・大型プロジェクトの実績はなぜそこまでお粗末なのだろう?そしてさらに重要なことに、ごくまれな、興味をそそる例外についてはどうだろう?大多数のプロジェクトが失敗するなか、なぜこれらだけが成功するのだろう?それとも、あの結果は再現できるのだろうか?
・プロジェクトの失敗と成功をもたらす普遍的な要因は何なのか?1つ目は、人間の心理メカニズム。2つ目は、権力である。
・ビジョンを計画に落とし込み、首尾よく実現させるにはどうしたらいいのだろう?という問いかけに対して、「ゆっくり考え、素早く動く」がその答えになる。
・1910年から1998年までに実施されたプロジェクトのコスト見積もりは、最終コストを平均28%も下回っていた。
・予算超過、期間延長、便益過小の繰り返し、これはメガプロジェクトの鉄則である。
・ITプロジェクトの予算超過率はファットテールであり、予算超過率の平均値よりもはるかに上回る超過が発生する可能性が十分にあることが分かっている。
・小型プロジェクトもファットテールを免れない。
・失敗するプロジェクトはずるずる長引きがちであるが、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。期間が長くなればなるほど、窓は大きく開く。そして窓が大きく開けば開くほど、大きく邪悪なブラックスワンが窓から飛び込んできてトラブルを起こすリスクも増大する。
・プロジェクト実施中に大惨事が発生しないような対策は、窓を閉めることである。もちろんプロジェクトは瞬時に終わらないから、窓を閉めっぱなしというわけにはいかない。だが、スピードアップしてさっさと終わらせれば、窓が空いている時間を劇的に短縮することができる。
・プロジェクトを早く終わらせる方法として、厳しい期限を設け、関係者全員を猛烈に働かせることは方法として間違っている。
・プロジェクトは2つのフェーズに分かれており、「計画」と「実行」である。計画フェーズであれば、試行錯誤のコストは少額で済む。実行フェーズはコストが一気に膨らむ。そのため、ゆっくり考え、素早く動く方式が大型プロジェクトを進める上では重要である。
・人は慎重に考えるよりも早く1つに決めたいという性質がある。この性質は特に急いでいる状況下で発揮されやすい。他の選択肢があるかもしれないのに、それが唯一の選択肢であるように振る舞い、結果として予想以上のコストやリスクを負ってしまうことになる。
・人が慎重に考え抜く必要があることは重々わかっているのに、そうできない理由は上記の性質の他にもいくつか原因がある。1つ目は、戦略的虚偽表明である。戦略目的のために、情報を意図的かつ体系的に歪めたり誤魔化したりする傾向である。2つ目は、心理メカニズムである。
・私たちはいったん直感的に「こうだ」と思い込むと、その判断をゆっくり慎重に徹底して吟味することはほとんどない。人は「最初に浮かんだこと」に固執してしまうのである。
・ホフスタッターの法則とは、人が作業にかかる時間を実際よりも少なく見積もってしまう傾向である。
・やり直すことができる可逆的な意思決定に関しては、時間を無駄にしすぎず、まず何かを試してみる。一方で、大型プロジェクトの決定の大半には、何かを試してみようという実行重視の姿勢は適さない。
・良い計画を立てた結果として「ゆっくり」になるのであって、「ゆっくり」すれば良い計画ができるのではない。
・良い計画は疑問から始まる。「なぜそれをするのか」をまず固める。なぜこのプロジェクトを行うのですか?プロジェクトは、それ自体が目的であることはなく、目的を達成する手段にすぎない。
・「何のために、なぜやるか」を明確に理解すること、そして最初から最後まで決して見失わないことが、成功するプロジェクトの基本である。
・良い計画は、実験または経験を周到に活用する。優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。
・計画段階での反復的なプロセスは価値がある。その理由は、①自由に実験ができる。馬鹿馬鹿しいアイデアを試せる自由があり、アイデアは大抵の場合うまくいかない。②このプロセスでは大まかなアウトラインから細かいディテールに至るまでのあらゆる部分の精査、検証される。③心理学で「説明深度の錯覚」と呼ばれる基本的な認知バイアスを克服するのに役立つ。理解しているつもりのことを説明しようとして、実はわかっていないことを自覚すれば、錯覚が解ける。④大型プロジェクトではトラブルが起こるのは確実で、いつ起こるかだけが問題である。そのいつを計画段階の反復プロセスの最中になる確率を大幅に高めることができる。
・本当の障壁は、計画立案を静的で抽象的、形式的な行為とみなす、その姿勢にある。代わりにそれを「試行、学習、反復」の能動的な試行錯誤のプロセスとみなせば、ゲーリーやピクサーのように色々な方法を使ってアイデアで遊ぶことができる。
・大型プロジェクトでは必ずと言っていいほど、経験が生かされず、政治が優先される。経験豊かな海外企業には任せず、未経験な国内の企業にプロジェクトを任せることが多い。しかし、経験を軽視することでコスパが悪化する事態が発生する。
・自分たちのプロジェクトはユニークで唯一無二だから、前例から学ぶことはほとんどないという思い込みである。だからいつまで経っても学ばない。
・先行者利益は「ほぼ幻」である。先行者利益は誇張されすぎている。パイオニアとして市場に参入した企業の半数近くが倒産していたのに対し、フォロワー企業の倒産率は8%にとどまった。また、生き残ったパイオニア企業の平均的な市場シェアが10%だったのに対し、フォロワー企業のシェアは28%だった。
・先行者は一定の状況下でメリットを得ることもあるが、それと引き換えに、他社の経験から学べないという手痛い代償を支払う。それよりよいのは、先行者を追って素早く市場に参入し、「ファストデンフォロワー」として、先行者から学ぶことである。
・人間が所有し利用できる最も有用な知識の多くは、形式知ではなく、暗黙知である。
・全体にとっての善が何であるかを知り、それを実現する能力である「実践知」を得るには、形式知以上のものが、すなわち長年の経験からしか得られない知識が必要である。
・「参照クラス」を説明する上で、プロジェクトに関して全く異なる2つの見方があると考える。1つ目の見方は、そのプロジェクトが他にはない特別な取り組みだという見方。人は資源にこのような見方をするだけでなく、その独自性を誇張する傾向にある。これは独自性バイアスともいう。2つ目の見方は他のプロジェクトと共通点は必ずあるという見方である。そのため、一般的なプロジェクトから多くのことを学べる。一般的なプロジェクトがこの場合の「参照クラス」である。
・カーネマンとトヴェルスキーは、1つ目の見方を内部情報に基づくアプローチ、2つ目の見方を外部情報に基づくアプローチと呼んだ。
・キッチンのリフォームという単純なプロジェクトでも、可能性は低いが起こり得るトラブルがたくさんある。たとえ1つ一つの確率は小さくても、積み重なれば大きくなるから、こういった予想外のトラブルの少なくともいくつかは、実際に起こる。そしてそれらは、あなたの予想では考慮されていない。
・未知のトラブルについても対策を講じるには、見方を変え、あなたのプロジェクトを、過去におこなわれた同じクラスのプロジェクトのうち1つ、すなわち数ある中の1つとみなすのである。そうして、参照データをアンカーにしてあなたのプロジェクトと参照クラスの平均的なプロジェクトとの違いを踏まえて、アンカーを調整し、見積もりを算出する。
・上記の手法を「参照クラス予測法」と呼ぶ。参照クラス予測法の注意点としては、調整を行う際、調整しすぎると、バイアスが忍び込み、バイアスにとらわれないアンカーの価値が失われてしまう。
・参照クラス予測法は優れた手法であるが、あまり用いられてこなかったことには理由がある。①バイアスを排除することをメリットではなくデメリットとみなす組織や人が多いからである。プロジェクトに承認や資金を与える側に、コストや工期の実態を知らせたくないという思惑があるからである。②強力な独自性バイアスを克服することが難しいからである。③平均値を計算するのは簡単だが、そのためにはデータを入手なくてはならず、それが難しい。
・そのため、参照データは集まらなくても少ないデータの平均をとってアンカーにすることで十分に精度の高い予想ができるようになる。
・プロジェクトの予算の算出の仕方は、まず、あなたのプロジェクトがファットテール分布なのか正規分布なのかを見極めるために、十分な数のデータを収集し、データの分布を統計的に分析できないか真剣に検討する。もし正規分布がそれに近いことが判明すれば、参照クラスの平均値を使ってRCF法(参照クラス予測法)を行う。この方法で見立てた見積もりであっても、少額のコスト超過が発生するリスクが、まだ50%ほどある。このリスクをさらに軽減するには10%から15%予備費を確保しておく。もしファットテール分布の場合は考え方を変えて、1つの結果を予測する代わりに、分布全体を見てリスクを予測しよう。平均値からどのくらいコストが超過し、その金額になる確率を考慮しつつ、懐事情にあった予備費を計上する。しかし、ファットテールのテール部分までカバーしようと思うと予備費は何倍にもなってしまう。そのため、テール部分は切り落とす。
・大型プロジェクトにおいて、切り落としたテール部分のマネージメント方法(ブラックスワンマネジメント)は、複数の手法を組み合わせて行うのが一般的である。①ゆっくり考え、素早く動く。②初期の遅延は軽視されがちであるが、失われた時間は取り戻せないという精神で、初期の遅れと連鎖反応のリスクをなるべく軽減する。③独自性バイアスを排除する。④失敗のリスクだけではなく、成功の確率についてもアセスメントする(シカゴの大火祭で、ビクトリア朝住宅のレプリカを華々しく燃やした後の鎮火への対策はバッチリしていたが、そもそも火がつかないというリスクに対しては考えていなかった)。
・計画など立てずに、偉業にひたすら身を投じる人々の物語には、心を揺さぶる何かがある。しかし、そのような物語は、生存バイアスによるものである。物語にならなかった、失敗した無名の中退者についても知る必要がある。
・一般に言う「コスト」は、全てのコストではない。人生やキャリアなど、他にも多くのものがプロジェクトの成功にかかっている。だからこそ、プロジェクトは正しく行わなくてはならない。そして、プロジェクトが成功したときは、ありがたいことなのだと肝に銘じるべきである。
・計画を正しく行わず、成功する確率も確かに存在するが、それは危険で不要な賭けになる。
・無知を払拭する周到な計画立案は、確かに前途に待ち受ける困難を明らかにする。しかし、だからといってプロジェクトから手を引く理由にはならない。ハーシュマンの主張の「人生は創造性に富んでいる」と言う部分は正しいが、「創造性を発揮するためには、思い切ってプロジェクトに飛び込み、背水の陣を敷く必要がある」と言う部分は間違っている。周到な計画は創造性を奪うどころか、むしろ後押しをする。
・「時々ペースダウンして、2度、3度と見直すと、ミスが減る」と彼は言う。「そのほうが、結局早く完了するんだ」
・最低入札額が最低コストになるとは限らない。
・心理的安全性がチームの士気に直結する。
・チーム作りにはコストをかける。
・モジュール性が非常に高い、または極端に高いプロジェクトは、壊滅的に失敗するリスクがそれほど高くなく、コストは正規分布になる。
・ヒューリスティックとは、複雑な意思決定を簡素化するための、迅速で簡便な経験則のことである。
・筆者が数十年間の大型プロジェクトの研究と実践で培ってきた11の経験則を紹介する。ただし、経験則はそれさえ守れば必ず成功できると言うようなルールではない。この11の経験則を叩き台にして、調査し、新しいことを試しながら、あなたなりの経験則を作ってほしい。あなた自身の経験則がものを言う。
①マスタービルダーを雇おう。マスタービルダーとは、中世ヨーロッパの大聖堂を建築した、熟練した棟梁に与えた称号である。つまり、プロジェクトを成功に導いた実績のある人を雇おう。だが、マスタービルダーがいない場合や雇えない場合は、次の経験則を検討してほしい。
②良いチームを作ろう。いくら良いアイデアでも、平凡なチームに与えたら台無しにされてしまう。だが優れたチームに平凡なアイデアを与えると、それを修正するか、もっといいアイデアを考えてくれる。だから良いチームさえ用意できれば良いアイデアが手に入る。
③なぜ?を考えよう。プロジェクトチャートの右端のボックスに書かれること、あなたが最終的に成し遂げたい目的と結果を考えよう。最終目的を見失わないために。
④レゴを使って作ろう。大きいものは、小さいもので作るのが一番である。
⑤ゆっくり考え、素早く動こう。十分な時間をかけて、詳細な実証済みの計画を立てよう。
⑥外の情報を取り入れよう。あなたのプロジェクトが数ある中の一つだと言う視点を持ち、データを集め、参照クラス予測を立てて、データに反映された経験から学ぼう。
⑦リスクに目を向けよう。大事なのは勝つことではなく、負けないことである。
⑧「ノー」と言って手を引こう。プロジェクトを完了するためには、集中を保つ必要がある。集中を保つためには「ノー」と言うことが欠かせない。
⑨友好な関係を築こう。これもリスク管理の1つである。問題が発生した時にプロジェクトの命運を握るのは、強固な人間関係である。
⑩地球をプロジェクトに組み込もう。
11. 最大のリスクはあなたである。