・エフェクチュエーションとは、熟達した起業家に対する意思決定実験から発見された、高い不確実性に対して予測ではなくコントロールによって対処する思考様式である。
・エフェクチュエーションの発見は、大きく二つの意義を持つものである。1つは、新たな事業や企業、市場を作り出す企業家による偉大な成果というのは、彼らの特性や資質によるものではないことを明らかにしたと言う意義である。もう1つは、エフェクチュエーションの発見が、不確実性への対処において、私たちの慣れ親しんだ予測合理性とは異なる、代替的なアプローチの有効性を提示するものであった事である。
・コーゼーションは、予測に基づいて議会を特定した上で、成功する見込みの高いプロジェクトに効率的に経営資源を配分することが可能な、合理的なアプローチである。しかし、環境の不確実性が高い場合や活用できる資源に制約がある場合に、コーゼーションのアプローチではすぐに行き詰まってしまう。未だ存在しない市場のように、コーゼーションではアプローチできない高い不確実性に対して用いる意思決定の手段が、エフェクチュエーションである。
・エフェクチュエーションには、5つの思考様式がある。
①手中の鳥の原則。すでに持っている資源を活用することで「何ができるか」というアイデアを発想すると言う意思決定のパターンである。
②許容可能な損失の原則。「何ができるか」のアイデアを実行に移す段階では、期待できるリターンの大きさではなく、逆にうまくいかなかった場合のダウンサイドのリスクを考慮して、その際に起きうる損失が許容できるかという基準でコミットメントを行う意思決定のパターンである。
③クレイジーキルトの原則。コーゼーションの発想であれば、事前に誰が顧客で誰が競合かを識別し、市場の機会や脅威を予測しようとするが、エフェクチュエーションの発想で行動する熟達した起業家は、むしろコミットメントを提供してくれる可能性のある、あらゆるステークホルダーとパートナーシップの構築を模索する傾向にある。
④レモネードの原則。予期せずしてパートナーからもたらされた手段や目的を受け入れ、それを積極的に活用しようとする姿勢。偶然をテコとして活用しようとする意思決定のパターンである。
⑤飛行機のパイロットの原則。コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる。

①手中の鳥の原則
・不確実な資源を追い求めるのではなく、自分がすでに手にしている「手段」を活用して、すぐに具体的な行動を生み出すことを意味している。「手段」は3種類ある。1つ目は、「私は誰か」である。これは、起業家のアイデンティティ(特性や興味、能力、性格など)のことを指す。2つ目は、「私は何を知っているか」である。これは、起業家が活用できる知識のことを指す。3つ目は、「私は誰を知っているか」である。これは、起業家が頼ることのできる人との繋がり、社会的ネットワークを意味する。上記の3種類の手段に加えて、「余剰資源」を考慮することも有効である。
・余剰資源の活用の例としては、エスティローダーの創業者が着目した裕福な顧客の女性たちの時間であったり、任天堂の横井軍平が着目した出張の新幹線の中で電卓のボタンを押して暇つぶしをするサラリーマンなどがある。

②許容可能な損失の原則
・損失が許容できる限りコミットメントを行うことには、幾つもの利点がある。1つ目は、新しいことを始める心理的ハードルが低くなること。2つ目は、最悪の事態が起こった場合に失うものに対して事前にコミットメントを行うため、成功するかどうかの予測に無駄な労力を費やす必要がなくなったこと。3つ目は、うまくいかなかった場合でも、失敗が致命傷とはならないために、再度別の方法でチャレンジすることが可能になる。
・できるだけ最初の一歩は小さく踏み出せないか工夫をすることで、そのような行動は許容可能な損失の範囲内にとどまりやすくなる。また、許容可能な損失の範囲で行動することである。行動しなかった場合に発生する、機会損失も考慮に入れて判断することが重要である。

④レモネードの原則
・コーゼーションは不確実性の削減を重視し、エフェクチュエーションは偶発性の活用を重視する。予期せぬ事態は不可避的に起こると考え、むしろ起こってしまったそのような事態を前向きに、テコとして活用しようとする思考様式は、レモネードの原則と呼ばれている。
・不確実性には3種類あり、①成功確率がわかっている不確実性、②追加的な情報を収集することで成功確率がわかる不確実性、③成功確率を予測することができない不確実性。
・②の不確実性はコーゼーションによって対応でき、③の計測不可能な真の不確実性はエフェクチュエーションで対応することが望ましい。
・予期せぬ事態をきっかけに成功が生み出された事例は多くある。予期せぬ事態が発生した時点ではそれは不都合な出来事として受け止められるものだったが、そうした欲しくなかったレモンを手にした時に、それを捨てたり見落としたりするのではなく、別の可能性を考えて、新たな行動のための資源として活用することが、偉大な発見やイノベーションのきっかけになる。
・偶然を活用するための4つのステップ。①予期せぬ事態に気づく。②同じ現実に対する見方を変える(リフレーミング)。③予期せぬ事態をきっかけに「手持ちの手段(資源)」を拡張する。④拡張した手持ちの手段(資源)を活用して新たに「何ができるか」を発想する。

③クレイジーキルトの原則
・熟達した起業家の意思決定には、マーケティングリサーチや競合分析を積極的に行わないという明らかな特徴がみられる。彼らは、未だ市場が存在しない新規の事業であるならば、誰が顧客で、誰が競合になるかは、事後的にしか分かりようがないと考え、むしろ交渉可能な人たちと積極的なパートナーシップを求めようとする。こうしたエフェクチュエーションを構成する思考様式をクレイジーキルトのと呼ぶ。
・エフェクチュエーションに基づくパートナーシップの特徴は3つある。1つ目が、自発的な参加者を重視することである。何らかの報酬や強制によって参加するのではなく、パートナーが自ら進んでコミットメントを提供する関係が大切である。2つ目が、パートナーは実際には多様なコミットメントを提供しうる。3つ目は、パートナーは資源だけではなくビジョンをももたらす。
・未来が不確実で予想できないため、と思い描いていた通りには進まないことが多い。一方で、何気ないパートナーとの相互作用が、想像もしなかった展開へとつながる可能性もまた、未来が不確実であるからこそ十分にあると考えることができるのである。

⑤飛行機のパイロットの原則
・飛行機のパイロットの原則とは、コントロール可能な活動に集中し、予測でなくコントロールによって望ましい経過に帰結させることである。
・エフェクチュエーションがとりわけ有効に機能する問題空間には、大きく3つの特徴があると考えられている。第一に、未来の結果に関する確率計算が不可能である「ナイトの不確実性」。第二に、選好が所与でない、もしくは秩序だっていない「目的の曖昧性」。第三に、どの環境要素に注目すべきか、あるいは無視すべきかが不明瞭である「環境の等方性」である。
・コーゼーションとエフェクチュエーションは、どちらか一方があらゆる状況で有効であるわけではなく、両方を状況に応じて使い分けるべきである。それは、エフェクチュエーションとコーゼーションの両方を理解した上で、意図的に切り替える能力が重要である。