・MOTをテーマとした教科書として、日本では一般的に、2つの方向性が見られる。
第1に、技術管理を狭義に捉えた経営工学や生産管理を中心としたものである。組織論や戦略論を中心とした経営学というよりも、オペレーションズ・マネジメントやプロジェクト・マネジメントを中心として、工学的・分析的なアプローチで取り組んだものが多い。MOTにとって、これらのアプローチは、極めて有用かつ重要である。しかし、MOTを経営学として見る場合には、その目的は、単に技術開発や工場の生産性を向上させることではない点に注意が必要である。
第2に、革新的なイノベーションや新技術をベースとした新事業創造やベンチャー企業の在り方などを中心的に取り扱ったものである。革新的技術をいかに事業化するのかという点は、社会的にも企業としても、極めて重要な課題である。しかし、MOTの究極的で最大の目的は製造企業において、安定的に高い業績を上げることである。革新的なイノベーションや新規事業開発は、毎年必要なわけではなく、製造業の経営課題の一部でしかない。
・一方で、経営学をベースとした本書がMOTの教科書として目指すテーマは、製造企業において、技術や商品に関する戦略的、組織的なマネジメントにより、「製造企業の付加価値創造を最大化すること」にある。本書の具体的な枠組みとしては、「価値創造」と「価値獲得」の両面から、企業の付加価値の最大化を実現することである。
・価値創造は、2つの要素から構成される。第1に、革新的なイノベーションにより、機能や利便性など、価値の高い技術・商品を創造することである。第2に、技術・商品開発のプロセスを効率的・効果的にマネジメントし、品質や生産性を高めることである。つまり、価値創造とは、優れた商品を優れたプロセスによって開発・製造し、顧客に喜んでもらえる価値を提供することである。
・価値獲得は、創造された価値を事業価値として獲得することである。価値創造で顧客がいくら喜んでくれても、企業が価値を獲得できなければ、真の付加価値創造にならない。
・機能を付加したり、機能を高めたりすることが、必ずしも付加価値の向上に結びついているわけではない。機能として付加価値の高いものの方が、機能として付加価値の低いものよりも、利益の金額が低い場合がある。
・製造業が付加価値創造を大きくするためには、特徴のある商品を開発する必要がある。または、競合企業には模倣できない独自性がある、差別化された組織プロセスや開発・製造の仕組みを作り出すことが求められる。近年の競争では、明確な独自性がなければ付加価値が創出できないという点が、より厳密に当てはまるようになってきた。
・長期的な視点が必要であり、成功に導く因果関係が複雑であることの両方の要因が揃っているために、MOTは極めて不確実性の高い経営分野になっている。不確実性の高さは、「技術」「顧客ニーズ」「競争環境」の3つの経営要因に分割して考えることができる。
・数量的な分析ツールを参考として活用することは否定しない。しかし、上記で示した通り、MOTは極めて不確実性が高いため、技術の将来性をさまざまな要因の数量的な分析によって、何らかの形で指標化すると、意思決定がそれに過度に影響されてしまい、誤ってしまう場合が多い。元来、正しく数量化すること自体に無理があるので、このような指標が一人歩きすることは避ける必要がある。
・MOTの最大の役割は、不確実性の高い環境の中で、長期的な付加価値創造を最大化することである。
・MOTに関わる不確実性は3つあり、
①技術の不確実性。技術発展の方向性や程度(スピード)によって、市場の流行やヒット商品が大きく影響される。
②顧客ニーズの不確実性。近年、顧客ニーズの広がり方が複雑になってきている。
③競争環境の不確実性。競争企業の動向は、商品の価値を決定する要因として、極めて重要であるにもかかわらず、これを正確に把握することは不可能である。
・MOTは、理系の経営学のイメージからか。過度に数量的な分析手法を活用するという方向に進む傾向がある。しかし、MOTに関連する不確実性の高さを考えると、数量的手法や分析に過度に依存した意思決定では、間違った方向に進む可能性が高い。
・一方で、数量的に分析すると、異なった結果になった場合、どの点が予想と違ったか検証できるというメリットがある。
・先ほど紹介した外部要因である3つの不確実性の他にも、企業内部の不確実性も存在する。例えば、トップの意向や事業ポートフォリオである。
・結局は、細かい分析に依存するのではなく、分析を参考にしながらも、特定の技術における将来のポテンシャルを熟考して、ある程度は大胆に意思決定するしかない。
・価値創造の1つ目の要因は、「技術・商品価値創造」である。技術・商品価値創造は、技術的に機能が優れていて、顧客のニーズに合致している商品をつくることである。
・価値創造の2つ目の要因は、「価値創造プロセス」である。価値創造のプロセスが優れていることが必要になる。商品開発や製造プロセスにおいて、高い品質、効率(コスト)、スピードの3つを実現することである。
・価値獲得とは。技術・商品によって生まれた価値を自社の事業利益として獲得することである。
・近年、価値獲得が困難になってきている。原因は、価格競争に巻き込まれて、多大な研究開発投資を行ったが、それを回収して大きな利益に結びつく前に、価格が低下してしまうという状況が増えてきていることにある。そこには4つの環境変化が影響している。
①日本の産業成長の鈍化、②グローバル競争の激化、③商品のライフサイクルの短縮、④商品販売のされ方によって、過当競争が煽られている。
・過当競争を避ける方法は、他の商品と比較して明確な優位性を持たせることと、商品そのものには優位性はないが、その価値を高める補完的資源があること。
・補完的資源には、2つあり市場的資源と技術的資源がある。例えば、市場的資源には販売チャネルとブランド、技術的資源は特許と材料や部品において優れた技術を持った供給企業との強い関係、業界標準規格化、アフターサービスがある。
・付加価値構造のメカニズムは、大きく分けて「コア技術」「組織プロセス」「事業システム」の3つの分野に分けて、付加価値創造のあり方について考える。
・価値獲得を実現するためには、競合企業に対して差別化を実施、実現できている差別化に対して、顧客が対価を支払ってくれる必要がある。
・マネされない持続的な差別化を実現し、継続的に高い業績を上げるためには、特定の分野における組織の能力を長年に渡りブレることなく鍛え、組織能力において骨太の強みを構築することが最も有効である。
・「組織能力」とは、企業が固有に持つ有形無形の資源と、それを活用する能力やプロセスである。具体的には、「技術的資源」や「人的資源」およびそれらの資源を統合して効果的、効率的に活動するための「組織プロセス」である。
・企業が強い組織能力を持っていたとしても、それを強化し続けなければ、競合企業に追いつかれてしまうため、「組織能力」に加えて「組織能力の構築能力」が必要である。本書では両方を含んだ概念として「組織能力」と呼ぶことにする。
・近年の経営学では、差別化の源泉は大きく分けて2つに分けて説明している。それらは、商品での差別化と組織能力での差別化である。商品での差別化は最も直接的な差別化の方法であるが、企業が持続的に高い業績を上げるという面では限界がある。商品での差別化は、競合企業に真似をされるのが早い。
・組織能力を基盤にするのではなく、個別商品の成功を目指す経営には3つの問題点がある。①競争力が持続できない「継続性の問題」、②競争力が部分的に限定される「範囲の問題」、③長期的な「学習効果の問題」である。
・商品での差別化。同じ商品の差別化であっても、3つのレベルに分けている。「機能」「価値基準」「商品分野」の順で表層的な差別化であり、競合企業に模倣されやすい。
・組織力での差別化。日本を代表する優良企業であるトヨタの強みでも、文章や数字で明確に定義することは不可能に近い。逆に言えば、企業内部からその強みが簡単にわかりにくいからこそ、競合企業が何をどのように真似したら良いのかがわからない。そのために、簡単には模倣されないという側面がある。
・MOTに関する組織能力を、「コア技術」「組織プロセス」「事業システム」に分けて説明する。
・コア技術とは、技術分野としてある分野に集中しつつも、その集中のリスクを緩和するために、技術を多様な商品に応用することである。
・組織プロセスとは、同じような商品の開発であっても、競合企業よりも、高い品質を少ない工数とコストで短い期間で実現できる組織能力である。
・事業システムとは、事業構造だけでなく、企業間取引のマネジメントなど組織プロセスも包括的にカバーしているものである。
・組織能力によって持続的な差別化と優位性が確保できて、しかも顧客価値が高い場合のみ、付加価値創造が可能となる。既存の顧客へ過度に適応した商品開発を続けていると、独自の強みを活かしたイノベーションを実現する機会を失う危険性が高い。一方で、組織能力が高くても、それに対して顧客が対価を支払ってくれなければ意味がない。
・組織能力での差別化の優れた点は3つある。①模倣困難性、②多重利用性、③自然蓄積性である。
・模倣困難性。無形の資源や組織ルーチンなどは、競合企業から簡単に見えないし、分析できないため模倣困難である。また、組織ルーチンなどの組織能力は、長年の繰り返しや積み重ねを経ることで初めて構築されるため、模倣困難である。
・多重利用性。資源の多重利用性の概念は、シンプルだが、経営において業績を高めるための鍵を握る概念の一つである。その中でも、組織能力は、1つの商品だけでなく、開発する技術や商品に広く利用されやすい資源である。
・自然蓄積性。組織能力は、使っているうちに自然に蓄積され、組織能力としてさらに強化されていく特徴がある。
・企業の競争力の階層は、上から(表層的な方から)財務成果(利益)、市場成果(市場シェア)、組織成果(組織効率)、組織能力(強み)である。
・日本企業としては、下から上へのアプローチをしていくべきである。ただし、2つ問題があり、第1に、下から出発しながらも、一番上の利益に到達する道筋が明確でない企業が多い。第2に、最も深層的な組織能力を戦略的に構築するというよりも、組織成果と市場成果などの市場成果を重視していることが多い。
・組織能力が真似をされない要因は3点あり、①組織能力の中身が複雑で理解しにくい、②作り上げるのに時間がかかる、③組織能力の中身が時間の経過とともに強化される。
・製品アーキテクチャとは、「システムとしての製品をどのようにサブシステムへ分解して、いかにそれらのサブシステム間の関係を定義づけるかに関しての設計思想」である。
・製品アーキテクチャは、モジュラー型とインテグラル型の2つに分類できる。モジュラー型は、事前に部品の組み合わせ方のルールを決めて、開発・製造の際には、そのルールに従って作られた部品を積み木やレゴのように組み立て合わせる。一方、インテグラル型は、事前に組み合わせ方のルールを完全に決めず、開発・製造を行う段階で最適性を考えて各部品間の調整を行いながら作り込んでいく。
・製品アーキテクチャは、2つの軸によって分類される。それは、①製品を構成するサブシステム(部品)間のインタフェース特性としてモジュラーかインテグラルか、および②部品のオープン化特性として、オープン・標準かクローズド・専用かである。
・モジュラー型とインテグラル型の特徴。
モジュラー型は、ある機能を実現する際に、複数の部品の間で相互依存的な関係をもたないよう、事前に部品関係のあり方を決めているのがモジュラー型商品である。インテグラル型は、ある機能を実現するために、複数の部品が統合することとできる。
モジュラー型は、事前の調整とデザイン・ルールによって、商品開発段階でコスト低減を追求する。一方で、インテグラル型は、個別の商品開発の中で、最適な調整を実施することによって完璧な統合性を目指す。
モジュラー型商品と言っても、サブシステム内部はインテグラル型である場合が少なくないことに注意が必要である。
モジュラー型製品の優位点は3つある。①サブシステム間の「簡素化」である。②サブシステム間の「標準化」である。③サブシステムの「独立化」である。これらの優位点から、「統合の容易化・コスト低下」と「イノベーションの活性化」が起こりやすくなる。統合の容易化・コスト低下とは、モジュール化はコスト削減の強力な手法なので、企業はそれを推進しがちであるが、中長期的には企業間の差別化を困難にし、過当競争と価格低下を誘引してしまう結果になる。イノベーションの活性化とは、切り取られた専門の部品に多くのベンチャー企業が参入することで、イノベーションが活性化されるということである。
・インテグラル型にとどまる条件は、モジュール化するメリットよりも、すり合わせによって創造される価値の方が高い場合である。しかし問題は、すり合わせ型商品をうまく開発することではなく、それに対して顧客がいかに追加的な対価を支払ってもらうかである。その点が難しいため、一見素晴らしい商品が開発できても、付加価値創造には結びつかないのである。
・モジュールでの付加価値創造を最大化するためには、その商品におけるプラットフォーム・リーダーになることが重要である。プラットフォーム・リーダーになれば、2つの点から高い付加価値創造に結びつく。①業界標準を自社がリードすることにより、市場パワーを持つことができ、利益を高めることができる。②技術ロードマップをコントロールすることによって、自社の技術戦略を能動的に決定できる。
(コア技術戦略)
・コア技術戦略とは、技術による強みを持続するための組織能力を構築し、活用する技術経営のこと。
・コア技術戦略の組織能力は、基本的には2つの要素からなる。①マネされないコア技術、②コア技術を日々の技術・商品開発を通して鍛える組織能力である。
・独自技術による競争優位性の構築と、市場・顧客ニーズへの柔軟な対応の間には、トレードオフがある。競争優位を勝ち得るために特定の技術に集中的に取り組めば、市場環境の変化には対応できない場面も出てくる。逆に、市場の動向に合わせて、柔軟に技術・商品開発に取り組んでいては、独自技術で真の優位性を持つことは難しい。
・そこで、技術は集中するが、商品・市場は分散するコア技術戦略が良い。コア技術戦略の良い点は、①リスク分散である、②技術を多様な商品に応用することによって、コア技術を鍛える、③コア技術として集中している当該技術に関する市場を形成し成長させる。
・プロセスによって構築されるコア技術に関する組織能力の内容として、具体的には次の3点がある。①要素技術である。各要素技術が商品を経験するたびに洗練されていく。
②技術領域の広がり。多様な商品を開発するにつれて、コア技術の領域の中で、要素技術の広がりが生まれる。
③コア技術の商品化に関する知識。コア技術を市場化する組織的なルーチンや、市場導入するために必要とされる多様な問題解決能力が構築される。
・コア技術戦略の考え方として、まずは基礎研究を重ねてコア技術を開発して、次に、その技術を多様な商品に応用するというモデルではなく、まず技術の方向性を決めて、その技術を使った商品を次々と開発することによって、結果として企業固有の知識体系としてコア技術が形成されていく。
・商品化を通じてコア技術を育成するモデルの優れた点は5点ある。
①技術開発の比較的早い段階から、失敗を恐れずに商品化に取り組むことができる。
②技術開発の比較的初期段階から、いくつかのことなった市場に向けた商品を開発・導入することによって、市場のポテンシャルをより正確に評価することができる。
③技術の研究開発だけでなく商品化することによって技術革新が加速される。
④純粋な技術の研究開発ではなく、企業固有の商品開発を実施しながら蓄積された組織能力は、その経験によって蓄積されるものなので、企業固有の組織能力となる。
⑤商品を連続的に開発・導入することによって、コア技術として選んだ技術を射顔的に認知させ、市場創造を促進する。
・顧客の現在ニーズに合わせた優れた商品を導入し、複数の企業が気妄想しても全てが売るようような市場であれば、マーケットインが良い。しかし、同質的な商品によって競争し、価格が急速に下がり、利益が出ない市場であれば、単に顧客ニーズに合わせただけではダメである。コア技術戦略がうまくできる条件がそろえば、マーケットインよりもプロダクトアウトの方が、現在の厳しい競争環境には合っている。ただし、コア技術戦略を成功させるためには、自社のコア技術を顧客の価値に結びつけるための、創造的な商品コンセプトを構築する組織能力が前提条件となる。
・なぜ多くの企業では、潜在ニーズを探索するよりも、現在ニーズに単純に対応してしまうのであろうか?それは、企業内部の組織の問題である場合が多い。組織の問題としては、組織構造に関するものと意思決定プロセスに関するものの2点がある。
①組織構造に関しては、営業・マーケティング部門の位置付けの問題である。顧客ニーズを顧客から収集し、その顕在ニーズに応えるような商品開発を行なっている。
②意思決定プロセスの問題は、意思決定に責任を持つ人が、自分の決定に対してリスクや責任を回避したいと考えると、お客が直接欲しいと言っているものに賛同してしまう。
・コア技術戦略を実行する上で、どの技術を最初に選ぶか以上に、選んだ技術に関して、技術、商品、市場の3つの間で相乗効果を起こしつつ発展させていくことが重要なのである。
・商品開発では、コア技術を徹底的に使うことがポイントであるが、新しいコア技術を開発し、コア技術を入れ替えることも必要である。
・会社としては、最初から1つのコア技術を選択し、将来はその技術だけに社運を賭けるということではない。いくつかの技術をコア技術の候補として選択し、いくつかの商品に応用してみる。その中で、技術と市場のポテンシャルを評価しつつ、徐々に戦略の大きな舵取りをしていくということである。
(プラットフォーム戦略)
・MOTでは、プラットフォームは3つの意味で使われている。①業界プラットフォーム、②技術プラットフォーム、③製品プラットフォーム。本章では③製品プラットフォームに焦点を当てる。
・商品開発戦略において、開発投資を低く抑えながら、多様な新商品を頻繁に開発することで、企業の業績におけるリスクは低減し、開発能力も向上することができる。開発投資を低く抑えるためには、他の商品開発プロジェクトで開発された技術や部品システムをうまく共通化し、資源を効果的に活用する必要がある。
・プラットフォーム戦略の目標は2つあり、①商品開発において、最小の経営資源の投入で、新商品としてのアウトプットを質量ともに最大化することである。②本書で中核的なコンセプトになっている「組織能力」をブレることなく構築できることである。
・プラットフォーム戦略を実行する際に直面する根本的な課題は2つあり、①プラットフォームや部品を共通利用する商品間での差別化である。コスト低減を優先させて、過度な共通化を推進してしまうと、商品間での差別性がなくなり、多様な商品ラインを持つことの意味がなくなる。②プラットフォーム化に際して、モジュール化の程度をどうするかという問題がある。製品のモジュール化を進めることで、多様な組み合わせによって、多種多様な新製品を低コストで開発することが容易になる。一方で、真似されない特徴のある商品が開発しにくくなる。
・プラットフォーム戦略における重要なポイントは、プラットフォームを効果的に多様な商品への水平展開することである。その際に、共有することによる範囲の経済性を最大化することに加え、水平展開するスピードも重要である。なぜなら、新しいプラットフォームが、導入時点で市場競争力を生み出す中核技術であったとしても、時間の経過に従ってその競争力は低下するからである。また、商品開発プロジェクトの合間に技術的および組織的な連鎖が生まれることも重要である。これによって、相互調整や共同開発による技術開発の質や効率の向上だけでなく、長期的には、企業全体の学習が促進される。
・プラットフォーム管理組織とは、プロジェクト重視組織から機能部門重視に戻ることではなく、複数の製品システム間を統合的に管理する組織である。プラットフォーム戦略を効果的に実施するためには、個別プロジェクト内の統合力を高めながら、プロジェクト間での調整力も高める必要があり、機能重視とプロジェクト重視の枠組みを超えた組織の仕組みが求められている。
・革新性の程度によって、イノベーションを大きく2つに分けることができる。革新的なイノベーションと改善的なイノベーションである。これらの2種類のイノベーションのタイプによって、戦略上の役割やマネージメントに求められるものが全く異なる。
・イノベーションの程度を改善的と革新的に分ける基準は、これまで市場に全く存在しなかった場合のみ、革新的な商品と言える。または、市場にこれまで存在したとしても、ある企業にとって初めてであれば、その企業にとっては革新的だということになる。つまり、革新性の程度を考えるためには、企業がすでに持っている技術や開発能力に対して、どれだけ大きなギャップが存在するかという点が重要である。
・戦略と組織は相互に影響し合いながら、一体となって、企業の業績に影響をもたらす。
・組織を考える場合には、組織構造と組織プロセスの両方が重要である。組織構造は、組織デザインを表す設計図の一部でしかなく、それを機能させるマネジメントとプロセスがなければ組織の目的を達成することはできない。組織構造よりも組織プロセスの方が重要である。
・「情報プロセスの必要量<情報プロセスの組織能力」でなければ、組織は機能しない。情報プロセスの必要量は、主に遂行すべき業務の量と質によって決まる。情報プロセスの必要量が過多になっている場合、組織構造をうまくデザインすることで、部門を超えた情報プロセスが必要なくなり、うまく機能するようになる場合がある。また、遂行すべき業務の質的に、情報プロセスの必要量が多い場合は、高い情報プロセスの組織能力を備える以外には、組織を機能させる方法はない。
・情報プロセスの組織処理能力は、部門間の壁の高さによって決定される。部門間の壁の高さに影響を与える要因は以下の3つである。①組織の階層が多く、しかも官僚的な情報プロセスしかできない場合には、情報交換が難しい。②部門間の競争の度合いが高い場合には、情報交換が促進されない。③2つの部門が物理的に離れていれば、情報プロセス能力が低下する。
・情報プロセスの組織能力を向上させるためには、2つの解決策がある。①情報処理の必要量を低下させる。②組織の情報処理能力を高める。このためには、官僚制の度合いを低下させたり、地理的にコ・ロケーションを実現したりすることが有効である。また、部門間での競争を排除する方向への人事評価制度に変更することも効果がある。
・技術・商品開発の組織マネジメントの目的には、多様な技術開発における専門業務と、それらを統合して1つの商品として完成させることの2つがある。専門性で分化された業務を「機能業務」、それを担当する組織が「機能部門」と呼ぶ。また、さまざまな機能部門が一緒になって取り組む業務を「プロセス」と呼ぶ。つまり、商品開発を実施するためには、「機能部門」と「プロジェクト」の2つが必要である。機能もプロジェクトもどちらと技術的商品開発において重要である。これはオーケストラに例えられることもある。
・プロジェクト重視組織は、機能横断で商品としての統合や商品コンセプトの実現を目標としたアウトプット重視な成果が得られる。個々の機能部門の技術開発は妥協されることが多い。また、技術者のモチベーションとしては商品へのコミットメント(自分が特定の商品を開発しているのだという意識)を持つことができる。効率性は、組織の効率が上がり、開発工数や開発期間が短縮する。
・機能重視組織は、専門分野の技術革新や技術の育成・蓄積を目標としたインプット重視の成果が得られる。また、技術者のモチベーションとしては、専門性へ向けた自己達成、プライドを持つことができる。効率性は、資源の効率が上がり、技術の・部品の共有、人材活用が進むようになる。
・プロジェクト重視組織と機能重視組織のどちらがより適切であるかは、開発する商品の市場や技術の特性によって決まる。
①要求される開発リードタイムが緊急であれば、プロジェクト重視組織を選択する。
②製品アーキテクチャが複雑であれば、プロジェクト重視組織が適している
③市場・顧客ニーズが複雑であれば、プロジェクト重視組織を選択する。
④要素技術の革新性が必要であれば、機能重視組織で活動する。
・組織プロセスの目標の中でも、最も重要なのは、期間短縮と、開発効率向上、品質向上を同時に実現するという点である。この目標の達成には、コンカレント・エンジニアリングとフロント・ローディングをうまくマネジメントすることが必要とされる。
・コンカレント・エンジニアリングとは、各機能部門が業務を終了してから次の機能部門に引き渡すのではなく、各機能業務を並行させて商品開発を進める方法である。
・フロント・ローディングとは、業務を同時並行的に進めることで、部門横断的に発生する問題解決を、なるべくプロジェクトの早い段階に前倒しして行うことである。
・フロント・ローディングを効果的に実施するためには、5つのポイントがある。①後工程の技術に関する十分な知識を持ち、後工程の部門からも前工程の部門に業務のポイントについて事前にしっかりと伝達し、過去に発生した問題についてもデータベース化しておく。②前工程と後工程が共同で、問題解決を効果的に実施するために、情報交換の反復を頻繁にする。「未完成だから、情報交換しない」ではなく、「未完成であっても生産準備のために有意義な情報を移転する」という姿勢が必要である。③組み合わせ型ではなく、すり合わせ型プロセスで、相互関連性のある業務を実施するプロジェクトメンバーが、相互に調整やすり合わせを実施しながら一緒に問題解決していく。④コ・ロケーションと問題を「見える化」して共有することで、コミュニケーションを活性化する。⑤プロジェクト・マネージャーによる、強い統合力が必要。
・欧米企業がフロント・ローディングが不得意な理由は3つある。①個人成果主義の人事制度であるため、不確実性の高い段階での活動は、無駄になる可能性がありやりたがらない。②専門分野が細分化されていることによって、共同する両者間に知識やスキルのオーバーラップが限定的である。③欧米では、所依品コンセプトに関して大きな権限を持つことができるのはかなり上位ポジションであり、ミドルマネジャーが大きな権限を持つことはない。
・企業レベルで、コア技術やプロジェクト・マネジメントに関する組織能力を構築するためには、3点が必要である。①実施する多様な商品開発プロジェクトの中で組織能力強化に結びつく新しい知識を創出すること。②創出された知識を組織内部に蓄積する仕組みを持つこと。③その知識を他のプロジェクトで効果的に活用しつつ、さらなら知識創出へ結びつけること。
・MOTにおける組織能力や知識の蓄積とは、技術的な知識ではなく、「要素技術や部品を完成度の高い商品として効率良く統合するための、組織プロセス能力に関する知識」の蓄積が重要である。そのような知識をここでは、「プロジェクト知識」と呼ぶ。
・プロジェクト知識は、過程知識とシステム知識の2つの視点から捉えることができる。過程知識とは、主に商品の開発の問題解決の試行錯誤を繰り返す過程で作り出される知識である。システム知識とは、商品や組織を構成するさまざまな要素感の関係に関する知識である。
・形式知化が困難な知識の移転や蓄積の問題が、プロジェクト知識のマネジメントにとって鍵となる。結論から言うと、プロジェクト知識の効果的な蓄積、移転、再利用は、複数のプロジェクト間に直接的・属人的な「プロジェクト連鎖」の仕組みを作ることによってのみ実現できる。
・プロジェクト連鎖を構築するには大きく分けて2つの方法がある。①人的移転型連鎖、②時間的オーバーラップ型連鎖である。
・人的移転型連鎖は、プロジェクト・チームのコアメンバーをプロジェクト知識の移転先のプロジェクトへ移動させる方法である。
・時間的オーバーラップ型連鎖は、知識の移転を必要とするプロジェクトの間に時間的オーバーラップを持たせる中で、部分的に共同開発などを実施し、同時に知識の移転を行なってしまうことである。
・これまで、優れた技術や商品を開発しても、価値獲得には結びつかないのは、過当競争やコモディティ化の問題が大きい。
・商品の機能が顧客ニーズに到達するまでは、技術競争が繰り広げられ、技術リーダーが競争力を持つ。しかし、技術革新によって機能が顧客ニーズのレベルに到達すると、それ以上の機能が必要なくなる。つまり、技術リーダーが、さらに機能向上を実現できたとしても、それに対して、顧客は負荷的な対価を払うことがでしない。
・過当競争になり、価格低下の段階に入った場合の対策は2つある。①価格が下がり過ぎる前に撤退する。②最終的には残存者利益を享受するまでコスト低下の努力を続ける。コスト競争力のある企業は、②を選択することが可能である。イノベーションや差別化を追求する戦略であれば①が適している。
・過当競争を避けるための顧客価値の複雑性には、2つあり、①既存の価値基準自体を新しいものに変換すること(顧客価値の新規性)、②数字で表せるような単純な機能ではなく、デザインなどのような定性的で多義的な価値を創出すること(顧客価値の多義性)である。
・商品戦略の分類方法として、伝統的に言われているのが、高付加価値戦略と低コスト戦略の2つへの分類である。
まず、高付加価値戦略を実現するためには、①対象とする顧客を絞り込み、対象とする顧客に対してカスタマイズすることである。カスタマイズすることで、各顧客によりフィットし、より対価を支払ってくれることが期待できる。または、②潜在ニーズを見つけ出し、それに対応した商品を提供することである。しかし、どちらも製品アーキテクチャとしては、インテグラル型(すり合わせ型)が求められる可能性が高く、高コストになる。
一方で、低コスト戦略は、設計・製造戦略として、モジュール化・標準化することによって、大量生産の実現を優先した戦略である。なるべく多くの顧客に対して大量に商品を販売することが求められるので、汎用的で万人のニーズに合った商品になる。
しかし、近年の高業績企業の多くは、それら両方を中途半端に追求するのではなく、うまく良い部分を組み合わせる戦略を実現させている。つまり、製品技術でなるべくモジュール化・標準化することによって、大量生産と低コストを実現し、同時に商品の価値としては個別の顧客の注文にできるだけ合わせた商品にするのである。この戦略をマスカスタマイゼーションと呼ぶ。
・マスカスタマイゼーションを実現させるための基本となる戦略は、技術や部品を共通化しながらも、多様な商品を多様な顧客ニーズに合わせて開発することである。具体的な戦略としては2通りある。①部品共通化戦略、②高付加価値汎用品化戦略である。高付加価値汎用品化戦略を実現する際に、(リードユーザ」を活用することが有効である。リードユーザは、先端的な顧客企業でら自らイノベーションを生み出す。これをユーザー・イノベーションと呼ぶ。リードユーザは、販売先として見た場合には、必ずしも、販売量が大きい顧客ではなく、新商品のアイデアを提供してくれる顧客である。
・マスカスタマイゼーシションは、製品としてはモジュール化して単純化するが、顧客ニーズについては複雑な潜在ニーズを探り出し、それに対応した商品を開発している。