリングの仕方と、第2点に共通項のくくり方によって決まる。
・観察事象の適切なサンプリングのポイントは、「何らかの共通事項が成立するような命題を揃えること」と「一般化に妥当な事象をサンプリングすること(サンプル数が過小にならないことと、偏ったサンプル構成にならないこと」である。
・共通事項のくくり方とは、観察事象から共通事項を抽出する作業と非共通事項の中の共通事項を抽出する作業の2つがある。
・正しい結論の「正しさ」の定義は2種類あり、「客観的正しさ」と「論理的正しさ」がある。客観的正しさは、万人が認め得る正しさであり、現実的事実に合致した正しさである。論理的正しさは、「形式的正しさ」と理解しても良いであろう。演繹法、帰納法の論理展開において、方法論的形式を満たしているという意味での正しさである。 
・「ファクト」と「ロジック」が両方揃っていてこそ、われわれは論理的思考によって客観的に正しい結論を得ることができるのである。論理的思考によって客観的に正しい結論を得るための第一の要件は、まず論理展開以前の課題として、その思考プロセス全体の客観的正しさを根底から支えるためには、思考材料である命題がすべてファクトでなければならない。第二の要件は、演繹法や帰納法と言った論理形式に適合した命題の組み立てがなされていること。第三の要件は、ロジック自体が妥当であること。

(分析)
・分析の本質とは、分けて分かるための実践作業である。実際の分析作業において、「要素に分ける」という分析の本質的作業の前に、まず何を分けるために分析するのかという「分析目的」が存在し、またその次に、要素に分ける対象となる分析対象に関する「情報」が収集されなければならない。さらに、分析によって「要素に分け尽くす」だけでは分析目的が達成されたことにはならず、「分けて分かった」ことの中から分析目的を満たす「意味合い」を得ることができて初めて、分析の成果が得られたことになるのだ。
・「要素に分け尽くす」とは、分析対象を構造化して理解することであり、それは、構成要素を一つ一つ識別することと、それらの要素間の位相を認識することである。
・「分析目的」とは、実践的分析においてどのような情報を収集するか、どのような分析手法をとるか、そして何を発見し、何を分析成果とするのかという具体的事項を決めるものである。
・「情報収集」とは、実践的分析において不可欠なものであり、実際の分析の具体的作業は情報収集からスタートする。情報収集は、「ファクト」の部分を形成するという極めて重要な役割も担っている。
・「意味合いがアウトプット」であるというのは、「分析目的」に対して有効な意味内容を持った結論を得ることである。
・実際の分析作業は基本的に、分析プロセスの設計、情報収集、情報分析(分析対象の構造化)、意味合いの抽出という四つのステップで行われる。
・分析プロセスの設計を行うにあたって、考慮しなければならない事項は三つある。分析作業に課せられた「制約条件」が第一の事項。そして、具体的作業として何を行うのかについての「作業計画」が第二の事項。そして、分析作業を通してどのような分析成果が得られるのかという「アウトプットイメージ」が第三の事項である。
・「制約条件」は、内在的なものと外在的なものに分けられる。内在的な制約条件とは、担当者の手の内にある程度大きな自由度が認められる「時間」「手間」「費用」の3つの項目である。外在的な制約条件とは、担当者が自由に裁量できる余地が少ない分析の「目的」と「期限」の2つの項目である。
・「作業計画」は、①収集すべき情報と収集方法、②情報の分析、処理の方法、②描く作業に対する担当者と所要時間および投入費用、を作業計画として決定する。
・「アウトプットイメージ」は、課せられた制約条件と計画した作業によって、どのような分析成果まで辿り着けるのかという具体的イメージである。アウトプットイメージを持たないまま作業計画を立ててしまうと、どうしてもコストや具体的作業の詰めが甘いものになってしまう。
・分析プロセスの設計を行うに際して、現実の分析作業でよく見受けられるよう改善点として、「情報収集と情報分析との間のウエイト付け」である。情報収集と情報分析の按分は50:50が妥当であるが、多くの場合は情報収集で8割を占めており、残りの2割は情報分析ではなく書く作業に充てられることが多い。
・「情報」とは、「不確実性を減ずるもの」である。「ノイズ」とは、当為者にとって不確実を減することに寄与しないものである。情報収集を手掛ける場合には「情報」を集めることと同等以上に、「ノイズ」を集めないことに注意しなければならない。また、情報の効用逓減性もあるため、無闇に情報収集しすぎない方が良い。
・最も理想的な情報収集とは、ノイズを削除し、分析目的に対して寄与度の高い情報だけを必要最小限集めることである。
・実践的分析作業において、情報分析のステップは明らかに最も重要なコアプロセスである。集めた情報やデータから、例えば因果関係の存在や自称固有の際立った属性といった優位な意味合いを的確に抽出するための手立てが必要となる。その手立てとして最も有用なのがデータの「グラフ化」である。
・データのグラフ化は、データの束が何を意味しているかを容易に理解できるようにしてくれるだけでなく、論理展開の端緒となるようなメッセージの鍵を与えてくれるという大きな効果もあるのである。
・データが持つ意味合いを読み取るためには、グラフにおける「規則性」と「変化」を発見することが鍵になるのである。「規則性」には、特定変数の時間変化の中に見られる規則性と2つの変数の関係の中に見られる規則性の2種類がある。「変化」とは、「規則性を破るもの」である。そして、「規則性」がグラフ全体で示されるものであったのに対して、「変化」は一点によって示されるというのも大きな特徴である。「変化」には、「突出値」と「変曲点」という2つのタイプが存在する。突出値とは、大まかに見て全体として明らかな傾向が見て取れるグラフの中で、一点だけその傾向を逸脱しているポイントが「突出値」である。変曲点は、傾向や壮観のターニングポイントを示す点である。突出値や変曲点というグラフ上の「変化」が意味しているのは、「そこで何かが起きた」ということである。
・「結論の合目的的性(分析目的を満たした結論が得られること)」が合理的分析であるための欠かすことのできない第一の要件である。「分析プロセスの効率性「なるべく効率的に分析が行えること)」が合理的分析の第二の要件である。
・イシューとは、結論を左右する重要な課題事項のこと。イシューアナリシスとは、分析プロセスの早期段階においてイシューを設定し、そのイシューに対して集中的な分析作業を施して、合目的的な結論を効率的に得ようとする分析手法である。
・イシューアナリシスの全体の流れは、①イシューの設定、②イシューツリーの作成、③仮説の検証である。イシューの設定は、フレームワークを活用し抜け漏れなく分析範囲の設定を行い、その範囲の中でイシュー候補をチェックした上で、合目的的性のマグニチュードというモノサシでどのイシューが最も重要であるかを判断する。イシューツリーの作成は、イシューの抽象度が高い場合にイシューをいくつかのサブイシューに分解し、イシューの構造化を行うことである。仮説の検証は、設定したイシューに対してYES/NOの結論を出すことである。
・本書では、思考や分析において正しい結論を得るために必要な条件は、「ファクト」と「ロジック」であると示してきた。実は、実際の思考や分析において、施工者が正しい結論を得るためにはもう一つ極めて重要な要件が存在する。それは「執着心」である。