・ブリッツスケーリングは、容赦ない断固たる攻勢により、ライバルを突き放して市場を奪うハイリスク、ハイリターンの戦略である。
・会社がブリッツスケーリングしている時は、リーダーはたとえ確信度の度合いが100%に遥か届かない場合でも、とにかく決断を下し、断固としてその決断を守り抜くべきである。ライバルに先駆けて動くためなら、間違った決断をして、その結果、大損害を被るリスクを受け入れねばならない。性急な決断が失敗となり、大きなコストが生じるリスクがあっても、決断が遅れることによるリスクの方がはるかに大きい。とはいえ、ブリッツスケーリングは「素早く大きくなってマーケットを取る」ためにむやみやたらに突っ走ることではない。
・伝統的なスタートアップの成長戦略では、将来の見通しが効かない状況でも効率性を重視する。
・伝統的なスケールアップ式成長戦略では、焦点は環境を確実に把握した上で効率性を追求することにあてられる。
・ファストスケーリングは、予想可能な安定した市場を前提にして、高い成長率を実現するために資本効率をある程度犠牲にするアプローチである。
・ブリッツスケーリングは全く異なるアプローチである。スピードを最優先し、効率を犠牲にする。しかもその犠牲が有効なものであったかどうか、結果を確認する暇も惜しむ。
・ブリッツスケーリングの3つの基本
①ブリッツスケーリングには攻めの要素と同時に守りの要素がある。
②ブリッツスケーリングは前向きのフィードバックサイクルから生まれる。つまり、先に規模の拡大を達成した会社が、先に競争上の優位を得るという点である。先に優位を得た会社はさらに規模を拡大できる。そのエコシステムでのリーダーだと認識されれば、人材と資金の双方が洪水のように集中する。ただし、会社の所在地がブリッツスケーリングの障害となる可能性がある。
③ブリッツスケーリングは巨大な利点がある一方、リスクも極めて大きい。

・ブリッツスケーリングの3つの重要なテクニック
①急速な成長を遂げる革新的なビジネスモデルを発見し、設計する。前例のない新しいテクノロジーを導入するのではなく、既存のテクノロジーを組み合わせて新しいビジネスモデルを開発する必要がある。
②戦略のイノベーション。ブリッツスケーリングは成長速度に重点を置くと言った単なる戦略以上のものである。従来のビジネス思考では不確実な環境では効率を重視するが、ブリッツスケーリングでは効率よりも速度を優先する。また、ブリッツスケーリングは、伝統的なビジネス戦略からは無駄と思えるような資金を投じる必要がある。事業の初期で多額の投資をして、保守的なライバルを出し抜き、素早く決定的な規模に到達する。
③経営のイノベーション。急激な成長は、組織にもメンバーにも極度の負担をかける。そこそこの人材で我慢しなければならず、アラが目立つプロダクトをリリースしなければならなくなることもある。

・成長を最大化する4つの成長要因。
①市場規模。スタートアップを巨大企業に成長させたいという野心があるなら、まずは基本をしっかり見極め、小さすぎる市場に拘らないようにしなければならない。
②ディストリビューション。ユーザーに届けるまでの流通チャネルや販売網である。優れたプロダクトを開発することは重要だが、ユーザーを獲得するのも重要であり、次に優れたビジネスモデルを構築することも同じくらい重要である。これは鎖であり、鎖の輪の一つが切れたら鎖全体が用をなさない。
流通チャネルとしては、既存のネットワークを活用する場合とバイヤル性を取り入れる場合がある。
③粗利益率の高さ。消費者はプロダクトの価値とプロダクトによって得られる利益だけを考えて購入を決定する。そのため、できる限り利益率の高いビジネスモデルを設計するべきである。
④ネットワーク効果。サービスのユーザー数または利用料の増加がネットワークの効果を増大させるなら、そのサービスにはプラスのネットワーク効果が働いている。

・成長の最大化を阻む2つの要因。
①プロダクトとマーケットの不適合。プロダクト・マーケットフィットについて自ら問うべき質問は、果たして自分たちはこれまで誰も気づかなかった大市場を発見したか?またそこにアクセスできるほどプロダクトに独創的なメリットあるいはアプローチがあるか?独創的であり誰も気づかなかったほとんどのチャンスは、既存の支配的プレイヤーがマーケットの変化に適応したがらないから生まれる。これが破壊的なイノベーションにつながった例がいくつもある。
②事業スケーリング。多くの起業家は、爆発的に急成長できるビジネスモデルを考え出すことに注視しがちであり、オペレーションの拡張性という課題を無視しがちである。オペレーションの拡張の課題は、必要な人間が少なくて済むビジネスモデルを考える、又は外注する方法を見つけることで解決できる。外注する方法では、まず自分で手作業でやり、どうにもならなくなったら自動化するという流れが理想的である。

・ビジネスモデル・イノベーションを成立させる法則。
①ムーアの法則。ICチップ上のトランジスター数は18か月ごとに2倍になる。テクノロジーのイノベーションは、ビジネスモデルのイノベーションを引き起こす。そして、優秀な起業家は、ムーアの法則を追いかけるのではなく最初から予期している。
②自動化する。
③最適化ではなく適応に重点を置く。
④反逆的思考を持つ。ビジネスモデルのイノベーションを起こすには、当然ながら何か新しいことを試さなければならない。

・ブリッツスケーリングの指針となる8つのキーポイント。
①小さなチームから大きなチームへ。
ブリッツスケーリングの初期段階で、少人数の幹部の仕事と、会社が成長し、社員の人数が増えた後の幹部の仕事は全く異なる。初期の社員たちにはキャリアを積ませて新しい役割を与えたい。しかし、大切な社員を失うが、向かない仕事でもがき苦しませるかを選ばなくてはならない時がある。そのときは、真摯に話し合って友好的に別れる方が、その社員にとっても、最終的には会社にとっても、失敗に終わるよりもいいだろう。
②ゼネラリストからスペシャリストへ。
ブリッツスケーリングの初期段階では、スピードと適応力が必要なので、頭の回転が速く、不確実で変化の速い環境で様々な仕事を片付けられるゼネラリストが大いに重視される。しかし会社が成長するにつれ、代わりの効かない、スケーリングに不可欠なスペシャリストを採用する方向にシフトする必要がある。
③担当者からマネージャー、そして幹部へ。
幹部もマネージャーもブリッツスケーリングの成功には必要だが、ステージが違えば役割も変わる。ファミリーステージの会社では、幹部の役割を創業者が担うのが一般的である。ブリッツスケーリングで会社が成長し、社員が多くなって初めて組織に幹部が必要になる。その場合、お手本となる幹部が存在しないため、内部昇進のマネージャーは以前の幹部の意見を活かせない。そこで、外部から幹部を雇用する必要が出てくる。外部から幹部を雇用する場合、うまくなじませるための3ステップのプロセスが重要である。1段階目は、チームメンバーの少なくとも一人が知っている人物を採用する。2段階目は、新しい幹部にはまず低い役職を与え、自分自身で能力を示させる。3段階目は、幹部がチームの信頼と信用を得たら、昇進を考える。
ブリッツスケーリングを目指す組織に秩序が必要なのは、スピードを最大にするためである。指導者集団の学習速度は、将来を予測する能力に影響する。一方、最前線チームの内部構造の強さは、重要な場面で迅速に動くことや競争優位性を獲得する能力に影響する。
④対話型から放送型へ。
ブリッツスケーリングの過程で大きく変わるのが、社会コミュニケーションの方法である。会社が成長するにつれて、非公式の個人的な対話から、公式、電子的、プッシュ型、プル型と言った特徴を持つコミュニケーションに変えなくてはならない。また、全情報を共有していた習慣を変えて、秘密の情報と共有して良い情報とを分けるようにする必要がある。効果的な社内コミュニケーション戦略をとらないと、組織のつながりが絶たれて崩壊してしまう。
⑤データに対するインスピレーション。
どの会社にとってもデータは意思決定の活力源だが、特に重要になるのは、製品のデザインや顧客獲得マーケティングが流通戦略のカギとなる場合である。
アドリブは若いベンチャー企業には不可欠である。発見はそうやって生まれる。しかし、会社が成長するにつれて、自分たちを導く計画と目標のフレームワークが必要になる。会社が猛烈なスピードで成長している時は、そもそも未知の問題を数多く処理しなくてはならないから、できる限り確実性を追求するのは当然である。インスピレーションからデータ重視にうまく変えるには、基本に立ち返るのが良い。ユーザー数、離脱数、滞在時間などの基本データを追跡することである。
データ分析は、重要な判断をする上で重要な指標になるが、数字はビジネスの真の健康状態を表しているわけでも、これから直面する真の大きな脅威を見つけてくれるわけでもない。例えば、もしLinkedinが毎週ユーザー全員に対して、プロフィールを忘れずに更新するよう年を押すメールを送ったら、短期的にはプロフィールの更新は増えるだろう。しかし、それはユーザーを苛立たせてユーザー体験を悪化させるという悲惨な戦略でもある。
⑥シングルフォーカスからマルチスレッドへ。
成功するスタートアップは必ず、最初はプロダクトが一つだけである。その集中力こそが、会社の初期段階に自分より大きいライバルを倒すカギとなる。
マルチスレッドへの転換は、ブリッツスケーリングの都市ステージで実施するのが普通である。
⑦海賊から海軍へ。
この変化のポイントは、攻めの一本槍から、攻めと守りの両方を同時にこなせるようになること、例えていうなら、海賊から海軍への転換である。そのためには戦略の進化と企業カルチャーの革新が必要になる。
スタートアップとその創業者は道徳的な海賊のように振舞って利益を得ていいが、反社会的な犯罪者のように振る舞うことは許されない。自分が道徳的な海賊か反社会的な海賊化を見極める方法の1つは「私はみんなのためにルールを変えようとしているのか、自分だけが逃れようとしているのか?」と自問することである。
ブリッツスケーリングのアーリーステージでは、失うものがあまりないのでリスクを取りやすいが、あなたの会社が村ステージに達したら、海賊ではなく海軍のように考え始める時である。つまり、ルールを守り、時には守勢にまわることである。
⑧自分自身をスケーリングする。創業者からリーダーへ。
会社がブリッツスケーリングを進めるに連れて、自分の役割を変える謙虚さと判断力を維持しておく必要がある。
自分自身をスケーリングする方法は3つしかない。
1つ目は、権限移譲である。優れた人材を見つけ、採用し、動かし、やがて彼らに仕事を引き渡し、自分だけが取り組むべき問題に挑戦する体制にする。スタートアップは、創業者の個人的な能力と懸命な努力によって離陸する。しかし、巨大企業へとブリッツスケーリングを実行したのは、創業者が権限移譲の方法を学んだからである。
2つ目は、拡大である。拡大とは、自分の仕事を減らして他のことをできるようにするのではなく、仕事の影響力をずっと大きくすることである。信頼できる社員、フリーランサー、あるいは外部のコンサルタントチームが、自分の仕事を最大化してくれる。
3つ目は、自分磨く。ブリッツスケーリングを進めていくと、会社は非常に早く成長し、変化する。あなた自身が会社の足を引っ張るボトルネックにならないように、できるだけ早く自分を磨く方法を見つけることが重要である。

・直感に反する9つの法則
①カオスを受け入れる。
ブリッツスケーリングでは、スピードのために効率をあからさまに犠牲にする。秩序と規則を重視する伝統が、ハーバードのMBAや教授が皆ゾッとするようなカオスを進んで受け入れる文化にとって代わる。
進んでカオスを受け入れることで、不確実性の存在を認めて対策を講じることができる。自分が過ちを犯すと分かっているなら、黙って待っていても準備なしに突撃しても、上手くいかないことはわかるだろう。最も重要なのは、過ちを修正する能力を備えているという自信を持つことである。
②役に立つ人ではなく、たった今役に立つ人を雇う。
③「悪い」マネジメントを容認する。
革新的なビジネスモデルを作ってスケーリングするときは、そこには詳細な青写真などないのが普通である。ブリッツスケーリングの最中では、組織の全員の役割が未定義で流動的になりやすく、社員は降りかかる急激な変化に晒されがちである。それが常態化することで、外の世界の劇的な変化にも適合能力を身につけることができるようになる。
④恥ずかしいプロダクトを公開せよ。
仮に不完全なプロダクトで今すぐ市場に参入するのか、「完璧な」プロダクトでゆっくり市場に参入するのかを選ばなければならないなら、不完全なプロダクトを選ぶべきである。
⑤火は燃えるがままにせよ。
火事を放置できないと、チームは全ての時間を消化に当ててしまい、ビジネスを進化させるためのブレークスルーを考える時間がなくなってしまう。われわれは、燃え盛る炎があらゆる避難路を塞ごうとしているのに気づきながらも、集中を切らさずにもっと緊急な火事を消せる限られた人間になる必要がある。
⑥スケールしないことをしよう(その場限りの仕事)
エンジニアはその場限りの作業を忌み嫌う。プロダクトは初めから正しく作るべきであり、作るのは一度だけで良い、という一般通念が強い。しかし、ブリッツスケーリングを進めている間、非効率はルールであり、例外ではない。
⑦顧客を無視せよ。
遠い昔から、カスタマーサービスの基本法則は「顧客は常に正しい」である、しかし、ブリッツスケーリングを実行する企業にとっての基本法則はこうである。「自分の仕事が遅れない限り、どんなカスタマーサービスでも提供しろ。それには、サービスをしないことも含まれる。」
⑧資金は有り余るほど調達せよ。
一般に起業家は、必要以上の資金を調達しようとしない。資金を集めすぎると、起業家の会社持分が希薄化され、優先株の過剰分配を誘発する。しかし、ブリッツスケーリングを実行しているときは、資金は常に必要分より多く、できればずっと多く調達すべきである。
ほとんどの起業家は、調達金額が多すぎることより、小さすぎることの方がずっと多い。
⑨カルチャーを進化させろ。
ブリッツスケーリングの旅に出ている間は、非効率で許されることや、燃えるがままに放置できる火事がたくさんあるが、カルチャーを無視するという選択肢はない。
カルチャーが重要である理由は、具体的な指示やルールがないとき、あるいはルールが自分の限界に達した時に、どう行動するかを左右するからである。
カルチャーで大切なのは、会社にとって本当に大切なことを何度でも繰り返すことである。
ブリッツスケーリングを実行する企業は、多様性のないカルチャーを作る恐れがある。ひたすらスピードを重視するためである。採用で近道をすれば多様性負債を抱えることになる。